次期教育振興基本計画の答申案まとまる 年度内に総会報告へ

次期教育振興基本計画の答申案まとまる 年度内に総会報告へ
オンラインで行われた最終回会合(YouTubeで取材)
【協賛企画】
広 告

 来年度からの次期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定に向けた検討を進めてきた、中教審の教育振興基本計画部会は2月24日、最終回となる第14回会合で、答申案について議論を行った。「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2つをコンセプトとし、5つの基本方針、16の教育政策の目標が盛り込まれた。この答申案は年度内に開かれる中教審総会で報告され、取りまとめが行われる予定。

答申案のコンセプト・基本方針・政策目標

 次期計画のコンセプトには「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」が掲げられ、「将来の予測が困難な時代において、未来に向けて自らが社会の創り手となり、課題解決などを通じて、持続可能な社会を維持・発展させていく」「Society5.0で活躍する、主体性、リーダーシップ、創造力、課題発見・解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材の育成」などを目指すことが示された。

 同じく「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」も盛り込まれ、その概念について「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること。短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念」と説明。「幸福感、学校や地域でのつながり、利他性、協働性、自己肯定感、自己実現などが含まれ、協調的要素と獲得的要素を調和的・一体的に育む」などとされた。

 今後の教育政策に関する基本的な方針としては▽グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成▽誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進▽地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進▽教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進▽計画の実効性確保のための基盤整備・対話――の5つが挙げられた。

 今後5年間の教育政策の目標には▽1. 確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成▽2. 豊かな心の育成▽3. 健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成▽4. グローバル社会における人材育成▽5. イノベーションを担う人材育成▽6. 主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成▽7. 多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂▽8. 生涯学び、活躍できる環境整備▽9. 学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上▽10. 地域コミュニティの基盤を支える社会教育の推進▽11. 教育DXの推進・デジタル人材の育成▽12. 指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化▽13. 経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保▽14. NPO・企業・地域団体等との連携・協働▽15. 安全・安心で質の高い教育研究環境の整備、児童生徒等の安全確保▽16. 各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ――の16項目が盛り込まれた。

委員からは「ウェルビーイング」を評価する声

 前回提示された答申素案からの主な修正点として、こども政策との連携について「こども家庭庁における、就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)の策定、こどもの居場所づくりに関する指針(仮称)の策定、第三者性の確保や重大事態への対応改善などのいじめの防止対策の体制強化、こどもや若者から直接意見を聴く仕組みづくりなどとの連携」といった具体的な注記が加えられた。

 また、高校の定時制課程・通信制課程の質の確保・向上について「多様性への対応を図る」と加筆されたほか、目標7の「多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂」では、指標例として「小・中学校、高校などに採用後、おおむね10年目までの期間内において、特別支援学級の教師や、特別支援学校の教師を複数年経験した教師の割合の増加」が加えられた。

 今回の答申案について、委員からは評価する声が多く寄せられた。内田由紀子委員(京都大学人と社会の未来研究院教授)は「あえてこのウェルビーイングという、説明の必要な言葉を使って、だけれども、だからこそ教育現場の中でうまく浸透させていくことで、本当に絵に描いた餅にならないように、一人一人のウェルビーイングを追い掛けられるような教育現場作りをしていくのだという方向に、しっかりとルートができていったことは本当に重要なことだと思う」と述べた。

 また黒沢正明委員(東京都八王子市立高尾山学園校長)は「不登校特例校の校長をやっていて子供たちを見ると、ウェルビーイングからはとても遠い位置にいるように見える子がとても多い。次年度以降も継続して、いろいろな意見や実践事例を集めながら、継続的に支援を手厚くしていく、考え方をアップデートしていくことが求められる」と要望した。

 岩本悠臨時委員(地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)は「この計画における宿題は教育投資の話。計画はできたがリソースはない、足りないという中で、国民の理解や寄付などの促進が(必要で)あると思う。本当の意味でムーブメントを起こしていき、次の計画を作るときにはさらなる教育投資について、社会全体の合意の下で進んでいくよう、今からでも具体的な戦略や方策についての議論を進めてほしい」と語った。

 渡邉光一郎部会長( 第一生命ホールディングス株式会社取締役会長、日本経済団体連合会副会長)は「今の世界情勢を見るときに、非常に歴史的な節目にわれわれは立っているのだろうと思う。まさしく、われわれはVUCAの時代のその節目に、基本計画を審議した。(現行の)第3期の教育振興基本計画の期間は、未来志向型の教育部の政策の検討期間であり、今回まとめた答申の内容は、ある意味ではその集大成の内容になったのではないか」と振り返った。

 今回の答申案は、来月予定されている中教審総会での審議を経た上で取りまとめが行われ、次いで政府内で閣議決定に向けた検討が行われる。今回議論された答申案の詳細は、文科省のウェブサイトで閲覧できる。

広 告
広 告