文科省は4月28日、6年ぶりとなる2022年度教員勤務実態調査の結果(速報値)を公表した。通常期となる10・11月の1日当たり在校等時間は、小学校教諭で10時間45分、同副校長・教頭で11時間45分、中学校教諭で11時間1分、同副校長・教頭で11時間42分となり、いずれも前回16年度の調査よりも20~30分ほど減少したものの、依然として長時間労働が深刻である実態が浮き彫りになった。夏休みなどの長期休業期を含めた1月当たりの推計時間外在校等時間は小学校で約41時間、中学校で約58時間。通常期に1週間の総在校等時間が50時間以上となった教諭の割合は、小学校で64.5%、中学校で77.1%に上り、単純にこれを1カ月間続けると仮定した場合、これらの教員は通常期には時間外勤務の上限指針(月45時間)を上回る勤務をしている、と文科省ではみている。一方、土日の部活動・クラブ活動の時間が減少したり、有給休暇の取得日数が増えたりといった改善も見られた。永岡桂子文科相は同日の記者会見で、「働き方改革の成果が着実に出つつあるものの、依然として長時間勤務の教師も多くて、引き続き取り組みを加速させていく必要がある」と述べた。
今回の調査では、小学校1191校(教員数1万7762人)、中学校1186校(同1万7477人)のほか、高校299校(同6939人)について、22年8月、10月、11月のうち、連続する7日間について業務記録を取り、集計した。合わせて、教員の性別・年齢・雇用形態・職名などの属性、学級担任の有無と担当学年、担当児童生徒数、校務分掌の状況、部活動の指導状況、業務改善の取り組み状況などを尋ねた。高校について調査するのは今回が初めて。
調査結果によると、10・11月の1日当たり在校等時間は、前回16年度の調査と比べ、土日・平日ともに、校長、副校長・教頭、教諭の全てで減少したものの、平日は小中学校とも10~11時間台となり、依然として長時間労働の実態があることが分かった。
一方、長期休業中である8月の平日20日のうち、所定の勤務時間を勤務した日数は小学校5.6日、中学校8.4日。長期休業中の勤務日(平日)の在校等時間は小学校教諭で8時間4分、中学校教諭で8時間26分となり、10・11月などの学期中と、長期休業中の働き方が大きく異なることが改めて示された。
10・11月を通常期(年10カ月)、8月を長期休業期(同2カ月)と見なして、年間を通じた教諭の1月当たりの時間外在校等時間を推計すると、小学校で約41時間、中学校で約58時間。中学校では長期休業期を考慮しても、月当たりの時間外勤務を45時間以内とする時間外勤務の上限指針を超えた。通常期の1週間当たりの総在校等時間が50時間以上となった教諭の割合は、小学校で64.5%、中学校で77.1%。文科省では、「仮に調査対象週と調査対象週以外の週の在校等時間が全く同じだと仮定した場合に、通常期の時間外在校等時間が月45時間以上のものの割合がおおむね1週間に50時間以上の在校等時間の割合と考えられる」(永岡文科相)と説明しており、現状では、小学校で3人に2人近く、中学校で5人に4人近くの教諭が時間外勤務の上限指針を超える働き方をしているものとみている。
教諭の平日の在校等時間は減少したが、一方で持ち帰り時間がやや増加した。土日は在校等時間、持ち帰り時間ともに減少した。30歳以上では、男性より女性の方が持ち帰り時間が長い傾向があった。
また小中ともに、学級担任(単式)をしている教諭で平日の在校等時間が最も長く、複式学級、特別支援学級の担任や専科指導、通級指導、日本語指導などの担当を上回った。また、学級担任の担当学年が上がるほど平日の在校等時間が長くなっていた。
さらに、担任児童数・授業担当生徒数が多いほど平日の在校等時間が長い傾向が見られたが、前回調査と比べると、担任児童数が多い教諭も在校等時間は減少した。中学校では、部活動の活動日数が多いほど、在校等時間全体が長くなっていた。
年代別に見ると、若いほど平日の在校等時間が長い傾向は前回調査と変わらなかったが、前回調査と比べ、40歳以下ほど減少幅が大きくなっていた。文科省では「上限指針を踏まえた長時間勤務の抑制のほか、1人1台端末の活用が広がる中、若い教員の方がICTの活用に慣れていることもあろうかと思う」(初等中等教育局財務課)と分析する。
それぞれの業務にかかる時間を前回調査と比較すると、平日は小中ともに「授業(主担当)」「朝の業務」が増え、小学校では「学習指導の時間」も増加した。一方、小中ともに「学校行事」は減少。加えて小学校では「成績処理」「学校経営」、中学校では「学年・学級経営」「生徒指導(集団)」の時間が減少した。
文科省では、「朝の業務」の増加は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う健康観察、「成績処理」の減少はICT環境の整備が背景にある、とみる。また「授業」や「学習指導」の増加については、コロナ禍での精選や見直しが進んだ結果、「学校行事」が減少し、その時間分が充てられた可能性を指摘する。持ち授業数は小学校教諭で平均23.9コマ(前回24.7コマ)、中学校教諭で同18.1コマ(同18.5コマ)と減少していた。
