VUCA時代の「灯台と羅針盤」 次期教育振興基本計画を答申

VUCA時代の「灯台と羅針盤」 次期教育振興基本計画を答申
簗文科副大臣に答申を手交する中教審の渡邉会長(左)
【協賛企画】
広 告

 中教審は3月8日の総会で、来年度からの次期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定に向けて議論してきた部会から答申についての報告を受け、了承した。それを踏まえ、渡邉光一郎会長(第一生命ホールディングス会長、日本経団連副会長)から簗(やな)和生文科副大臣に答申が手交された。次期教育振興基本計画の答申では「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」をコンセプトとし、5つの基本的な方針と16の教育政策の目標を盛り込んだ。これらについて渡邉会長は「(将来の予測が困難な)VUCAの時代を行く船に、灯台と羅針盤がそろった」と評した。今回の答申は今後、教育未来創造会議の議論の取りまとめを踏まえ、今年の春~夏をめどに政府で閣議決定される予定。

2つのコンセプトに「非常に多くの議論を尽くした」

 中教審は22年2月、末松信介前文科相から諮問を受け、「オンライン教育を活用する観点など『デジタル』と『リアル』の最適な組み合わせ」「連続性・一貫性を持ち、社会のニーズに応えるものとなる教育や学習の在り方」「共生社会の実現を目指した学習を充実するための環境作り」「多様な教育データの活用」などの方向性を示すこととされた。中教審は同計画を審議するための部会を設け、およそ1年間にわたり14回の議論を行ってきた。

 同部会長を兼任していた中教審の渡邉会長は8日の総会で、「非常に多くの議論を尽くしてきたのが、基本的なコンセプトについての議論だった」と説明。答申では、「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2つを次期計画のコンセプトに据えた。

 このうち「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」については、教育振興基本計画部会の前回会合で示された答申案から「『同調圧力』につながるような組織への帰属を前提とした閉じた協調ではない」「ウェルビーイングが実現される社会は、子供から大人まで一人一人が担い手となって創っていくものである」などと追記された。

 

 今後の教育政策に関する基本的な方針としては▽グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成▽誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進▽地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進▽教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進▽計画の実効性確保のための基盤整備・対話――の5つが挙げられた。

 このうち「誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進」では、前回の答申案に対し、「子供のみならず大人も含めて、多様性を受け入れる寛容で成熟した存在となることが必要である」と追記された。

 

 今後5年間の教育政策の目標には▽1. 確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成▽2. 豊かな心の育成▽3. 健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成▽4. グローバル社会における人材育成▽5. イノベーションを担う人材育成▽6. 主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成▽7. 多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂▽8. 生涯学び、活躍できる環境整備▽9. 学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上▽10. 地域コミュニティの基盤を支える社会教育の推進▽11. 教育DXの推進・デジタル人材の育成▽12. 指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化▽13. 経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保▽14. NPO・企業・地域団体等との連携・協働▽15. 安全・安心で質の高い教育研究環境の整備、児童生徒等の安全確保▽16. 各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ――の16項目が盛り込まれた。

 このうち「4. グローバル社会における人材育成」では、前回の答申案に対し、「日本社会の多様性・包摂性を高めるとともに、日本を深く理解する外国人を養成するため、外国人学生・生徒の受け入れを推進する」と追記された。

 

 今回の答申について吉岡知哉委員(日本学生支援機構理事長)は、16の教育政策の下に示された評価指標について、「教育はどの段階でどう捉えるかが非常に難しく、数値化できない要素もある。数値化できないところが重要だというところもある。評価や指標の立て方については慎重に検討していただきたい」と要望した。

 また渡辺弘司委員(日本学校保健会副会長、日本医師会常任理事)は「教育振興基本計画に記載された内容が今後、全て円滑に実施できるように強く期待している。ただ、行った内容がちゃんと達成できるかどうかという評価をしていただきたいと思っている。全て達成できるというのは非常に困難だと思うので、どれができ、どれができないのかを評価し、できるだけ多くの項目が達成できるような体制をぜひ考慮してほしい」と求めた。

 コンセプトの1つ「日本社会に根差したウェルビーイング」に対しては、熊平美香委員(クマヒラセキュリティ財団代表理事)は、「子供たちの世界を見ると、残念ながら違いがいじめの原因になっているというのが今の現実。その点では、日本はむしろ西洋に学んで、多様性を前提とするルール、調和とか協調の実現の仕方というものを学んでいかなければいけないのではないか。グローバル社会に生きる子供たちを育てる教育では、世界が共に進化していくという考え方が非常に大切だ」と述べた。

簗文科副大臣「積極的な周知・広報に取り組み、実効性ある計画に」

 8日の総会では簗文科副大臣への答申の手交が行われた。答申を受け取った簗副大臣は「コロナ禍の下、約3年が経過し、教育行政も新たな局面を迎えている。グローバルな交流の回復や、教育DXのさらなる推進、不登校・いじめなどへの対応、部活動の在り方、教師の人材確保や働き方改革、文理横断・文理融合、そして少子化への対応など、さまざまな課題に待ったなしで取り組んでいく必要がある。取りまとめられた答申を踏まえ、政府部内でもさらに検討し、新たな教育振興基本計画として決定していきたい」と述べた。

 さらに「全国の教育現場や教育委員会をはじめとする関係者に、しっかりと計画の趣旨が伝わるよう、積極的な周知・広報にも取り組み、実効性のある計画としていきたい」と意気込みを語った。

 渡邉会長は会合の締めくくりにあたり、現行の計画期間中に中教審で答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」や「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」などが出されたことに触れ、「まさしくこの期間の集大成が、この教育振興基本計画。VUCAの時代を行く船に5つの基本的な方針、16の目的を持った施策が載せられた。まさしく羅針盤がこの船に乗せられたのだと思う。この船の向かうポラリス(北極星)は教育基本法の理念体系だが、その時に灯台となるのが、今日の答申の中にある2つのコンセプトなのではないか」と述べた。

 了承された答申と参考資料は、文科省のウェブサイトで閲覧できる。

広 告
広 告