貧困、虐待、不登校による学び困難 東京学芸大がシンポ

貧困、虐待、不登校による学び困難 東京学芸大がシンポ
3つのフィールドからの報告を受けて行われたディスカッション(オンラインで取材)
【協賛企画】
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 環境が要因で生じる教育の課題を研究している東京学芸大学こどもの学び困難支援センターは3月18日、オンラインでシンポジウムを開き、現在研究を進めている子どもの貧困や不登校、児童虐待の3つのフィールドから報告を行った。同センターでは今後、研究成果を踏まえて教員養成や教育現場での研修に生かすための取り組みを本格化させる。

 昨年度設立された同センターは、貧困や児童虐待、不登校などの環境要因に影響を受けて生じやすい「学び困難」に着目し、その実態解明と学びを支えるアプローチを研究している。環境要因を福祉の問題にとどめず、心理・福祉的な支援と密接に連携しながら、教員や教育支援者の実践の中で、困難な状況下にある子どもの学びや成長に向けた支援を模索している。この日のシンポジウムでは、NPOや自治体などと連携して取り組んでいる3つのフィールドからの報告が行われた。

 大阪府を中心に第三の居場所を展開しているNPOの「み・らいず」と連携した児童虐待のフィールドについて研究の進捗(しんちょく)状況を発表した野田満由美同センター客員准教授は、児童虐待が分かった子どものうち、約9割が家庭に戻っている状況にある中で、その後の支援に関する研究が不足していると指摘。こうした子どもたちが自立に向かうプロセスには「受動的に経験してもらう経験のところから、探索・受容的な環境を提供してもらう経験をへて、自主的な行動、主体的な経験につながるのではないかと考えている。この受動的に経験してもらう経験の中には、意見が言える安心安全な場、親以外の大人の見本を見られるような状態、教育的な視点で情報を提供できる環境が大事だ」と話し、生活や自己決定など、子どもの自立に必要な要素ごとに、このプロセスに基づいたチェックリストを開発していることを紹介した。

 不登校フィールドを担当している森崎晃同センター客員准教授は、不登校当事者の声を例に出しながら、不登校の非当事者が考える不登校の問題や理由が当事者に必ずしも当てはまるわけではなく、そこから導き出される支援が、かえって当事者を傷付けてしまうこともあると問題提起。「非当事者が『こういうことが問題なのだろう』と考えて、不登校の理由の分類と掛け合わせて『こういう支援だ』というのは乱暴だ。そこにとどまっていては支援を実践していくには到底足りない。どこに行きつくかを考えれば、子どもにとって最善の利益につながる支援を大切にしたいと思う」と、新たな不登校支援の姿勢を提案した。

 沖縄県名護市の子ども食堂をフィールドに、子どもの貧困問題にアプローチしている神谷康弘同センター客員准教授は、子ども食堂で食事の提供だけでなく、学習支援や地域と連携した課題解決学習の機会を提供していることを説明。「どうしても箸の持ち方がおかしい子ども、あいさつができない子どもが多い中で、支援者はそれらを教えたいと考える支援者もいるが、まずは一緒に楽しむこと、信頼関係を築くことを優先して、学び困難を乗り越えるための事前準備として一緒に行動してもらっている」と、子ども食堂で子どもたちと関わるスタッフや地域住民、学生らに共通する基本スタンスを強調した。

 その上で神谷准教授は、子どもの貧困の問題に関わる現場では「学び困難を解消する前にやらなければいけないのは、子どもがちゃんと食べているかということだ。しっかり食べておなかが満たされて初めて学びと向かい合える。子どもが、学びができる態勢になっているかどうかを、コミュニケーションを取りながら一人の人間として見つめる必要がある」と話した。

 同センターでは各フィールドでの研究成果を踏まえ、教員養成や研修、支援などに活用させていく予定で、今後は映像教材の作成などに取り組んでいくという。

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