岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を巡り、自民党は3月22日、「こども・若者」輝く未来実現会議の会合を開き、児童手当の拡充や教育費の負担軽減など少子化対策の施策の方向性をまとめた論点整理案の骨子を提示した。出席した議員らの要望を受けて来週にも論点整理をまとめ、政府が3月末をめどにまとめる少子化対策の具体的なたたき台に反映することを目指す。学校教育の関連では、「小中学校の給食費の無償化」「学校ソーシャルワーカー、養護教諭・栄養教諭等の充実」「教育費の負担軽減」「公教育の再生」などがキーワードとして盛り込まれた。給食費の無償化について、永岡桂子文科相は同日の閣議後会見で、「相当綿密な議論が必要だと考えている」と慎重な姿勢をみせている。
会議の冒頭、木原稔座長(衆議院議員)は「幼保連携型に転換し、同時に病児保育などを含めて1カ所で対応している福島県内の施設を視察したところ、それを目掛けて若い夫婦が移住してくると聞いた。少子化対策が街づくりの拠点になるモデルもある。そうした視察も踏まえ、骨子案を肉付けして、政府への提言を作りたい」とあいさつした。
骨子では、まず少子化対策によって目指す社会について、「こども基本法の趣旨にのっとり、いかなる状況や事情の中であっても、全ての子供が、ひとしく皆から尊重され応援される社会を目指す」「若者の所得を向上させ、さらに補う政策が必要である。また、若者が自力で所得を向上させた場合に、子育てに対する支援が減る仕組みでは、せっかく流した汗が報われない」といった理念を掲げた。
次に、施策の方向性を説明。「ライフプランニング支援」として、育児インターンとして小中高での赤ちゃんとの触れ合い教育や命の尊さを学ぶための学校動物飼育の充実などを指摘。正規雇用化の促進や賃上げを通じた「若年層が結婚できる経済環境づくり」や「給付型奨学金の拡充」などを挙げた。
大きな柱は、妊娠・出産から育児の環境に対する投資の拡充になる。妊娠・出産への支援では、妊娠段階からの伴走型相談支援や出産費用の負担軽減を盛り込んだ。育児・就学前支援では、▽児童手当の拡充として、所得制限の撤廃、対象年齢の引き上げ、多子世帯をより手厚い支援、在宅保育家庭への経済的支援▽保育士の処遇改善や幼児教育・保育の無償化の拡充▽病児・病後児保育の拡充、障害児保育の拡充--などが並んでいる。
就学後支援では、▽小中学校の給食費の無償化▽学童保育の拡充▽地域でのファミリーサポートサービスの拡充、家事援助・ベビーシッターへの支援▽学校ソーシャルワーカー、養護教諭・栄養教諭等の充実▽子ども食堂の支援、子どもの居場所・遊び場の整備および維持への投資--といった学校運営にも関連する項目が挙がっている。
教育の負担軽減については、▽小中学生の就学援助の拡充(対象経費や費目の充実)▽高校授業料の実質無償化の拡大、高校生の奨学給付金の拡充▽高等教育費の支援の大幅拡充、出世払い型奨学制度の導入--とした。公教育の再生については「公教育の機能強化による教育の質の向上」と書き込んだ。貧困や傷害など困難がある子への支援を一層手厚くすることも取り上げている。
また、こどもDXを進め、従来のプル型(申請・窓口主義)からプッシュ型(DX・伴走主義)サービスへの転換や事務負担を軽減する考えも明記。4月に発足するこども家庭庁に、こどもDXを検討・推進する常設の部局を設置し、同時にデジタル庁でもこどもDXを重点領域としてチームを維持することも求めた。
終了後、記者団に説明した橋本岳衆議院議員は「これらの施策の方向性は、これまでのヒアリングなどを基に書き込んだもので、すぐに全部実現するわけではない。優先順位や規模、それに対する財源といった話は、政府のたたき台ができてから、4月以降、(6月ごろに政府が閣議決定する)『骨太の方針』(経済財政運営と改革の基本方針2024)に向けて議論するという扱いをする」と説明。「現実には来年度に入って財源の話が行われることになれば、その段階で『こっちは先の課題。これは今やろう』といった話になると思う」とも述べ、骨子に盛り込まれた政策はあくまで望ましい方向性を網羅して記載したものだという前提を強調した。
また、小中学校の給食費の無償化について、橋本議員は「ここに書いてある以上に、具体的な検討があるわけではない。会議では、自治体によるばらつきという不公平な状態を整えるべきだとの意見があった一方で、もっと優先度が高いものがあるとの意見もあった。実際にどう実現していくかは今後の議論だと思っている」と説明した。
給食費の無償化を巡っては、永岡文科相は3月22日の閣議後会見で、「給食費の話になると、給食が提供されている子供もいれば、全く提供されていない子供、つまり弁当を持ってきているという、地域もある。日本を挙げて給食費を無償化することについては、相当綿密な議論が必要だと考えている」と慎重な検討が必要との見方を示した。