4月の新学期から学校に新型コロナウイルス感染症対策のマスクの着用を求めないとする政府の方針に基づき、文科省は3月17日、マスクなしの学校教育活動を基本とする衛生管理マニュアルの改定を行い、都道府県・政令市の教育委員会などに通知した。新しい衛生管理マニュアルでは、感染リスクが比較的高い学習活動など学校現場のさまざまな場面に応じた今後の感染症対策の考え方を示したほか、登下校時の混雑した電車やバスに乗る際や、病院や高齢者施設を訪問する校外学習では引き続きマスク着用を推奨した。永岡桂子文科相は同日の閣議後会見で、マスクの取り扱いについて「学校の教員ばかりに任せるのではなく、親も子供も、なぜマスクをしていたのか、なぜマスクを取っていいのか、よく話し合ってもらい、感染症対策に効果のある対応ができればいい」と述べ、学校現場がほぼ4年ぶりとなるマスクなしの教育活動に円滑に移行できるよう、児童生徒や保護者を含めて理解と協力を求めた。
今回の通知では、4月1日以降の「マスク着用の考え方の見直し」が大きな柱となっている。そのほかにも、入学式などの儀式的行事でもマスク着用を求めないことや、給食でも「黙食」は必要ないことなど、これまでの通知や事務連絡で示してきた学校の感染症対策を改めて整理し、ほぼ1年ぶりに「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」(衛生管理マニュアル)を改定したことを説明した。
マスク着用の基本的な考え方ではまず、「児童生徒および教職員については、マスクの着用を求めないことを基本とする」と明記。その一方で、今後もマスクの着用を推奨する場面として、「登下校時に混雑した電車やバスを利用する場合」「校外学習において医療機関や高齢者施設を訪問する場合」を挙げた。
同時に、基礎疾患があるなど感染不安を持つ児童生徒がいることを踏まえ、学校や教職員がマスクの着脱を強いることがないようにすることや、児童生徒間でマスク着用の有無が差別や偏見、いじめにつながらないよう指導することを求めた。さらに、新型コロナウイルス感染症だけでなく、季節性インフルエンザも含めて感染症が流行し、教職員が児童生徒にマスクの着用を促す場面があっても、マスクの着用を強いることがないよう改めて強調した。
学校教育活動の中で、これまで衛生管理マニュアルで具体的な感染症対策を示してきた「感染リスクが比較的高い学習活動」については、「マスクを外すに当たっても、一定の感染症対策を講じることが望ましい」(文科省初等中等教育局健康教育・食育課)との判断から、学習活動に合わせた感染症対策を改めて整理し、衛生管理マニュアルに盛り込んだ=グラフィックス参照。
まず、各教科等に共通する感染症対策として、「気候上可能な限り、2方向の窓を開けて、常時換気を行う」「CO₂モニターを使用して換気の状況を計測する」ことを前提に置き、「十分な換気が確保できない場合には、サーキュレーターやHEPAフィルター付き空気清浄機などの補完的な措置を講じること」を求めた。
その上で、対面形式のグループワーク、理科の実験や観察、図画工作などでの共同制作や鑑賞では「少人数のグループで実施」「大声での会話は控える」とした。調理実習については、これらに加えて「試食の際は、座席を向かい合わせにしない。向かい合わせにする場合には対面の座席間に1㍍程度の距離を確保する」と丁寧に説明した。
音楽で行う合唱とリコーダーや鍵盤ハーモニカなどの演奏については、「体の中心から前方1㍍程度、左右50㌢程度の距離を確保する」「向かい合っての歌唱は控える」と提示。体育の「組み合ったり接触したりする運動」については「大声での発声は控える。見学や休憩時には触れ合わない程度の距離を確保し、大声での会話や発声を控える」とした。こうした活動を部活動で実施する場合にも、同様の感染症対策が望ましいとしている。
入学式などの儀式的行事についても、児童生徒、教職員に対し、マスク着用を求めないことを基本とした上で、留意事項を明記した。国歌や校歌の斉唱や合唱を行ったり、複数の児童生徒による、いわゆる「呼び掛け」を実施したりするときには「体の中心から前方1㍍程度、左右50㌢程度の距離を確保する」ことを求めている。来賓や保護者には、着席を基本として座席間に触れ合わない程度の距離を確保し、参加人数の制限は必要ない、とした。運動会や文化祭についても、保護者などの参加人数を制限する必要はない、と説明している。
給食については、適切な換気を確保した上で、▽大声での会話を控える▽机を向かい合わせにしない▽向かい合わせにする場合には対面の児童生徒の間に1㍍程度の距離を確保する――といった措置を講じることで「『黙食』は必要ない」と、これまでの考え方を改めて衛生管理マニュアルに書き込んだ。
今回の通知を受けて、全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校では、2019年終わりに新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まって以降、ほぼ4年ぶりにマスクなしの学校教育活動を取り戻すことになる。
永岡文科相は3月17日の閣議後会見で「『マスクを取ってもいいですよ』という政府からの発表があり、子供たちにとっても大人にとっても、コロナ禍になる前のことを考えてみる必要があると思う。マスクをするのが当たり前という子供もいるし、体が弱いからこれからもマスクをした方がいいと思う子供もいる。反対に、やっとマスクが取れたと喜んで学校に登校する子供もいるだろう」と指摘。「そんな中で、学校の教員ばかりに任せるのではなく、親も子供も、なぜマスクをしていたのか、なぜマスクを取っていいのか、そういうことをよく話し合ってもらい、感染症対策に効果のある対応ができればいいな、と思っている」と述べ、学校がマスクなしの教育活動に円滑に移行するために、児童生徒や教職員、保護者などが話し合いながら、学校でのマスクの取り扱いについて理解を深めていくことが大切だという見方を示した。
一方、政府は5月8日から新型コロナの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に引き下げる考えを示している。この5類感染症への移行に合わせて、文科省が学校の感染症対策を改めて見直すのかどうか、学校現場や各教委にとっては気になるところだろう。
これについて、南野(のうの)圭史初等中等教育局健康教育・食育課長は「今回の通知は、マスクの着用についての考え方を見直したもの。この部分については、(学校教育活動は)コロナ以前と同じような感じに戻っていくのかと思っている」と指摘。その上で、「細かく言えば、5類感染症になるのは5月8日。そのときに政府としてどこまで感染症対策を国民に示していくのかということに伴って、文科省としてもどこまで(学校現場に)お願いしていくかということになる。具体的に言えば、今回の通知では『感染リスクが比較的高い学習活動』について少し丁寧に感染症対策を示したが、それをどこまで引き続きお願いするのか、それとも各学校の判断ということになるのか、検討の余地はあると思う」と説明している。
これに先立ち、藤原章夫初等中等教育局長は3月10日の国会答弁で「マスク着用以外の感染症対策については、5類感染症に移行する5月8日に向けて見直しを行う必要があると考えている。5類感染症移行後の社会一般における感染症対策の在り方の検討を踏まえつつ、子供たちが安全安心な環境の中で充実した学校生活が送れることができるよう、速やかに検討したい」と答え、マスクの取り扱いとは別に、5類感染症移行後の学校現場の感染症対策を示す考えを明らかにしている。