所沢市教委がいじめ報告書公表 生徒指導や保護者対応で提言

所沢市教委がいじめ報告書公表 生徒指導や保護者対応で提言
iStock.com/xijian
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 埼玉県所沢市教委はこのほど、市立中学校で2020年、当時中学1年生だった女子生徒が、同じ学級の生徒から複数回にわたるいじめを受けたとする第三者委員会の調査報告書を公表した。同調査報告書では今回のいじめを巡る調査結果に加え、思春期の心理特性を踏まえたいじめ指導や、保護者への初期対応などについて具体的な提言を盛り込んだ。同市教委は今回の報告書を校長会や教職員に周知し、再発防止を図るほか、第三者委員会に助言を仰ぎながら、今後のいじめ防止に力を入れていくとしている。

「部活でボールかごをぶつけられた」など4項目をいじめと認定

 同調査報告書によれば、20年10月中旬から11月にかけて、所沢市立中学校の1年生だった女子生徒は、同じ学級の複数生徒からいじめを受けて心身に不調を来し、うつ病の診断を受けた。翌21年、同市教委はこれをいじめの重大事態として、第三者機関による調査が必要と判断した。

 関係者への聞き取りなどの結果、女子生徒から訴えのあった12項目のいじめ案件のうち「部活でボールかごをぶつけられた」「呼ばれて行くと『呼んでねーし』と言われ、手でシッシとされた」「消毒液をかけられそうになった」「机に『死』の文字が書かれていた」の4項目を認め、ほか「体育祭で非難された」など3項目を「何らかのいじめに該当する出来事はあったと推測できる」とした。

 こうしたいじめについて同調査報告書は「人によっては『どうしてこの程度のことで』と思うかもしれない」が、「自分は嫌な思いをしているのに誰も分かってくれないという孤立感、さまざまな場面で一方的に不快になることばかり起こり、あらかじめ守りようがないという無力感が、彼女の心にダメージを与えたのではないだろうか」と分析した。

 同調査報告書ではまた、保護者と学校の信頼関係が損なわれていた実態を指摘。保護者からは20年12月に「早急にいじめをやめさせること、加害者への厳重注意」「加害生徒たちからの娘への謝罪(3日以内)」「今後、加害生徒とは一緒のクラスにしないこと」「担任を代えること」など、11項目にわたる要望事項が校長に提出されていたことを明らかにした。

 一方、「学校側も彼女のいじめ問題解決に向けて、さまざまな対策を講じていることが学校側記録から読み取れる」として、「彼女や保護者の希望や訴えに応えて学校が対策を講じれば講じるほど、彼女や保護者からは新たな問題が提起され、学校が新たに加わるそれらの問題の対応に追われてしまう様子もうかがえた」とした。

「第三者的な機関へ問題解決支援を求めることも考慮」

 こうした経緯を踏まえた上で、同調査報告書では、再発防止に向けた提言を盛り込んだ。まず、思春期の心理特性を踏まえたいじめ指導が必要だとして「子供たちは『いじめ』という言葉の曖昧(あいまい)さを利用して、いじめの事実をうやむやにする場合がある。具体的な行動の言葉で表現することを勧めたい」「言葉だけの指導ではなく、ロールプレイングや映像資料を通した指導、ソーシャルスキルトレーニングやアンガーマネジメントなどの心理学的方法など、『あの手この手』を駆使して子供への投げ掛けを工夫すべき」などと指摘した。

 また、保護者への初期対応としては▽わが子の問題で悩んできた保護者の申し出を聞き取る▽はじめに面談時間を互いに相談して決める(長過ぎると同じことの繰り返しが生じ、互いに疲れてしまう。相手に対するネガティブな印象も形成されてしまう)▽保護者の話をさえぎってこちらの言い訳をしたり、意見を言ったりしない▽事実(日時や具体的行動、関わった人物)の確認を行う――といった具体的な配慮を提案した。

 ただ「以上の心配りがなされて面談を何回重ねても保護者の学校批判や非難が続く場合は、第三者的な機関へ問題解決支援を求めることも考慮する」と提言。今回の事案では、第三者的機関として介入したNPO法人プロテクトチルドレンが「硬直した本件の問題の解決に向けて大きな推進力となり、双方にとって中立的な役割を果たした」と評価した。

 こうした第三者的機関には「対立図式を持ち込まない問題解決力を有していること」が求められると指摘。その上で「これから、学校内だけでは解決のつかない問題が保護者との間により生じることは明らか。学校でのいじめ等の問題に介入し調停を図る第三者的機関が、教育のシステムの一つとして近い将来確立することが望ましいと考えられる」と述べた。

 同調査報告書は同市教委のウェブサイトで、今年9月5日まで閲覧できる。

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