【5類移行】養護教諭が考える 安心安全な学校の大原則

【5類移行】養護教諭が考える 安心安全な学校の大原則
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 5月8日に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ5類感染症に引き下げることで、学校現場の感染防止対策も変わっていくことが想定される。マスクの着脱などで難しい判断を迫られることも考えられる中、5類引き下げをどのように軟着陸させればいいのか。最前線で対応してきた養護教諭の声を取材すると、5類に引き下げられても、どの子も安心・安全に過ごせる学校を目指すという大原則が浮かび上がってきた。

学校の実態に応じた柔軟な対応が求められる

柔軟に現場で対応することが求められると話す佐藤養護教諭
柔軟に現場で対応することが求められると話す佐藤養護教諭

 電車やバスを利用してさまざまな地域から児童が通学してくる東京学芸大学附属小金井小学校の佐藤牧子養護教諭は、5類引き下げ後の児童のマスクの着用について「一律にマスクを外していいともならないのではないか。心配しているのは電車やバスの車内で児童がマスクを外してついおしゃべりに夢中になったり、突然せきこんでしまったりすることだ。周囲の人にどういう目で見られるかが心配だ。子どもは臨機応変に対応するのが難しいだけに、傷付いたり、うまく対応できなくて迷惑を掛けたりしてしまうかもしれない」と懸念。

 「逆に、基礎疾患のある人や高齢者が一緒に暮らしていて、5類に引き下げとなっても、不安に感じる家庭もある。自分だけがマスクをしていて周囲がしていないことで、心理的な負担を感じてしまう場面もあるかもしれない。少数派の意見は上がりにくいので、そういう目に見えないつらさや困り感に対して、アンテナを高くしないといけない。いろいろなケースや考え方があることを子どもたちにも伝えなければ」と気を引き締める。

 5類引き下げにより、これまで行ってきた感染対策の見直しを検討することも考えなければならない。「コロナに限らず、感染症や食中毒を防ぐために手洗いは引き続き指導したいが、消毒は手洗いが十分にできないときの代替手段で、そこまで一律に求めることはなくなるかもしれない。しかし、出入り口に消毒液を置き、いつでも使えるようにすることは続くのではないか」と佐藤教諭。

 その一方で「本校では体温測定を前日夜と当日朝に各家庭にお願いしてきたが、どこの家庭も朝は忙しい。かといって、体温や体調のデータがないと、学校で急に熱が出たときに、各担任の負担や判断基準のぶれが生じるかもしれない。よりどころは文科省の『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル』になるが、各学校の実態に応じて、柔軟に対応していくことが求められるようになるのではないかと予想している」と話す。

教職員全体で対策を共有しながら、学校生活を考えて

 肢体不自由教育部門と病弱教育部門があり、基礎疾患のある子どもが多く在籍している特別支援学校の東京都立光明学園では、これまでも手洗いや消毒、換気の徹底に加え、職員が身体接触を伴う介助をした際は必ず手洗い・手指消毒を行うことや、少しでも子どもに発熱があれば、校内に個室を確保して介助者も固定して対応するなど、感染防止対策に細心の注意を払ってきた。

光明学園で活用されている二酸化炭素濃度計
光明学園で活用されている二酸化炭素濃度計

 「介助の際はどうしても身体接触が多くなる。顔と顔の距離が近くなり、声掛けもしながら行うことになる。5類に引き下げになっても感染者の数が劇的に変わったわけではない。一定の条件を付けるにしても、引き続きマスクの着用は必要だと考えている」と同校の髙木惟可養護教諭。

 同じく同校に勤務する岸野優香養護教諭も「世間的にはマスクを外すことが一般的になるかもしれないが、同じレベルにすることは難しい。学習活動の中では、教育的意義を踏まえて、もしかしたら他学年との交流が復活するといったことがあるかもしれないが、物品消毒やマスクの着用、体調不良者への早めの対応など、現在行っている基本的な感染症対策は引き続き行っていく可能性が高いのではないか」とみる。

 ポイントになるのは学校全体での高い意識の共有だ。岸野養護教諭は「今までは学校行事などが制限されてきた。これから少しずつそうした機会が増えていくと、子どもたちも楽しんだり頑張ったりする場面が増えて、学校生活がより充実したものになると期待している。ただ、対策を緩和して子どもたちにプラスになる部分と、必要な感染症対策の間でどう均衡を取っていくかの判断は難しい。さまざまな活動の中でどんな対策が必要かを教職員全体で共有しながら、学校生活を考えていく必要がある」と強調。

