子どもの学力と非認知能力の向上を目指すプロジェクト「子ども教育データサイエンス」に取り組んでいる宮城教育大学で3月6日、全国学力・学習状況調査(全国学力調査)の学校でのデータ利活用をテーマにしたシンポジウムが開かれ、調査に関わる研究者らが、これまでの調査で得られた知見や可能性について講演を行った。同学の田端健人教授は「個々の子どもを知る教師がこうしたデータを活用すれば、一層深い見取りができる」と、自治体や学校、教員がそれぞれのレベルで全国学力調査のデータ利活用を積極的に行っていくことを呼び掛けた。
「子ども教育データサイエンス」は、田端教授を代表に科学研究費補助事業を受けていた「グローバル世界を視野とする学力・非認知能力の効果的学校モデル」をベースに、データ利活用に長けていない教員などでも簡単に扱えるデータサイエンスの技術開発・提供を通して、実践の効果を数量的エビデンスとして可視化させることで、教師の手応えや子どもの成長をより実感し、自信につなげることを目指している。
全国学力調査の経年変化分析調査について報告した柴山直東北大学教授は、テスト理論に基づき、全国学力調査の本体調査をどのように年度間で比較しているかを解説。「本体調査への批判として、年度間比較ができないとよく言われているが、経年変化分析調査を何年かに一度、定期的に実施していけば、数年間のスパンは空くが、その調査を使って本体調査の年度間比較がある程度可能になる」と述べた。
これまで2013年度、17年度、21年度の調査で行われた保護者調査から明らかになった知見を紹介した浜野隆お茶の水女子大学教授は、家庭での学習時間や学力に対して家庭の社会経済的背景(SES)が与える影響は極めて大きい一方で、不利な環境を克服している児童生徒の存在に注目。SESが低くても学歴が高い家庭では、生活習慣の確立や読書への働き掛け、学校行事への積極的な参加などの特徴がみられるとし「これらはごく当たり前のことだが、これができている子どもは少ないということだ。全国的なデータでこのことが初めて検証された」と、保護者調査の意義を強調した。
また、田端教授は、各自治体・学校に返却される全国学力調査の帳票の平均正答数と標準偏差を入力すると、その自治体や学校の学力向上の取り組みの成果を簡易的に可視化できる「平均ゾーンシステム」や、調査結果からその自治体や学校の子どもの非認知能力が全国と比べてどの位置にあるのかが分かるシステムの開発状況を説明。
「全国学力調査は児童生徒の学力やパーソナリティー、学習状況を多元的にアセスメントするために貴重なデータになると言える。個々の子どもを知る教師がこうしたデータを活用すれば、一層深い見取りができる。学校・学級サイズにまで絞り込んで初めて個人が見えてくる。個人が見えて初めてデータと実践知が融合する。それによって個人や地域の文脈に応じた個別最適化された学びが可能になる」と手応えを語った。