「あなたの地域で教員になる魅力は何ですか?」全教委に聞く

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 教員採用倍率の低下や教員不足が大きな課題となっているが、そこでは自治体間の差も大きい。教員採用試験では民間企業の就活と比べ、「地元の学生が、そのまま地元の教員になる」というケースも多く、学生が先進的な取り組みをしている自治体を選んで受験したり、自治体が学生に選ばれることを意識してアピールしたりする必要性がさほどないとされてきた。教育新聞はそうした実態を知るため、今年3月中旬から4月下旬にかけて、教員の任免権者である全68の都道府県・政令市教委(大阪府豊能地区人事協議会を含む)に取材。「その自治体で教員になる魅力」について、採用担当者がどう捉え、教員志望者に発信しているのかを尋ねた。

多くの自治体が挙げたのは「土地の魅力」

 「えっ、うちならではの魅力ですか……」。各教委の担当者に、その自治体で教員になる魅力やメリットは何かを尋ねると、多くの場合、そうした戸惑いの反応が返ってきた。教育や教職の魅力ではなく、「その自治体ならではの魅力」という質問に引っかかりを感じたようだった。ある県の担当者は「教育委員会として言語化できていない。これからする必要があると思う」と率直に語った。

 独自のアピールポイントとして、多くの自治体の担当者が真っ先に挙げたのは、その土地の魅力だ。「山も海も都会も田舎もある。ライフスタイルが選べる」(南関東)、「東京や仙台に近い立地。田舎と都会、両方の良さが味わえる」(北関東)、「都市部、山間部があり魅力的な土地」(南関東)、「豊かな自然がある」(近畿)、「自然環境が良く、山や海が生の教材」(東海)、「風光明媚(めいび)なところ」(四国)、「温泉も自然も、おいしい食べ物もあり、若い人にとっても暮らしやすい」(九州)など。

 こうしたアピールには、居住環境が良いということだけでなく、教育活動を充実させられることや、教員としてさまざまな経験を積めることを強調する意図があるようだ。九州地方のある県の担当者は「自然豊かな地域が多い。そうした環境が児童生徒の気質にもつながっていて、素直で純朴な子が多い。教員はじっくり子供たちと向き合って、成長を見守っていける」と語る。また中国地方のある県の担当者は「田舎ののんびりした、小規模の学校が多い。少人数で一人一人に向き合える時間があるので教員も働きやすい。また、ふるさと教育にも力を入れているので地域に根差した教育に取り組める」と話した。

 一方、政令市では、都市部の交通網が発達しており通勤が便利であること、異動があっても市内にとどまるため、生活の拠点を決めやすいことなどがしばしば挙げられた。政令市や規模の小さい県では、「研修会場が近い」、「同期の横のつながりが強い」といった魅力、東日本大震災の被災地となった自治体からは「復興という明確な目的の中で前向きに働ける」、「震災復興を支える子どもへの教育に携われる」といったアピールが聞かれた。「教員は他の職業と比較して、安定した収入が得られる」という回答も、地方の自治体で多かった。

教育DXや探究活動…先進的な学びの取り組みをアピール

 先進的な教育の取り組みをアピールする自治体もあった。全国に先駆けて20年度に1人1台端末を配備した山口県では「本県の強みは、地域連携教育と教育DXの推進。全校がコミュニティ・スクールだ。ICTの活用も、今後もさらに推進していく」と力を込める。熊本市は「コロナ禍においても、いち早くICTを導入した教育に取り組んできたという自負がある。変化に柔軟な教育現場を目指している」と話す。

 広島県は「本県は探究的な学びを大切にしながら、『生きるとはどういうことなのか』『学ぶとはどういうことなのか』といった本質的な問いを軸に据えた授業づくりを続けてきた。これは学習指導要領の改訂前から取り組んでいる。内申点など高校入試改革も、自分の在り方、生き方を考えるところが反映されている」とアピールする。

 兵庫県は自然学校やSTEAM教育、防災教育などの取り組みを「兵庫県の教育 6つの特別な事」と定義。それらの取り組みについて現職教員が説明する動画を作成し、県の公式YouTubeで公開している。佐賀県は「県教委のスローガンが『褒めよう佐賀っ子』。子供たち一人一人を大事に、認めようという方針でやっている」と語る。

 さいたま市は「ICT活用や英語教育、教育DXに取り組んでいる。不登校対策にも力を入れている」。神戸市は「学級担任を固定せず、児童生徒の指導や事務処理などを複数の教員がローテーションで担当する、学年(チーム)担任制の導入を進めている」と新しい取り組みを紹介した。

