「10年後、社会にどう貢献できるか」 成蹊中3年が最終発表

「10年後、社会にどう貢献できるか」 成蹊中3年が最終発表
「ジェンダー平等の実現」についてプレゼンテーションを行う生徒
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 10年後、自分が社会にどう貢献できるか━━。東京都武蔵野市の成蹊中学校(仙田直人校長、生徒810人)の3年生276人が3月2日、昨年6月から取り組んできたキャリア教育プログラムの最終発表を行った。生徒たちは「ジェンダー平等の実現」や「音声の未来」「インターネットを活用した引きこもり問題の解決」など、それぞれの関心を生かしたプレゼンテーションを展開。発表後は「一つのことに関してここまで深く考えたことがなかった。とてもいい経験になった」など、達成感をにじませる声が上がっていた。

 同校では昨年度より中学3年生のキャリア教育プログラムを実施している。今年度の3年生は「10年後、あなたはどうやって社会に貢献しますか」というテーマで、昨年6月から探究的な学びに取り組んできた。教育関連イベントやキャリア教育支援などを行う団体「ミライプラス」として、同校と共にプログラムを進めてきた小林誠司さんは「キャリアは職業や会社を選ぶだけではなくなってきている。将来の社会をイメージした上で、その中で自分がどのような役割を担っていくのかを考えていってほしかった」と説明する。

 プログラムがスタートした昨年6月から夏休みまでは、アフリカの社会問題解決に関わるNPOやビジネスを立ち上げている銅冶勇人さんによる講演会や、貧困、格差、戦争などさまざまなテーマのドキュメンタリー映画を視聴したりして、情報や知識をインプット。9月には生徒がそれぞれ自分のテーマを決定し、10月には10年後の社会のイメージをビジュアルで作成して2分間のプレゼンを行った。その後は自分のテーマを深掘りするため、テーマに関連する専門家や当事者などへインタビュー取材をしたり、企業見学をしたりしながらプレゼンテーションの準備を進め、この日の最終発表を迎えた。

 3年C組の吹切(ふっきり)大輔さんは、「デジタルと紙」をテーマに発表。「学校教育でもデジタルが導入されつつあるが、僕は紙に書くことが好きで、紙に書いた方が覚えられる。このままデジタル化が進むと、10年後には紙に書くことを知らない子どもも出てくるのではないかと思い、デジタルと紙のメリット・デメリットをそれぞれ調べた」と説明。

 河野太郎デジタル担当相にも取材を試み、文書での回答を得たという。「河野大臣は、デジタルは無駄を省くために活用すると説明していて、自分もそれには納得した。これからもデジタルと紙を必要に応じて使い分けていきたい」と話した。6月から続いたキャリア教育プログラムについて「一つのことに関してここまで深く考えたことがなかったので、とてもいい経験になった」と、笑顔をみせた。

 3年A組の髙梨莉緒さんは、もともとデザインに興味があり、自ら考えた造語「Completed fashion」について発表。「サスティナブルファッションに注目が集まっているが、値段が高かったり、デザインが偏っていたりといったデメリットもある。ファストファッションとサスティナブルの両方の良さを生かせないかと『Completed fashion』を考えた」と話す。自身が好きだというアパレルブランド「Bibiy.」に取材し、自身のアイデアについて発表した。

 2時間にわたってクラス全員が3分間のプレゼンを行ったが、長時間にも関わらず、生徒たちはお互いのプレゼン内容に聞き入っていた。髙梨さんはクラスメートのプレゼンについて「自分の興味がなかった分野についてもたくさん知れたので、10年後の社会が想像しやすくなった」と話した。3年G組の水野浩希さんは「海洋汚染や地球温暖化などについてプレゼンしている人が多かった。環境問題について考えている人が増えている」と分析していた。

 キャリア教育プログラムには、サポーターとして保護者有志も関わってきた。この日の発表を見守ったサポーターは、「何人かプレゼンが間に合うのか心配な生徒もいたが、今日は堂々と発表していて胸がいっぱいになった」「子どもの視点で社会の問題点が切り取られていて、大人の方が気付かされることばかりだった。例えば環境問題でも、大人はエコバックを持つなど形から入りがちだが、子どもたちは技術を開発していこうと考えていた」と感心しきりだった。

 キャリア教育プログラムを中心となって進めてきた濱村愛教諭は「約1年かけての長期プログラムは初めての経験だった。生徒たちは、瞬発力はあるが、持続した学びに苦手意識があるように感じていたが、挑戦してよかったと思っている」と振り返った。

 途中、なかなかテーマが決まらなかったり、うまく進められなかったりした生徒もいたというが、濱村教諭はあえて個別に指導はしなかったそうだ。「途中でグループ発表を入れ、自分の学びが進んでいないことを自覚させるなどして、なるべく子どもたちが主体的に取り組めるようにした」と工夫を語る。

 「今の3年生はコロナ禍で入学してきた学年で、自分の思っていることをうまく伝えられるようになることを目標にしてきた。今日のプレゼンテーションは、自分の好きなことを人に伝えたいという気持ちが溢れていた」と、笑みがこぼれた。

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