今後10年ほどの国語施策の課題について審議してきた文化庁の文化審議会国語分科会の国語課題小委員会は1月24日、第56回会合をオンラインで開き、主に訓令式とヘボン式の2種類のつづり方が混在しているローマ字表記の問題などを、国語分科会で今後取り組むべき課題として整理した報告素案を検討した。委員からはローマ字のつづり方について、混乱の解消に向けた新たな考え方を示すべきだとする意見が相次いだ。
日本語のローマ字のつづり方を巡っては、1954年に公布された内閣訓令で、例えば「し」を「si」と表記する訓令式を基本とし、「し」を「shi」と表記するヘボン式を「にわかに改め難い事情にある限り」用いるとした内閣告示・内閣訓令に基づき、小学3年生の「国語」でローマ字を学習する際には、訓令式で指導するのを原則としている。しかし、地名などのローマ字表記は現在もヘボン式が一般的であることや、学校教育の中で外国語の学習や情報機器の活用場面が増え、ローマ字のつづり方に混乱が生じている。
こうした経緯を踏まえ、国語課題小委ではこれまで、有識者からのヒアリングなどを実施。報告素案では現行の内閣告示を点検し、ローマ字のつづり方の目的や意義、使い分けなどを整理することが望ましいとした。
その上で、その検討にあたっては、社会生活におけるローマ字使用の実態を広く調査することが不可欠だとしつつ、内閣告示とは異なっていても、すでにルール化されていたり、慣用として定着したりしているものも多くあることから、無用の混乱を引き起こすことのないようにすべきだとした。
この日の議論では、委員の古田徹也東京大学大学院人文社会系研究科准教授が「これまでのヒアリングや委員の皆さんの指摘からも、訓令式とヘボン式それぞれのつづり方の特徴や意義はおおよそ見えてきたようにも思える。今後、大規模な調査を行うとすれば、小委員会で1年間かけて議論して見えてきた見通しをデータに基づいて実証的に示していく、確定させていくということにあるのではないかと思う」と述べた。
その上で「そうやってそれぞれの方式を整理するだけでは、それだけで終わってしまう可能性が高いようにも思える。ローマ字表記自体にはさまざまな表記が混在しているのに足るだけの文化的背景や豊かさがあるとは言えず、あくまで便宜のための人工的な表記という面が強い。異なる表記法が混在している事実自体に何かしらの意義やメリットがあるとは思えない。そうであるならば少なくとも、表記法の統一も視野に入れた検討という目的意識がどこかに入っている必要があるのではないか」と指摘した。
田中牧郎明治大学国際日本学部教授も「現状、ローマ字のつづり方が混乱しているので、その混乱を解消したいというのを前面に出した方が一般的には分かりやすい。『無用の混乱を引き起こすことのないようにすべき』とあるが、検討すると混乱を引き起こすというようにも読めてしまう。そうではなくて、混乱しているから検討しているのだという明確なメッセージを出した方がいい。さまざまな方式が混じっていて、ヘボン式でもいろいろある現状にみんな困っている。特に小学校の先生は困っている。そうしたことを具体的に出した方がいいと思う」と、さらに踏み込んだ内容を求めた。
国語課題小委員会は次回会合まで報告に向けた検討を行い、3月に予定されている国語分科会で、今後取り組むべき課題として取りまとめる方針。