学生からのニーズは「学校の働き方改革の促進」

 一方、教員志望の学生たちは、自治体のどのような取り組みを重要視しているのだろうか。教育新聞が3月、教員志望の学生読者を対象に実施したアンケート結果を見ると、教員の人材確保のために必要な施策として「教職の魅力発信」を挙げる学生の割合は32.8%にとどまった。割合が高かったのは、「学校の働き方改革の促進」(93.4%)や「教員の処遇改善」(83.6%)、「初任者の負担軽減・支援の充実」(78.7%)だ(「採用試験の早期化・複線化 教員志望学生の意識とニーズ」本紙電子版4月10日)。

 学生が重視する「働き方改革」を、アピールポイントに挙げた自治体もある。福岡市は「スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、教育相談コーディネーターを他自治体と比較しても手厚く配置し、教員が子供たちと向き合う時間を取れるようにしている」。石川県は「勤務実態調査を全国に先駆けて行い、採点システムの導入、県独自の働き方改革の事例集を3冊作成することなどに取り組んできた。部活動指導員など、外部人材も積極的に活用している」。名古屋市は「部活動の外部委託を進めている」と説明する。

 また、独自の少人数学級の取り組みを進めている点をアピールする自治体もあった。山梨県は「小学校の25人学級を推進している」、群馬県は「小1、2は30人、小3~中3は35人以下(GUNMA CLASS PJ)によるきめ細やかな教育ができる」。高知県は「県内の多くの学校は学校規模が大きくないので、1人の先生が受け持つ人数が多くない。また、中学校では『縦持ち型編成』を進めており、それが教員の負担軽減にもつながっている」と独自の取り組みを強調する。

 大阪市の担当者は「学生は、自分の時間を大切にできるかを気にしている。教員の働き方は『ブラック』だと言われるため、特に教員のサポート体制や働き方改革をアピールしている。支援員の配置やICT機器の導入で、子供と向き合う時間を確保できるようにしている、研修やサポート体制が手厚い、といった点は学生に響くようだ」と語る。

配置の工夫で初任者の負担を軽減

 同じく、学生からのニーズが大きい「初任者の負担軽減・支援の充実」は、大半の自治体の担当者が取り組んでいると語った。多く聞かれたのは、法定の初任者研修に加えて、配属前に学校現場を体験したり、事前研修の機会を設けたりしているケースや、配属後に教育委員会や学校で指導担当者がサポートを行うケースだ。

 例えば、北九州市は「受験前から大学生向けの出前講座を行っており、『こういう事象が起きたらどうするか』など、実際に教員になった時にどういうことが必要なのかを伝えている」という。同様にオンライン講座も開設している。さらに合格者には、採用前の1月~2月に「Fresh Teachers+」講座を行っている。「安心して学校現場に入れるように、また、学校現場に入ってからのことを実践形式で教えている。教員になる前から、同期の横のつながりをしっかり作ってもらうためでもある」と担当者は語る。

 京都府には、10人ほどの若手教員が共同で研究活動を行う『学び合いコミュニティー』があり、担当者は「先輩教員をメンターとして学ぶ機会がある。他校の教員とのつながりもでき、成長できる」と語る。東京都は本年度から、小学校の新規採用教員全員に対し、臨床心理士などが学校を訪問し、面談を行うアウトリーチ型の相談事業を展開している。

 さらに一歩踏み込んで、配属の工夫を行う自治体もあった。山形県は「大卒新採教員に単独で担任を持たせない」という施策を本年度から開始。広島県・広島市は「これまでも中学校では、1年目は担任を持たせていない。また、小学校も1年目に特別支援教室や複式学級の担任は持たせないというようには配慮している」、熊本県は「中学校では、新任教員は担任からスタートすることはほぼない」という。

 赴任地域の希望を申告してもらい、できる限り配属の希望に応えるという自治体もある。例えば、新潟県は上越・中越・下越・佐渡から第3希望までを選んで申告する。岐阜県も「若手の希望をできる限り踏まえた人事配置を行っている」と説明。茨城県は「部活動に複数顧問制をとっており、新任教員は正顧問にならないようにしている」としている。

 さらに経済面の支援として、「初任給調整手当を創設し、教諭として採用後5年間は毎月2500円の初任給調整手当を支給する」(岡山市)、「新採教員に対し、奨学金の返還支援制度を導入する」(岐阜県、京都府)といった取り組みもあった。

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