【3.11】町の未来を育てる場所 12年ぶりに大熊町で学校再開

【3.11】町の未来を育てる場所 12年ぶりに大熊町で学校再開
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 太平洋に面した福島県の大熊町は、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故により町内全域に避難指示が出された。全町避難は8年余り続き、昨年6月には「帰還困難区域」のうち「特定復興再生拠点区域」の避難指示が解除され、町の中心部だった区域にも戻ることができるようになった。そして今年4月、実に12年ぶりに町に学校が戻ってくる。それが、2022年4月に同町の避難先の会津若松市で開校した同町立の義務教育学校「学び舎 ゆめの森」だ。少しずつ復興が進む大熊町で、4月からどんな学びを目指しているのか。そして、地域にとって学校はどんな存在なのか。同校の教員に聞いた。

12年ぶりに町に学校が戻ってくる

 全町避難から間もない11年3月末、大熊町は新年度からの教育再開を前提に、避難先を同県会津若松市に定め、同年4月から幼稚園児135人、小学生357人、中学生216人が、同市の廃校などを借りて設置された大熊町立の幼稚園と小中学校に通うこととなった。しかし避難生活の長期化から、避難先の市町村の学校に転校していく子供も年々増えていった。そして22年4月には同町立の小中学校が新たな義務教育学校「学び舎 ゆめの森」として再編され、現在は同市内で前期課程6人(うち1人は成人の聴講生)、後期課程2人の計8人が学んでいる。

現在、建設中の「学び舎ゆめの森」。特徴的な形の11のエリアで構成されている(大熊町提供)
現在、建設中の「学び舎ゆめの森」。特徴的な形の11のエリアで構成されている(大熊町提供)

 今年4月から同校は12年ぶりに大熊町に帰還する。当初は4月から新校舎に移る予定だったが、資材不足などの影響で校舎の完成が遅れており、ひとまず大熊町役場や福祉センターの一室で再開し、8月下旬の2学期から新校舎での授業が始まる予定となっている。4月からは前期課程15人、後期課程3人の計18人が学ぶ予定だ。

 現在、会津若松市の同校で後期課程の数学を担当する鈴木健太教諭は、生まれが大熊町だ。3月下旬の人事発表まで来年度の勤務校は確定していないが、「大熊町に戻るにあたって教員として携われるとしたら、とてもうれしい。『学び舎 ゆめの森』では、今までにないワクワクするような学校をみんなでつくっていこうとしている。何ができるのか楽しみという気持ちが大きい」と喜びを語る。

 前期課程の門馬貞教頭は、震災当時、大熊町と同じ双葉郡内の浪江町立浪江小学校(現在は廃校)に勤務していた。「11年前に会津若松市に赴任してきたときには、大熊町に学校が戻ることができるなんて思ってもいなかった。立ち入れない場所も多く、そういうところで学校を再開するというイメージを誰も持てなかった」と振り返る。

 「それが時代と共に変わっていき、来年度ついに戻れるようになった。いろいろな気持ちがこみ上げてくる。大熊町の未来を育てる場所になると思うので、自分も関われるのだとしたら、精いっぱい取り組んでいきたい」と笑顔を見せる。前期課程の4年生と特別支援を担当する陽田恵美教諭も「会津若松市から離れるのはさみしい気持ちもあるが、大熊町の人たちが待ち望んでいたことでもある」と期待を寄せる。

学校が町を創っていく

オンラインで取材に答えてくれた左から陽田教諭、門馬教頭、鈴木香帆教諭、鈴木健太教諭
オンラインで取材に答えてくれた左から陽田教諭、門馬教頭、鈴木香帆教諭、鈴木健太教諭

 再び町に生活を取り戻すための取り組みが続く大熊町で、「学び舎 ゆめの森」はどんな学びを目指しているのか。現在、前期課程で1年生を担当している鈴木香帆教諭は「教師も一緒に学ぶことを大事にしたい。教師から与える学びではなく、子供と一緒に学びを考えていくことが、これからの社会でも求められているのではないか。子供と大人が一緒に学んで成長していくようになればいい」と話す。

 門馬教頭は「一つ一つのことを今このタイミングで、この学校だったらどういうふうにやっていこうかということを、丁寧に考えながらやっていきたい。すごく時間はかかるが、『前の学校ではこうだったから』ではなく、『この学校の最適解は何なのか』ということを、若い先生もベテランの先生も一緒になって考えていく。そこに保護者や地域の人も巻き込んでいくような学びを目指したい」と強調する。

 まだまだ大熊町に戻ろうという人は少ないのが現状だ。そうした中、12年ぶりに町に学校が戻ることに期待を寄せる声は多い。改めて、学校の役割とは何なのだろうか。

 鈴木健太教諭は「学校は人とのつながりをつくっていくところだと思っている。今は学ぶだけなら家でもどこでもできる時代だ。学校でしかできないことは、人と人の関わりであり、それが社会を創っていく。地域とどんどん関わっていって、応援してもらえるような学校にしていきたい」と考えを述べる。門馬教頭は「学校ができ、そこに子供たちが戻ってくる。そこから町がまた動き出すだろう。そして、学校が町を創っていく」と未来を見据えている。

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