教員不足や処遇改善について抜本的な改革案の作成を目指している、自民党の令和の教育人材確保に関する特命委員会は4月5日、第5回会合を開き、岡山県の鍵本芳明教育長、学校の働き方改革で成果を上げている横浜市立寺尾小学校の北村高則校長、日本大学文理学部の末冨芳教授からヒアリングを行った。鍵本氏は給特法の見直しによる教員の処遇改善を巡り、「教員の職務の特殊性について十分な議論が必要。教員の勤務時間の内外を切り分けることが本当に可能なのか」と指摘。北村氏は「学校ができる働き方改革をやり、平均在校時間は減ったが、それでも残業は止まらない。学校教育をどうするのか、社会全体として大きな改革が必要だ」と現場の声を伝えた。末冨氏はスクールカウンセラーなどの常勤化や、特別支援教育や生徒指導などの担任外配置の拡大などを挙げながら、根本治療としての「令和の教職員定数改善」の必要性を強調した。
会合の冒頭、委員長を務める萩生田光一政調会長は「文科省が実施している教員勤務実態調査の速報値の結果も5月までに公表されると聞いている。本特命委員会としても、教師に優れた人材を確保できるよう、働き方改革の加速化、処遇改善、指導運営体制の充実、教師の育成支援を一体的に推進するために議論を行ってきた。次回以降は今日までの議論や有識者からのヒアリングを踏まえ、(来年度予算編成方針となる)6月の『骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)』を見据え、政府に対する抜本的な改革案の提案の取りまとめに向けて、議論を深めていきたい」と述べ、改革案の取りまとめに着手する考えを説明した。
岡山県の教育長として学校現場の人材確保に向き合っている鍵本氏は、まず学校現場の現状について「岡山県内の学校では、時間外在校等時間は少しずつ減少しているが、特別支援学校以外は、平均値でも指針上限の45時間を超えているのが現状」と述べ、文科省が2020年に給特法に基づく指針で示した「公立学校の教師の勤務時間の上限」を守ることができない現状を説明。「学校現場には不満や疲労感があり、教員採用試験の倍率が年々下がっている」と窮状を報告した。
対応策では、▽給特法や人材確保法の精神は生かしつつ、現状を踏まえて、教員の処遇の在り方の見直しが必要▽教員業務の明確化・適正化や教職員体制の充実により、教員の業務負担の軽減を図ることが必要--の2点を挙げた。
このうち、給特法の改正に当たっては、「教員の職務の特殊性について十分な議論が必要。教員の職務は教員の自発性、創造性によるところが大きく、どこまでが教員の勤務であるかを判断することが難しい状況にある。教員の勤務時間の内外を切り分けることが本当に可能なのか、整理する必要があるのではないか」とした。
給特法見直しの課題として「教職調整額を4%から変更する場合には、教員の過重な業務負担を容認することにならないか」「個々の教員で実際の勤務の状況が異なる中、教職調整額を一律に引き上げた場合、国民からの理解が得られるか」と指摘。さらに、時間外勤務手当を導入する場合には「現在の学校現場の体制の中で、管理職による時間外勤務命令やその管理が実際に可能か」「服務監督権者である市町村教委の時間外勤務の考え方の違いにより、地域による給与面の差が生じないか」「効率的に仕事を進め、時間外勤務をしない教員ほど給与が少なくなることへの理解が得られるか」といった課題があることを説明した。
働き方改革については「市町村間や学校間で取り組みに差がある」と問題点を指摘。「改善が進まなかった部分にどういった課題があるのかを明らかにし、その上で学校や教員が担う業務をさらに明確化し、適正化を図る方策が必要」とした。教職員体制の充実に向けて、教職員定数の改善も求めた。
学校現場で校長として働き方改革に取り組んできた北村氏はまず、神奈川県で若手の3年目までの教員に「いつ教員になることを決めたか」を聞いた調査結果を説明。「特別支援学校の教員は大学在学中、それ以外の高校、中学、小学校の教員は自身が小学校、中学校、高校の時に、目の前にいる教員に憧れて、その時に教員になろうと決めた人が多い。これは、今、教壇に立っている教員がきらきら輝いていることが、次世代の教員養成につながることを示している」と述べ、長時間勤務で教員が疲弊している現状を変えることが教員不足を解決する根本的な対策になることを強調した。
自身が取り組んだ学校の働き方改革について「まず教員にアンケートを行い、自分たちの働き方が横浜市全体の中でどういう状況なのかを、分析的に見るところから始まった。そこから遅くまで残業して『教材研究が足りている』と答えた教員が多いことが分かり、働き方の勘違いがあることに気付いた。そこで、研修を通して自発的にできるところから始めた。最初は学校行事を時間内で終えたり、小学校の朝練をやめたりして、作った時間で子供たちと向き合うように、自分たちで考えた。その結果、平均在校時間が減っていった」と経過を説明した。
その上で、「われわれには働く時間が短くなっているような自覚はない。教員から『帰りやすくなった』『休みが取りやすくなった』との声が出てきた。でも、こうやって学校ができることをやっても、残業は止まらない。教員志望の学生にインターンシップとして授業に関わってもらい、教育実践ボランティア、学習支援員、ICT支援員にも関わってもらった。床のワックスがけやプール掃除はアウトソーシングした。職員室業務アシスタントは教員が教員にしかできない仕事に集中できる環境作りとして、大変ありがたかった。でも、残業はなくならない」と指摘。
最後には「やはり大きな改革が必要。いち学校でできるという努力を超えた、大きな社会全体として、改めて学校教育をどうするのかをぜひ示してほしい。これが学校長としての願い」と、現場の訴えを絞り出した。
末冨氏は「担任や教科の教員がいなくて困るのは子供たち」とした上で、「やはり根本治療は『令和の教職員定数改善』ではあるまいか、というのが長年、教員政策に携わってきた研究者として申し上げたいところ」と述べた。
その上で、「今、100年に一度起きるかどうかと思われる、非常に大きな教育のイノベーションが起きている中で、日本の教員たちこそ、世界に先駆けて素晴らしい教育を作り上げる力を持っている。それを支えるためには、給特法改正とともに、『令和の教職員定数改善』が必要であり、教員の育成体制を強化してほしい。特に産休育休者の復帰支援によって、安心して現場に戻れる体制を作ってほしい。こうした改革を進めることは、教員が子供たちと丁寧に関わることを通じて、学力向上とか、子供たちの学びと成長にプラスの効果があることは国内外のエビデンスでも予測されている」と、教職員定数の改善は子供たちのためになるとの説明を展開した。
具体的に取り組むべき3つの政策として▽学校へのスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーの常勤化▽義務標準法の改正と国庫負担による特別支援教育コーディネーターや生徒指導担当教諭の担任外配置の拡充、不登校の増加に伴って負担が増している養護教諭の複数配置校の基準緩和▽ICT支援員の増員や、特別支援教育支援員やスクールサポートスタッフに対する国としての配置基準の明示--を列挙。さらに「新たな教員の専門性を確立していくためには、小学校35人学級に続いて、中学校35人学級の実現。それとともに教員が教育方法の改善や授業準備にしっかり取り組む時間を作るためにこそ、教職員の定数改善が必要であると考えている」と述べた。