【5類移行】学校が「すぐにはマスク外せない」理由 喜名教授に聞く

【5類移行】学校が「すぐにはマスク外せない」理由 喜名教授に聞く
国士舘大学の喜名教授(昨年4月撮影)。マスク着用を巡り、学校が対応に苦慮する事情を語る
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 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを5類感染症とする検討が、政府で進められている。岸田文雄首相は1月20日、「一般的なマスク着用の考え方などの感染対策の在り方についても見直していくこととなる」と表明。文科省はすでに昨年11月の事務連絡で、「活動場所や活動場面に応じたメリハリのあるマスクの着用が行われる」ことを求めている。一方、東京都の元公立小校長で、国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科の喜名朝博教授は、学校現場でのマスク着用の緩和は「なかなか一気にはいかない」とみる。背景にあるのは、子供や家庭の多様な状況、そして保護者からの意見だ。「各教育委員会には、文科省の方針を踏まえて、明確に方針を打ち出してほしい」と訴える。

非常にナイーブになっている家庭もある

――新型コロナウイルスの5類移行や、学校現場でのマスク着用の緩和が検討されています。実際には、どのような変化が想定されますか。

 すぐにコロナ前の状況に戻ればよいとは思いますが、なかなか一気にはいかないでしょう。すでに国の方針で、屋外にいる時や体育の時をはじめ、活動場面に応じてマスクを外してよいことになっているはずですが、実際には、マスクを外していない子供はたくさんいるわけです。子供本人や保護者の判断に委ねることになるので、教員が「外しましょう」とは言いづらい。

 ですから、5類に移行し、マスク着用が緩和されたとしても、子供本人と保護者の判断に任せるという状況、結果として今まで通りマスクを着用し続けるという状況が、しばらく続くのではないでしょうか。学校としては、「マスクを外してもよい」ということは周知しつつも、「マスクをしたい子はしてもよい」「していないことで不利益があってはいけない」という配慮も続けなければなりません。

――「マスクを外しましょう」と言いづらい理由は。

 「マスクを外しても問題ない」と言い切れるだけの科学的根拠が示されていない中、学校も保護者も、なるべく危険を回避したいという気持ちが働きます。ここで学校が「外しましょう」と言ってしまうと、保護者からさまざまな意見が出てくると思います。やはり学校にとって、保護者からの意見は大きいです。

 とりわけ子供本人や家族に基礎疾患があったり、高齢者と同居していたりと、保護者が非常にナイーブになっていることも考えられます。コロナの感染拡大が始まった当初も、「学校で感染して、家庭に持ち込むのではないか」と心配して、学校を休む子供もいました。音楽の歌唱や鍵盤ハーモニカの演奏などについても、気にする保護者はいます。これはもう、子供の健康や安全に関わることなので、保護者に「うちの子にはマスクをさせます」と言われたら、学校は駄目とは言えません。

 マスクをしたい子は当然、これからもマスクをしていて構わないと思います。ただ、マスク着用の緩和が打ち出されたのに、クラスにそういう子がいるから、クラス全員がマスクをし続けなければいけないとすると、いつまでたっても状況は変わらないでしょう。

教育委員会は明確に方針を示すべき

――長引くコロナ禍で、マスクによる悪影響も出てきています。

 マスクを着用することで一定の感染症対策になるなど、意味はあるのだと思います。ただ、いろいろな場面で支障が出てきているのも確かです。表情が見えないことによるコミュニケーションへの影響のほか、小学校高学年などでは「マスクを外して、素顔を見られることが怖い」と感じる、「マスク依存症」のような傾向も出てきています。

 そういう意味でも、もし国の方針としてマスク着用が緩和された場合、社会全体で「マスクを外してもよい」というムーブメントを作っていくしかないのではないかと感じます。学校だけでどうにかするのには限界があります。

――文科省や教育委員会が、より細かく方針を示すべきでしょうか。

 文科省の「衛生管理マニュアル」は何度も改訂されていて、それを根拠に、学校の教育活動が進められてきたことは確かです。5類への移行が決まり、マスク着用が緩和されれば、文科省もそれを踏まえた方針を打ち出すはずです。ただ、さまざまな立場や意見がある中で、各教育委員会は積極的に「マスクを外しましょう」とは言わないのではないか、と懸念しています。

 各教育委員会には、文科省の方針を踏まえて、明確に「学校ではマスクをしなくてよい」といった方針を表明してほしい。例えば「卒業式には、マスクをする必要はない」とはっきり打ち出してくれれば、学校もそれに倣って対応することができます。それでも心配だという子供が出てくるのは仕方のないことで、その場合は学校が、個別に判断をしていけばよいと思います。

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