文科省は2月7日、犯罪行為として取り扱われるべきものなど重大ないじめ事案について、直ちに警察に相談・通報を行い、適切な援助を求めることとする通知を、都道府県・政令市教委などに向けて発出した。「いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議」や、文科省が設置する「いじめ防止対策協議会」での検討を踏まえたもの。通知では他にも、学校と警察との間で日常的な情報共有体制を作ることや、被害・加害児童生徒への対応を充実させることについても盛り込み、「いじめを決して許さず、被害児童生徒を徹底して守り通すという断固たる決意で、全力を尽くすことが必要」と強調した。永岡桂子文科相は同日の閣議後会見で「引き続き、こども家庭庁設立準備室をはじめとする関係府省と緊密に連携をしつつ、いじめ対策の取り組みの強化に努める」と述べた。
今回の通知では、生命や心身などに被害が生じる重大ないじめや、犯罪行為として取り扱われるべきいじめについて、「直ちに警察に相談・通報を行い、適切に援助を求めなければならない」と指摘した。近年はインターネット上のいじめが増加しており、とりわけ児童ポルノ関連のいじめは匿名性が高く拡散しやすいことから、一刻も早い連携を求めた。
また、「これまで、ややもすれば、こうした事案も生徒指導の範囲内と捉えて学校で対応し、警察に相談・通報することをためらっているとの指摘もされてきた」としながらも、「児童生徒の命や安全を守ることを最優先に、こうした考え方を改め」なければならないとしたほか、保護者などに対してあらかじめ周知しておくことも求めた。
同時に、学校で起こりうるいじめのうち、警察に相談・通報すべきものを具体的に例示。「ゲームや悪ふざけと称して、繰り返し同級生を殴ったり、蹴ったりする(暴行)」、「度胸試しやゲームと称して、無理やり危険な行為や恥ずかしい行為をさせる(強要)」、「スマートフォンで自身の性器や下着姿などの写真・動画を撮影して送るよう指示し、自身のスマートフォンに送らせる(児童ポルノ)」――などを挙げた。
加えて、学校では犯罪行為として取り扱うべきかの判断が難しいケースに備え、学校と警察との間で、日常的な情報共有体制を作ることが重要だと指摘。犯罪行為には当たらなくても、警察による注意が効果的だと考えられるケースについても警察に報告するなど、警察との連絡対象となる範囲を見直すことや、学校・警察の両方に、連絡窓口となる担当職員を必ず指定することなどを求めた。
通知では他にも、被害児童生徒への支援や加害児童生徒への指導・支援の充実についても求めた。被害児童生徒に対しては、親しい友人や教職員、家族、地域の人など、信頼できる人と連携して対応することで、いじめの再発や不登校、自殺などの二次的な問題の発生を防ぎ、傷ついた心のケアを行うことが重要だと指摘。「被害児童生徒にも責任があるという考え方はあってはならず、『あなたが悪いのではない』ことをはっきりと伝えるなど、自尊感情を高めるよう留意すること」とした。
一方、加害児童生徒に対しては「いじめを行う背景として、心理的ストレス、集団内の異質なものへの嫌悪感情などが考えられ」ると指摘。スクールカウンセラー(SC)・スクールソーシャルワーカー(SSW)と連携しながら、こうした背景や加害児童生徒が抱える課題を把握した上で、「教育的配慮の下、毅然とした態度で指導・対応を行い、自らの行為を反省させることが必要」だとした。
さらに、被害児童生徒の保護者には「家庭訪問などにより、その日のうちに事実関係を伝えるとともに、被害児童生徒を徹底して守り通すことを伝え、できる限り不安を除去し、学校の今後の対応について合意形成を図る」、加害児童生徒の保護者には「迅速に保護者に連絡し、いじめの事実を正確に説明する」とした。
加害者の指導・支援に当たっては、保護者との信頼関係の重要性を指摘。特にインターネット上のいじめでは、契約者である保護者の協力が不可欠であるとした。信頼関係を作ることが困難な場合は、「スクールロイヤーやスクールサポーターなどが保護者への説明を行うことで、膠着状態が改善することもあるため、状況に応じて活用すること」とした。
文科省の調査によれば、2021年度の学校でのいじめの認知件数は61万5351件(前年度比9万8188件増)、重大事態の発生件数は705件(同191件増)。いじめの内容では「パソコンや携帯電話などで、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」の件数が増加傾向にある。