大学生が考える「未来の学校」の姿とは――。日本教育学会は2月22日、大学生と教育学者が学校教育の未来について対話するオンラインイベントを開いた。全国の大学生から募集した「未来の学校」の姿を表現したキーフレーズ(キャッチコピー)の中から、優秀賞に輝いた3組計6人の大学生と、さまざまな専門分野の教育学者が、教育学の奥深さを語り合った。
大学生や高校生などの若い世代をターゲットにした初めての試みとして、同学会では昨年9月から、大学生がペアで「未来の学校」の姿を表したキャッチコピーやその具体的構想を募集。応募のあった21組の作品を審査し、この日のオンラインイベントで優秀賞として3組を表彰した。
その中の一つ「地球学校に通おう!~つながりを広げて~」というキャッチコピーを打ち出した椙山女学園大学の渡邉のぞみさんと山田智絵さんは、ともに4年生で、4月から小学校の教員になるという。渡邉さんらは学校を学校内で完結するのではなく、さまざまなつながりを広げて、いろいろな国の人々が一緒に地球規模の問題を解決するために話し合う場として描いた。
4月からの教員生活で、地球学校の実現に向けてどのような実践を意識したいか尋ねると、「今はいろんな映像や写真を、パソコンやタブレットで一人一人見ることができる。世界で起きていること、地球で起きていることを身近に感じてもらうためにも、ICTを駆使して、子どもが身近な問題として知ることができるような授業の工夫は、初任の私でもできると思う。地球とのつながりを深めていく子どもたちを育てていきたい」と山田さん。
渡邉さんは、故郷では学校と地域のつながりが徐々に薄れてきていると指摘した上で、「(地域とつながった学びを)今の子どもたちに体験させてあげられないのは悲しい。人とつながるのは楽しいということを、もっと教員として伝えていきたい。初任で何ができるか分からないけれど、学校を飛び出すことを最初のステップにしたい」と意気込んでいた。
また、お茶の水女子大学2年生の近藤真鈴さんと髙橋芽唯さんは、「公共性の未来保障―公共的な知の伝達を実現する場としての学校」をキャッチコピーとして提案。多様化し、さまざまな問題が複雑に入り組んだ社会の中で、個人が社会に参画していくために、学校教育は、市民主導で公共的な主体を育成する場を保障する役割を担うべきだと強調した。
このキャッチコピーに至った経緯について、近藤さんは「教育の文脈だとシティズンシップ教育にもともと関心があり、哲学や倫理も好きで、それと教育が密接に絡んでいる領域に興味があった。公共性の未来保障と銘打った理由は、学校が今、いろいろ批判される中にあっても、まだやれることがあると思っていて、学校の中で公共性を育んでいくにはどうしていくべきかを話し合っていった」と説明した。
教育学を専攻していない大学生の作品も優秀賞に選ばれた。北海道大学4年生の亀井宏之介さんと、学習院大学4年の亀井詩乃さんは、「『教育のその先が広がる』社会コミュニティのプラットフォーム」というキャッチコピーを発表。宏之介さんは自身が大学受験で苦労する中で気付いたこととして「いい高校、いい大学、いい企業に就職することに注力しがちになり、『なぜ』を問うことをないがしろにしてきた」と問題提起。「『なぜ』の答えである目的が、原体験が、教育のその先を、すなわち、今の教育と自分の将来の可能性をつなぐキーワードであるはずだ。それならば、視野狭窄(きょうさく)に陥りがちな学生自身に必要なこととは、教育のその先にある将来の可能性を日常的に意識できる環境、原体験が生まれる環境ではないか」と語り、社会人や地域の人によるさまざまなコミュニティーを学校が内包し、子どもたちが参加しやすい仕組みをつくる必要性を呼び掛けた。
これら3組の優秀賞のプレゼンテーションの後、大学生と参加した教育学者らはグループに分かれ、教育学ではこのキャッチコピーをどのように捉えるべきかを議論した。対話を終えて、大学では経済学を専攻しているという亀井詩乃さんは「すごく勉強になったことが多かった。私が教育について友達と話すときは、愚痴を言うような感覚になりがちで、改めて問題意識として深く考えることはなかった。今日の対話で、自分も問題意識を持っていいし、自分から訴えていいんだと実感した」と振り返った。
教育社会学に興味があるという髙橋さんは「対話の重要性を改めて感じた。同じ大学の中で教育を勉強している友達や先輩・後輩と話す機会はたくさんあるし、議論もたくさんするけれど、同じ先生から同じ講義を聞いていることもあってか、同じような意見に行きついてしまうことがある。他の大学で全然違うことを学んでいる人の意見を聞くと、自分が考えていることをより発展させたり、自分が気付いていないところに気付かされたりする」と話した。
同学会広報委員会副委員長の平井悠介筑波大学准教授はキャッチコピーの応募要件を2人一組としたことについて、「今回のテーマでもある対話を重視したかった。共通のテーマでお互いに論じ合っても、切り口が違うことがある。そういった一つのテーマをチームで考えることで、化学反応が起こることに期待した」と解説。「今日のディスカッションを聞きながら、その効果はあったとうれしく思った」と、今回の企画に手応えを感じていた。