2022年の児童生徒の自殺者数が512人と過去最多となり、文科省は2月28日、児童生徒の不安や悩みの早期発見など自殺予防の取り組みを求める通知を都道府県・政令市などの教育委員会に出した。具体的には、長期休業明けの時期に自殺が増加する傾向があることを踏まえ、長期休業前のアンケート調査や教育相談の実施、1人1台端末を使った心身の状況把握などに取り組むほか、保護者に長期休業中の家庭における見守りを促すことを学校現場に求めた。政府は昨年10月に閣議決定した自殺総合対策大綱で、3月を「自殺対策強化月間」と定めている。
厚労省自殺対策推進室が警察庁の自殺統計に基づいて今年2月にまとめた暫定値によると、22年の児童生徒の自殺者数は小学生17人、中学生143人、高校生352人で、合計512人だった。これは新型コロナウイルス感染症が広がる中で児童生徒の自殺者数が急増した20年の499人を上回り、過去最多となった。
こうした22年の状況について、通知では「特に、男子高校生の自殺者数が前年に比べて38人増加するなど、極めて憂慮すべき状況にある」と指摘。自殺の原因や動機については、21年の警察庁の調査から「学業不振や入試の悩みなどが多くなっていることが分かっている」と説明した。
具体的な自殺予防対策としては、▽学校における早期発見に向けた取り組み▽保護者に対する家庭における見守りの促進▽学校内外における集中的な見守り活動--などを求めている。
学校における早期発見に向けた取り組みでは、「長期休業の開始前からアンケート調査、教育相談などを実施するとともに、一人一人に対して面談を行うなど、悩みや困難を抱える児童生徒の早期発見に努めること」を第一に掲げた。その際に「児童生徒が不安や悩みを抱えたときに相談できる信頼できる大人が身近にいるかどうかを確認するとともに、相談窓口の電話番号等の情報を児童生徒に伝えること」も求めている。
自殺の背景の一つに精神疾患が挙げられていることから、学級担任や養護教諭による健康観察や健康相談のほか、スクールカウンセラー(SC)による支援や、スクールソーシャルワーカー(SSW)から医療機関につなぐなど「心の健康問題への対応を徹底すること」も指摘した。
悩みや困難を抱える児童生徒や、いじめを受けたり不登校となったりしている児童生徒に対しては、自殺者が増える傾向がある長期休業明けの時期に備え、「特に、長期休業の終了前においては、当該児童生徒の心身の状況の変化の有無について注意し、児童生徒に自殺を企図する兆候がみられた場合には、特定の教職員で抱え込まず、保護者、医療機関等と連携しながら組織的に対応すること」と明記し、学級担任ら一部の教員に任せきりにしないことも求めている。
また、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末の活用については「一部の学校では、アプリを通じて悩みや不安を気軽に発信できる体制を整備するなど児童生徒の心身の状況の把握や教育相談に活用」していると好事例があることを紹介しながら、自殺リスクの早期把握に積極的に取り組むことを促した。
保護者に対する家庭における見守りの促進では、長期休業期間中に家庭での児童生徒の見守りを保護者に促すことを求めた。保護者が児童生徒の悩みや変化を把握したときに学校に積極的に相談することを促し、その際の学校の相談窓口を事前に保護者に周知しておくことも指摘している。
学校内外における集中的な見守り活動では、長期休業明けの前後に、学校が保護者や地域住民、関係機関と連携して、学校における児童生徒への見守り活動を強化することを求めている。
また、高校生の自殺者数が増えていることから、都道府県・政令市の高校に自殺予防の取り組みについてアンケートを行うことも通知した。22年中に自殺事案が発生した高校で、その後講じた再発防止策についても質問している。
永岡桂子文科相は2月28日の閣議後会見で、「児童生徒が自ら命を絶つことがあってはならない。22年の児童生徒の自殺者数が512人となり、過去最多となってしまったことは憂慮すべき状況と考えており、大変重く受け止めている。児童生徒や学生らの皆さんには、悩みや不安を抱え、孤独感を感じていても、決して1人ではなく、私をはじめとする味方になってくれる大人は必ずいるということを知っていただきたい。保護者や学校関係者の皆さんには、児童生徒の態度に表れる微妙なサインに注意を払っていただき、不安や悩みの声に耳を傾けていただきたい」と述べた。
文科省は同日、小学生、中高生、大学生、保護者と学校関係者のそれぞれに向けた永岡文科相のメッセージをホームページ上で公開した。