 髙木養護教諭は国に求めることとして「今は距離を取って換気してあればマスクを外してよいという目安がしっかりあり、共有もしやすい。これが緩められたとしても、『ここだけは押さえておこう』ということを示してもらえると、それを根拠にして校内で適切なルールや工夫を考えることができる。保護者に対策を説明する上でも、こうした根拠があると理解を得られやすい」と、根拠を国が明確に打ち出すことで、学校としても一定の方針の下で安全な活動ができるようになると話す。

お互いを認め合い、それぞれの判断を尊重し合える学校に

 「5類引き下げのタイミングが4月になるのだけは絶対にやめてほしいと思っていた。5月8日になって、ほっとしている」

 そう話すのは、九州・沖縄地方の私立中高一貫校に勤務している養護教諭。年度はじめの4月は、身体測定や内科検診、歯科検診などのスケジュールがめじろ押しで、そこに5類引き下げの対応が業務としてはいったら仕事が回らなくなってしまうからだ。「5月8日も連休明けなので、例年、不登校傾向の子どもが増える時期。そうした子どもへのフォローもしなければいけないし、できれば検診が落ち着く6月末くらいだと助かったが、それでも4月からになるよりはよかった」と胸をなでおろす。

 「保健体育」の授業や部活動で運動するときは、熱中症対策のためにマスクを外すように声を掛けているが、外そうとしない生徒は一定数いるという。「この子たちのマスクを外せないという気持ちも大事にしないといけない。周りからマスクを外すように強制されないことで安心して学校に来られるということもある。給食でも、しゃべりたい子もいれば、静かに食べたい子もいるだろう。いろいろな価値観の子どもがお互いを認め合い、それぞれの判断を尊重し合えるようにするにはどうすればいいかを、子どもたち自身が考える機会になれば」と話す。

 文科省に求めたいのは、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」の改訂だ。「マニュアルは22年4月から更新されていない。5類に引き下げるのであれば、マニュアルも改訂し、なぜ今回5類に引き下げ、どのような変更を行うのか、きちんと科学的な根拠を踏まえて、子どもたちにも説明できるような内容を示してほしい」と注文する。

続けるべき感染防止対策の再確認を

 学校保健が専門の埼玉大学の戸部秀之教授は、5類引き下げによって学級閉鎖の基準や出席停止の扱いなど、これまで行われてきたさまざまな対応が変わる可能性があるが、一気に変えると混乱が生じると話す。

続ける必要のある対策を学校で再確認すべきだと指摘する戸部教授(本人提供)
続ける必要のある対策を学校で再確認すべきだと指摘する戸部教授(本人提供)

 「学校現場としては教育委員会や文科省が統一的に決めてほしいと思うだろう。保護者の間でも意見が割れている中で対応しなければいけない学校現場は大変だ。おそらく5類になると、学校で行われている給食時の対応やマスクの着用、学校行事のやり方など、さまざまなことが学校ごとの判断になる可能性がある」と戸部教授。5類引き下げ後、学校がどのように対応を変えていくか、タイミングもやり方も慎重に考えていく必要があると呼び掛ける。

 加えて戸部教授は、5類引き下げによって学校現場のコロナ対策への意識が一気に緩んでしまうことを懸念する。「気持ちが離れて感染防止対策への意識が低下するのが危ない。手洗いや換気など、今後も続けていかなければいけないことは、『もう一度これはしっかりやろう』と養護教諭を中心に子どもたちや教職員が再確認するようにしてほしい。ポストコロナであっても、コロナ禍の経験で残すべきことは残さなければ」と強調。「コロナ禍で手洗いを徹底した結果、インフルエンザによる学級閉鎖はかなり減ったという効果もみられた。こうした根拠も含めて、養護教諭は教職員に必要な感染防止対策の継続を伝えてほしい」とアドバイスする。

 さらに戸部教授は、養護教諭からは登校渋りやイライラ、友人との関係づくり・コミュニケーションなど、心の問題を抱えている子どもが増えているといった声があるとし、「コロナ以前からあった子どもの心の問題がコロナ禍で一層進んだといえる。マスクの着用をどう指導するかといったことについ目が行きがちだが、それだけではない」と、学校現場として中長期的な視点で子どもたちの心の問題に当たっていく必要を話す。

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