次期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定作業を進めている中教審部会は1月20日と23日、審議経過報告に関する関係団体へのヒアリングをオンラインで行った。23日のヒアリングでは、全日本中学校長会(全日中)が「子供たちのウェルビーイングを高めるために、教師のウェルビーイングを確保することが不可欠とあるが、教師の心理的な安全性や精神的なゆとりが保たれるような労働環境の整備が必要だ」と強く要望した。また全国連合小学校長会(全連小)は「家庭との連携を考えていく上で、家庭の役割と責任を明確に示していくことが重要だ。何でも学校や行政が担うという風潮を変えていく必要を強く感じている」と意見を述べた。
全日中の平井邦明会長は今後の教育政策に関する基本的な方針について、「子供たちのウェルビーイングを高めるために、『教師のウェルビーイングを確保することが不可欠』『学校が教師のウェルビーイングを高めることが重要』とあるが、教師の心理的な安全性や精神的なゆとりが保たれるよう、教員定数の見直しなど、教師を支える労働環境の整備ができなければ実現は難しい。教育振興基本計画として、もう一歩踏み込まなければ、単なるお題目となることが危惧される」と指摘。また、「学校が多くのことを抱え込んでおり、現状では示した方向性を実現することはできない。社会全体で、一体感のある施策が必要である」と訴えた。
教育DXについては、「コロナ禍で教育環境が激変する中、オンライン教育や教育データの活用などについて明記することは、今後さらに学校における学びの在り方が大きく変容することを、多くの教育関係者に意識させることにつながる。特に学校現場における教育データの利活用については、力を注いでいく必要があると感じる」と述べた。
さらに「次期教育振興基本計画の指標例(案)」の「学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上」について、「基本施策にある部活動の地域移行は、学校・家庭・地域の連携・協働につながるものであるとともに、これまで曖昧だった中学校における教師の働き方にも直結する。スポーツ庁が設定している3年間の改革推進期間に合わせた指標を設定すべき」と強調した。
最後に、「働き方改革は学校内の努力だけでは限界が見えてきている。国による、各自治体の取り組みを一層推進するような指標の設定と公表方法の工夫が必要だ」と述べた。
全連小の植村洋司常任理事は「教育DXの推進は喫緊の課題。1人1台端末の積極的活用から効果的活用が求められている。より具体的な策の構築が求められており、基本計画に盛り込みたい。また、中長期的な視点で、タブレット端末の買い替えなども含め、国が全面的に予算計上をしていただきたい」と要望。
また、「家庭との連携を考えていく上で、家庭の役割と責任を明確に示していくことは重要だ。『家庭教育への支援』などの言葉もあるが、教育の基盤である家庭が何をすべきか、明確に示すべきではないか。何でも学校や行政が担うという風潮を変えていく必要を強く感じている」と考えを示した。
中教審の吉見俊哉臨時委員(東京大学大学院情報学環教授)は「次期基本方針ではウェルビーイングがキーワードになっているが、実際に小中学校の現場の先生方は、ウェルビーイングの概念をどのように理解しているのか。また、教員間や保護者との間で理解を深めていくためには、どのような方法があると考えているか」と質問。
植村常任理事は「全連小の全国大会などでもウェルビーイングについて研究を深めていこうと進めている。基本計画の中に『日本社会に根差したウェルビーイング』という言葉があるが、そこをさらに詳しく説明していただけると、もっと現場の教員も理解を深められるのではないか」と話した。
また平井会長は「正直、ウェルビーイングについて一人一人の教員が理解できているかというと、そうではないと思う。多忙を極める現場の教員が理解をしていくには、報告書だけでなく、もっと分かりやすくまとまったリーフレットなどを配布してほしい。例えば、以前『キャリア教育』という言葉が入った時も、なかなか浸透しなかった。正しく理解できるための方策を取っていかなければいけないし、学校だけではなく家庭などとも共通認識として持っていなければならない」と述べた。
文科省ではこの審議経過報告案について1月25日まで、パブリックコメントによる意見募集を行っている。