土日は小中ともに「学校行事」が減少したほか、中学校で「部活動・クラブ活動」の時間が40分と大きく減少した。文科省は「平日は少なくとも1日、週末は少なくとも1日以上を休養日とする」とした2018年の部活動ガイドラインが浸透したことや、部活動指導員の配置が進んだことが背景にあるとみている。部活動顧問の週当たりの活動日数は、前回調査では「6日」が最多で49.2%を占めていたが、今回は「5日」が56.1%で最多となった。
それぞれの業務の負担感ややりがいを尋ねたところ、授業や授業準備、生徒指導などの業務は比較的、負担感が低く、やりがいや重要度が高かった。一方で、事務や地域対応などの業務については相対的な負担感が高く、やりがいや重要度が低かった。
「仮に今よりも業務時間が短縮された場合、空いた時間をどのように使いたいか」という問いに対しては、「業務外のプライベートの時間を充実させたい」と回答した人が小学校で49.1%、中学校で55.7%いる一方で、「さらなる授業準備や教材研究などに充てたい」「職務としての研修(教育センターでの受講や校内研修)に充てたい」「自己研鑽(けんさん)に充てたい」といった、教員業務の質向上に取り組みたいという回答も小学校で48.4%、中学校で41.3%に上った。
働き方改革の取り組みについて、学校閉庁日を実施する学校の割合が前回調査では6割前後だったが、今回は小中ともにほぼ全ての学校で実施されており、ノー残業デーを実施する学校の割合も6~7割に上った。教員の有給休暇取得日数は、小学校で年間平均13.6日(前回11.6日)、中学校で10.7日(同8.8日)と増加した。また、全体の7割以上の小中学校で、業務改善状況や在校等時間の公表、保護者・地域に対して働き方改革への理解や協力を求める取り組みを実施していた。
こうした結果を受け、永岡文科相は4月28日の閣議後会見で「今後は、有識者らで構成された調査研究会において整理された論点をもとに、中教審における検討に速やかに着手する。今回の調査結果などを踏まえ、教育の質の向上に向けて、働き方改革、(教員の)処遇改善、そして学校の指導運営体制の充実を一体的に進めていきたい」と述べた。調査研究会では、4月13日にまとめた論点整理で、①教員給与②教師の勤務制度③さらなる学校の働き方改革の推進④学級編制や教職員配置⑤支援スタッフ配置――を挙げている。
中教審に対する諮問の考え方について、文科省初中局財務課の担当者は「これまでの取り組みの一定の成果が出ている。他方で、例えば学期中の小学校の教諭でいえば、1日平均3時間、副校長・教頭先生は4時間という時間外在校等時間がある。そういった部分については、さらに改善をする部分を検討していく必要がある」と指摘する。
在校等時間が減少した部分については「おそらく、何か一つだけの要因で減っているということではない。学校現場の業務の削減に向けた地道な取り組みもあるし、上限指針を作って、意識の変容を迫られたということもあると思う。国においても定数改善や、教員業務支援員を増やしてきた。そういった取り組みの効果が一定程度あったと思っている。まだまだやらないといけないということが、今回の調査結果で示された」と語る。
長時間労働の改善に向けては「何か一つの要因があるわけではない。国で制度を見直していくことはもちろん必要だし、一方で学校現場での個々の小さな取り組みも必要だ。学校での取り組みも、地域や学校で差がある。学校現場でできること、地方自治体、教育委員会でできること、国がすべきことについて、それぞれが責任を果たしていくということが必要だ」と、複合的な取り組みが重要になるとみる。
また、「時間外在校等時間というのを減らす観点で言えば、マンパワーを増やすというのも一つの方法だし、その中で学校の教員を増やすということも一つの方法だが、今やっている仕事を全て、本当に教員がやるべきなのかも当然、考えないといけない。専門的なスタッフを活用していくことも一つの方法だ。勤務制度について、通常期と長期休業期の働き方が大きく異なることを踏まえると、今よりもっと学校の特性に合った仕組みを考えられないか、という点も重要になる」との見方を示した。
その上で「例えば、勤務間インターバルについて今、国家公務員で議論がスタートしているが、学校では遅くまで残って仕事をした次の日、授業が始まるのは午後になる、というわけにもいかない。そうした学校の特性がある中で、勤務制度やマンパワー、指導・運営体制、給与や処遇の在り方を含め、どのように健康に良い仕組みを作れるのかを考えていかなければならない」と説明する。
長時間労働の改善を巡っては、2019年1月に文科省が策定した、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が同年の給特法改正で「指針」に格上げされ、法的に位置付けられた。そこでは、給特法上の超勤4項目以外を含め、学校教育活動に関する業務を行っている時間として外形的に把握できる時間(休憩や自己研鑽の時間を除く)を「在校等時間」と定義し、時間外在校等時間の上限を1カ月で45時間以内、1年間で360時間以内と定めている。改正給特法ではまた、休日の「まとめ取り」のため、1年単位の変形労働時間制を導入可能にする制度も盛り込まれている。