川崎市も大学3年生に教採内定 文科相「地域で日取りそろえて」

川崎市も大学3年生に教採内定 文科相「地域で日取りそろえて」
閣議後会見で記者の質問に答える永岡文科相
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 川崎市教育委員会は3月3日、2023年度の教員採用選考試験の概要を公表し、小学校教員の採用について、大学が推薦する3年生を対象とした特別選考を新設し、合格すれば25年度の採用予定者として内定とすることを明らかにした。大学3年生で教員採用が内定する新たな推薦枠については横浜市がすでに導入を表明しており、隣接する川崎市も追従するかたちとなった。文科省では、教員に優秀な人材を確保するため、教員採用選考試験の早期化・複線化を検討するよう自治体に求めてきたが、永岡桂子文科相は同日の閣議後会見で、「一部の自治体だけが採用試験を早期化しても、他の自治体との併願者が増えて結果的に辞退者が増えてしまうという指摘もある。早期化の実施に当たっては、地域ブロックごとに日取りをそろえることも検討する必要があると考えている」と述べ、教員採用の見直しに当たっては周辺自治体への影響にも配慮する必要があるとの見方を示した。

 川崎市教委によると、2023年度の教員採用選考試験では、従来の一般選考に加え、小学校の教員養成課程に在学している大学3年生で、大学の推薦を受けた学生を対象とする特別選考を新たに設ける。志願者は大学3年生になった23年5月に大学の推薦を受けて教員採用試験に申し込み、書類選考を経て7月に論文試験、8月に2次試験を受け、10月に合格(内定)が発表される。内定後の12月から大学4年生になる24年8月ごろまで、希望者を対象としたさまざまな研修プログラムが用意され、25年4月に教員として採用される。不合格となった場合でも、翌年度には一般選考で改めて選考試験を受けることができる。

 大学3年生に内定を出す特別選考を新設する狙いについて、市教委職員部教職員人事課の担当者は「全国的な教員の成り手不足を背景に、川崎市でも22年度に小学校教員の採用倍率が1.8倍となった。2割を割り込むのは初めてで、優秀な人材の確保が非常に重要になっている。大学には、川崎市で教員となることを第一希望にしている学生だけに絞って推薦してもらうことになるので、優秀かつ川崎市に確実にきてくれる人材を確保できると考えた」と説明している。

 また、大学3年生の10月に教員への採用が内定するメリットについて、「いまの大学4年生は非常に忙しい。教員実習はもちろん、教員採用や就職先が決まっていなければ、試験対策や就職活動にも時間を割かれるだろう。だが、大学3年生の秋に教員への採用が内定していれば、3年生の後半から4年生にかけて、自分の専門性を深めたり、学校現場で研修を受けたりできるし、学生時代ならではのさまざまな経験を積むことができる。教員に対する自分の適性も分かっていくだろうし、結果的に、採用後の定着率の向上にもつながると期待している」と話した。

 大学3年生に内定を出す特別選考については、川崎市と隣接する横浜市も2月17日付で23年度からの導入を明らかにしており、全国初の取り組みとして注目されている。

 こうした横浜市の取り組みについて、永岡文科相は3月3日の閣議後会見で「公立学校の教師の任用については、任命権者である教育委員会の権限と責任に基づいて行われている。今回の取り組みは、教員採用選考の倍率低下などの課題を受けて、横浜市教育委員会が、危機感をもって検討した結果、新たな取り組みとして発表されたものと受け止めている」と述べ、教員採用倍率の低下などへの危機感が背景にあるとの見方を示した。

 その上で、「一方で、例えば、一部の自治体だけが採用試験を早期化しても、他の自治体との併願者が増えて結果的に辞退者が増えてしまうという指摘もある。早期化の実施に当たっては、地域ブロックごとに日取りをそろえることも検討する必要があると考えている」と指摘。教員採用選考試験の早期化にあたっては、地域単位でスケジュール設定などの連携を行うことも必要になるとの考えを説明した。

 さらに「大事なのは、日本全体で教師を目指してもらう方を増やして、そして質を高めていくこと。文科省としては、採用選考の改善について教育委員会等の関係団体との協議会を設置して採用選考の早期化などについて議論しており、こうした各教育委員会の動向も情報を共有しながら、引き続き採用選考の改善を促していきたい」と述べた。

 教員採用選考試験の早期化を巡っては、22年4月28日、当時の末松信介文科相が都道府県・政令市の教育長を集めたオンライン会議の席上、「あらゆる手段を講じて教員の確保に取り組んでいただきたい」と異例の要請を行った際、民間企業との人材獲得競争を意識した教員採用選考試験の早期化も対応策の一つとして挙げた。こうした文科省の取り組みに対し、一部の自治体からは「同日に実施する近隣の自治体との兼ね合いから独自の早期化が難しい」「 一部の自治体のみが早期化・複線化すると、結果的に他の自治体の教員採用選考試験との重複合格により、辞退者が多く発生する可能性がある」といった懸念が出された。

 このため、永岡文科相は22年9月29日に、都道府県・政令市の教育長との会議で、採用試験の早期化や複数回実施、数年にわたる採用などの具体化に向け、文科省と各教委などによる協議会の立ち上げを表明。同年10月3日の閣議後会見では「しっかり協議して、早ければ24年度に(早期化や複線化が)行われるように頑張りたい」との見通しを示した。

 実際には、こうした文科省と各教委の調整に時間がかかる中、横浜市と川崎市が他の自治体に先んじて、従来の一般選考に加え、大学3年生に内定を出す特別選考の導入に踏み込むかたちとなっている。

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