自民党の教育・人材力強化調査会(会長=柴山昌彦衆議院議員・元文科相)は2月16日、グローバル人材の育成に関する提言をまとめ、永岡桂子文科相に手渡した。提言では、「国家戦略として真のグローバル人材の育成を進める必要がある」とした上で、初等中等教育段階から「豊かな語学力・コミュニケーション能力を身に付け、 広い視野をもって主体的に挑戦し、新たな価値を生み出す人材」の育成が急務だと強調した。具体的には、英語教員の研修の充実、教員養成段階の留学や採用後の海外経験機会の拡充、デジタルを活用した英語4技能のパフォーマンステストの実施促進など「初等中等教育段階における徹底した英語教育・国際理解教育の推進」を求めた。また、留学を経済面で支援するため、給付型奨学金に必要な基金の設立を打ち出した。
グローバル人材の育成については現在、政府の教育未来創造会議が今春にまとめる第2次提言に向けて議論を進めている。永岡文科相との面会後、記者団の取材に応じた柴山氏は「自民党内ではこの問題について高い意識を持っているので、(提言内容を)ある程度ハードルを高いものにして、政府の教育未来創造会議の議論に反映させたいと考えている。このため、若干尖った内容の提言をまとめた」と述べた。
この提言には「内向き思考からの脱却・日本を選ばれる国に」との副題が付けられている。これについて柴山氏は「海外留学に対する熱意が日本の学生たちに、あまり感じられないというデータが出ている。こうした内向き思考から脱却して、人材の多様化や先端的な人材の育成に取り組まなければいけない。逆に、海外から日本に来る人については、日本が行きたい国、学びたい国として選ばれるための戦略を立てなければいけない。こうした思いを副題とした」と、狙いを説明した。
提言の総論部分では「国家戦略として、わが国の成長・発展、すなわち国益に資する真のグローバル人材の育成を進める必要がある」と指摘。そのためには「わが国の伝統や文化を理解し、海外への留学経験などを通じて、多様な文化や価値観に触れながら、豊かな語学力・コミュニケーション能力を身に付け、 広い視野をもって主体的に挑戦し、新たな価値を生み出す人材を初等中等教育段階から育成していくことが急務である」と、内向き思考から脱却するためには小中学校の段階から取り組みが必要になることを強調した。
一方で、海外から日本に来る人について「急激な人口減少や少子高齢化が進展するわが国においては、 高度な外国人材の確保も必要不可欠だ。 世界から集う外国人留学生はわが国の今後の発展の立役者になり得る」と指摘し、こうした外国人材の受け入れを強く推進する必要を訴えた。具体的な対応として、日本が今年G7議長国であることを踏まえ、「G7諸国との大学・学生交流の一層の推進について発信し、 各国の大学間の相互交流協定の締結などの取り組みを進めていくことを求めたい」とした。
また、内向き志向から脱却し、国際交流の抜本的な強化を実現するために、政府に対して「高めの目標 (KPI)を設定し、その進捗(しんちょく)管理を行うことが必要」と求めた。
各論では、「海外留学にチャレンジする機運を醸成する」ために、初等中等教育段階での「徹底した英語教育・国際理解教育の推進」を打ち出した。実施すべき具体的な取り組みには▽英語教員の指導力強化のための研修の充実▽教員養成段階の留学や採用後の海外経験機会の拡充▽国際バカロレアの普及促進▽デジタルを活用した英語4技能のパフォーマンステストの実施促進▽オンラインを活用した国際交流の推進▽高等学校段階におけるグローバル人材育成に資する拠点校の整備--を挙げた。
また、留学を希望する若者への経済面へのバックアップが必要だとして、「海外に安心して留学するために給付する奨学金に必要な基金の設立」を明記。こうした経済的な支援によって、「海外での学位取得や単位認定を伴う中長期留学の促進」「修士・博士人材の育成強化」につなげることを掲げた。
柴山氏によると、永岡文科相はこの提言について「非常に的確なタイミングであり、充実した内容」と評価。その上で、「若年の段階からのグローバル化が重要」と指摘するとともに、「先進国の賃金水準が上がって日本に人材を呼び込むことが困難になっている中、大学間の協定や基金の設置などによって、先端的で共通の価値観を持つ人材を日本に呼び込み、定着させていく必要がある」との見方を示したという。
初等中等教育段階での英語教育や国際理解教育を支える英語教員の在り方について、柴山氏は「英語教員のキャリアパスを強化していく必要がある」と指摘。「海外留学にチャレンジする機運を醸成するためには、生徒のみならず、後押しをしてくれる家族あるいは教員でなければいけない。そのためには、教員自身が生きた海外の状況について堪能である必要があり、英語教員の指導力強化は極めて重要になる。オンラインを含めた研修を教員に提供していくとともに、留学した教員をしっかりと評価をする仕組みも必要になってくると考えている」と述べた。