文科省が4月28日にまとめた教員勤務実態調査の結果では、在校等時間がわずかに減少したものの、依然として長時間労働が続いていることが明らかになった。教員の働き方改革に詳しく、中教審特別部会の委員も務めた立教大学の中原淳教授(人材開発・組織開発)は、在校等時間の減少の背景に学校現場の努力があったことを評価しつつも、「個々の学校にできることには、そろそろ限界が来ている。国と文科省が主導して、この問題の積極的な課題解決にあたるべきだ」と主張する。具体的には、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)を廃止することを含めて給与体系を見直すことや、業務システムを整備して「労働時間を把握し、超過した分には残業代を付ける」という長時間労働是正の仕組みを作ること、教員の定数を増やすこと、支援スタッフを増やすことを検討すべきだとして、それを行わなければ、「これ以上の改善は難しい」と指摘する。
これまで教員の長時間労働は右肩上がりが続いていたが、働き方改革の気運が出てきて、今回の調査では労働時間が減っている。これは画期的なことだ。個々の学校での、現場の尽力に心から感謝したい。実際、知人の教員からは「今まで全然帰れなかったけれど、ちょっと事情があるときには帰れるようになった」とか、「『帰る』と声に出せるようになった」という声を聞いている。これまでは職場の無言の圧力というか、同調圧力のようなものがあったのだろう。
教諭だけでなく、副校長・教頭でも在校等時間が減少しているのは意外だった。民間企業で長時間労働の是正に取り組もうとすると、「若いやつは帰れ」と言いながら、中堅社員や管理職が若手の業務を引き受けてしまう、というケースがよくあるからだ。学校が努力して部活動の時間を減らしたり、学校行事を精選したりしてきたのだろう。
労働時間減少の良い兆しを感じつつも、重要なこととして「教員の長時間労働の問題はなくなったわけではない」ということは強調したい。今回の調査結果では、平日の持ち帰り時間が増えている。やらなければならない仕事量が減っていないのに、「減らせ」と言われたら当然、家に持ち帰ることになる。自治体によっても取り組みは大きく異なる。年代や性別なども含めたさまざまな観点からデータを分析し、何がボトルネックになっているのかをエビデンスに基づいて把握しなければ、複雑に絡み合った長時間労働の問題は、なかなか解決しない。
現時点の調査結果から感じるのは、「個々の学校でできることには限界が来ているのではないか」ということだ。この数年、国と文科省は、多くを現場の努力に任せてきた。今のやり方を続ければ、労働時間をさらに数十分減らすことぐらいはできるかもしれないが、それ以上の改善を行うのであれば「法制度」を見直すか、業務システムなどの改善を図る「ツール」を導入するか、または「人」を増やすしかない。一番パワフルなのは「人」、つまり教職員定数の改善だが、多額の予算が必要で、国民の理解を得なければならない。
「制度」の最たるものは給特法だが、私は廃止した方が良いと思っている。長時間労働是正の研究に取り組んできて感じるのは、「就業時間はここまで、これより先はお金(残業代)がかかる」というキャップ(上限)がなければ、絶対に成功しないということだ。今の時間外勤務の上限指針(月45時間、年360時間)だけでは難しい。チームの役割分担を見直したり、業務改善をしたりといった地道な取り組みは、そのような労働時間の「枠」をしっかり決めた上で行うことだ。それがないまま地道な取り組みをいくら積み上げても、無駄とまでは言わないが、限界はある。
民間企業なら、残業代を支払わなければ労働基準監督署から是正勧告を受ける。そのようなサンクション(制裁)が掛かる仕組みが、長時間労働是正の大きなストッパーになっている。しかし学校にはそれがなく、実質、労働時間管理を行っている人がいない。言い換えれば、管理職が労働時間をきちんと把握しなくても問題視されない。「労働時間を把握し、超過した分にお金を付ける」ということをしていかないと、これ以上の是正は難しい。
給特法の見直しを巡る一部の議論では、教職調整額の割合を上げるとか、手当を付けて給与を上げる話にすり替えられつつあるが、教員の多くはそれを望んでいるわけではないと思う。もちろん、給与は上がるに越したことはない。しかし、長時間労働問題の本質的な解決にはならないし、教員になりたい人も減っていくだろう。長時間労働の是正なくして、教員の人手不足問題の解決なしだ。そして、この問題のしわ寄せは、最後には未来の子どもたちに行く。
給特法が廃止されれば、残業には残業代を払わなければならなくなるが、新たな予算を確保することは容易ではないだろう。それならば業務改善の取り組みを進めつつ、いわゆる「異次元の少子化対策」の予算を活用することはできないか。単なる現金給付ではない形で、学校教育の基盤強化に努める。これが、現実的なソフトランディングの方法だと思う。(談)