教員の処遇や勤務制度を巡る論点整理に取り組んでいる文科省の調査研究会は2月24日、第3回会合を開き、給特法の見直しに向けた議論の出発点について、公立学校教員の働き方と労働法を専門とする川田琢之委員(筑波大学ビジネスサイエンス系教授)が法的な観点も踏まえた見直しの考え方を説明した。川田氏は、給特法が給与を4%上乗せする教職調整額について「勤務時間の内外を区別しないような払い方をすると、勤務時間外の教員の活動に歯止めがかかりにくくなり、勤務負担を重くすることにつながる。この問題への配慮が必要」と指摘。教職調整額の代わりに教員に時間外手当を支払わない現在の給特法の枠組みが、教員の長時間勤務の温床になってきた可能性があることを示唆しながら、「教員の職責や勤務態様の特性について考え方を深める必要がある」と強調した。また、給特法が定める超勤4項目以外の時間外勤務については、労働法規に照らして応分の手当が必要になるとの見解を表明した。
川田氏はまず、給特法の教職調整額について「4%という水準が適正か」「勤務負担に応じた差を設ける」「現在の仕組みを根本的に改めて割増賃金に移行する」などとさまざまな議論が出ていることから、「考え方が錯綜(さくそう)している面があるので、整理しておく必要がある」と指摘。現在の教職調整額の考え方について、制定時に当時の勤務実態調査に基づく時間外勤務の時間数に応じた形で4%の数値が定められたことから「時間外勤務の対価とみられる面がある」とする一方、給特法の規定では各種手当へのはね返りが行われることなどから「基本的には勤務時間の内外を通じた教員の勤務の対価という性質を持つものとして、制度設計がされているものと考えられる」と整理した。
次に、教職調整額に関する労働法からの視点として、「基本になる考え方として、賃金と労働の対価の関係をどういう形で設定するかについては、ある程度自由な取り決めが当事者間ではありうる」と説明。勤務時間に比例して賃金を定める場合もあれば、勤務時間の内外を通じた労働を一体としてみて、その対価という形で賃金を定める場合もあるとしながら、「教員の職責とか勤務対応を踏まえると、勤務時間の内外を通じて、教員の勤務を全体として捉えてその対価として給与を払うことも一つの選択肢としてはある」と述べ、現在の給特法のような考え方も今後の選択肢となりうるとの見方を示した。
ただ、現行の給特法が定めている教職調整額については、労働基準法の下で職種によって認められているいくつか特例措置に比べて「抽象的」と批判。「調整額の趣旨にもなっている教員の職責・勤務態様の特性について考え方を深める必要がある」と述べ、仮に教職調整額の設定を続けるとしても、教員の特性に合わせて考え方を整理し直すべきだとの見方を示した。
具体的には「現在、教員の勤務の特性として挙げられている自発性・創造性という言葉は、かなり抽象的であって、労働基準法における一般的な(特例措置の)取り扱いと大きく異なる点がある。少なくとも今日においては説明不足と思われる」と指摘。労働基準法の下で特例を適用する場合には▽特例を適用した方がより適切な働き方ができるというような状況があるのかどうか▽労働基準法の規制が本来目指していた労働者の健康確保といった保護が不十分にならないかどうか▽割増賃金の規制が外れることになる場合には、それに見合った賃金処遇が十分と言えるか--といった点を検討すべきだとした。
川田氏はまた、給特法が定める超勤4項目とそれ以外の時間外勤務についても、論点整理が必要との考えを示した。まず、超勤4項目以外の時間外勤務が学校現場で日常的に行われている現状について、これまでの関連する訴訟の判例など踏まえ、「現在の給特法は超勤4項目に当たらない正規の勤務時間外に行われる教員の活動については、自発性・創造性を発揮して行われる教員の勤務の特殊性に基づいて行われる活動で、それが給特法における『勤務させた場合』に当たらないということで、給特法上は問題ないとの整理をしているのではないか。このこと自体の考え方の妥当性は問題になる」と指摘。
その上で「こうした問題が生じる根底にある概念を整理する必要性を論点として提起したい」と述べた。具体的には「超勤4項目以外で、教員が正規の時間外に行っている活動について、現行法上あいまいなところはある。そのあたりの法的な位置付けを整理する必要がある」として、「労働基準法の方に近づけて整理する考え方」をするか、あるいは「公立学校教員の制度を労働基準法との関係で特例に当たるという視点が、より明確になるように整理する」のどちらかが必要だとした。
こうした超勤4項目以外の時間外勤務については「給特法の勤務時間に該当しないけれども、教員にとって勤務負担になっていると思われるようなものがある場合には、何らかの手当が必要だと思われる。そういう時間をどう捉えるかという概要を明らかにすることが課題になる」と述べ、時間外勤務の時間数に応じた手当の支給が必要になるとの見解を表明。「特に給特法以降に発展した労働法制あるいは労働法理論に照らすと、超勤4項目以外の教員が勤務時間外に行う時間も、労基法との関係で労働時間に該当する可能性がそれなりに高いようなものも結構あるのではないかという状況が生じている」と続け、超勤4項目以外の教員の時間外勤務について概念整理が必要との考えを強調した。
川田氏は、教員の勤務時間管理も給特法見直しの論点になるとして、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関する指針との関係も含め、勤務時間のできるだけ客観的な把握と、それに応じた負担軽減策が重要になる。その際には、上述の時間外勤務の概念の整理が必要になる」と指摘。また、教員の健康確保について「全体的に民間企業の労働法制、民間部門の労働法制もある程度参考になりうる。健康確保については上限指針の実効性確保と並んで、さまざまな教員の勤務の特性に応じた健康確保措置を考えることも論点になりうる」と述べた。
超勤4項目は、①校外実習その他生徒の実習に関する業務②修学旅行その他学校の行事に関する業務③職員会議に関する業務④非常災害の場合、児童または生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務――の4つ。給特法では、公立学校の教員に対しては原則として時間外勤務を命じないとされており、例外的に時間外勤務をさせる場合として、この「超勤4項目」が定められている。