文科省はこのほど、「小学校高学年における教科担任制に関する事例集~小学校教育の活性化に繋(つな)げるために~」を作成し、ウェブサイトで公開した。義務教育9年間を見通した指導体制作りの一環として、今年度から本格的に導入された小学校高学年の教科担任制。事例集の作成にあたった文科省の担当者は、実際に全国の学校現場に赴いて話を聞く中で、教員がメリットを実感できるようなマネジメントが鍵になることを実感したという。
小学校高学年の教科担任制については、小学校から中学校への学習の移行を円滑に進める観点から外国語、理科、算数、体育を優先的な専科指導の対象とし、今年度から4年程度をかけて3800人の定数改善を図ることとされている。来年度予算案では、950人の加配定数の改善を計上している。
期待される効果としては「教材研究の深化、専門性を持つ教員の熟練した指導による授業の質向上」「小・中学校間の円滑な接続(中1ギャップの解消など)」「複数の教員による多面的な児童理解」「教員の持ちコマ数の軽減や授業準備の効率化などによる負担軽減」などが挙げられる。一方、学校現場からは時間割が複雑になる、移動が大変、特定の教科を教えなくなることへの不安など、デメリットを指摘する声も聞かれる。
こうした状況を踏まえ今回、事例集に盛り込んだのは、北海道・山形県・群馬県・東京都・兵庫県の小学校10校、義務教育学校1校の事例。児童数が700人を超える規模の大きい学校から、1学年1学級の小規模校、先進的に進めてきた学校、義務教育学校など、さまざまな条件の学校を取り上げ、それぞれについて、具体的な時間割の組み方、マネジメントや指導上の工夫、効果や課題などが記載されている。
作成にあたった文科省財務課の栗山和大課長補佐は「文科省の職員が実際に学校現場に赴いて、しっかり話を聞かせてもらった」と振り返る。自身も北海道や群馬県などの学校を訪問したといい、「文科省としても加配定数措置がなされた後、現場任せにするのではなく、現場で活用していくためのノウハウを可視化し、届けなければならないと考えた」と語る。
学校現場の話を聞く中で栗山課長補佐は、教科担任制をうまく取り入れている学校には共通した工夫があると感じたという。それは「学校管理職や教育委員会が、教科担任制の目的を学校現場に粘り強く伝えていること、デメリットが生じにくいようなマネジメントがなされていること、子供たちの学びがより豊かになったなどのメリットを、教員が日々の実践の中で体感していること」だ。
例えば事例集の中で、学級担任間の授業交換による授業、専科教員による授業、中学校教員による授業を組み合わせている北海道小樽市の小学校では、「担当教科については、学級担任の総授業時数、授業準備回数の差が少なくなるよう配慮するとともに、各教師の経験や得意分野を生かす観点から選択」「専科教員が担当している教科について、学級担任がその教科を指導する機会が減ることで指導力が低下しないよう、組織的に校内研修を行い、幅広い指導力を身に付けることができるようにしている」などの工夫が紹介されている。
事例集には現在の課題や今後の方向性についても書かれており、「改良、改善の最前線を見せるようにした」と話す栗山課長補佐。「特別な学校だけがやることではない。全国の学校に『一緒に取り組みましょう』というメッセージを伝えたい」と語った。事例集は文科省のウェブサイトで読むことができる。