時間外勤務「月20時間」、教職調整額「10%」 自民特命委提言

時間外勤務「月20時間」、教職調整額「10%」 自民特命委提言
特命委の冒頭にあいさつする萩生田政調会長
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 教員の働き方改革や処遇改善を巡り、自民党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」は5月10日の会合で、政府に対する政策提言「令和の教育人材確保実現プラン」を取りまとめた。教員の長時間勤務について「将来的には月20時間程度を目指す」として学校現場のマンパワーの抜本的な拡充を掲げるとともに、「教師は高度な専門性と裁量性を有する専門職」だとして給特法の教職調整額を現行の4%から「少なくとも10%以上に増額」することを打ち出した。委員長を務める萩生田光一政調会長は会合後、こうした改革を実現するため「毎年度の国費投入額について約5000億円規模の拡充が必要になる」と説明した。提言では、こうした内容を今年6月に政府が閣議決定する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に反映させ、2024年度から3年間を「予算・制度両面を抜本的に改革する期間」と位置付けるよう政府に求めていく考えを明記した。

 提言では、改革の方向性として、まず「教師は崇高な使命を有する高度な専門性を要する専門職」と位置付け、「授業や学校経営などは、教師の創意と工夫による非常に創造的な営みであり、教職は裁量性の高い職務」と説明した。さらに、新時代に求められる教師像として「知識や技能を常にアップデートする『学び続ける教師』」を掲げ、社会人経験者も含めた「質の高い教職員集団を形成する必要」を指摘した。教員志望者の減少が懸念される現状を受け、優れた人材を確保するためには①学校における働き方改革のさらなる加速化②教師の処遇改善③学校における指導・運営体制の充実④優れた人材が教師を目指すための支援--の4点を「一体的にパッケージとして推進」する考えを示した。

 改革の具体策は多岐にわたり、さまざまな踏み込んだ内容が盛り込まれている。

 まず、教師の長時間勤務の状況を改善する目標として、「まずは、全ての教師の時間外在校等時間を月45時間以内とする」とした上で、「将来的には平均の時間外在校等時間が月20時間程度となることを目指す」と、段階的に教師の時間外勤務時間を月20時間程度まで減らす道筋を描いた。文科省が4月28日に公表した22年度教員勤務実態調査の速報値によると、夏休みなどの長期休業期を含めた1月当たりの推計時間外在校等時間は小学校で約41時間、中学校で約58時間となっており、この大幅な縮減を掲げた。

 提言では、そうした月20時間程度の時間外勤務時間を念頭に、教師の処遇改善を描いた。「真に頑張っている教師が報われるよう、職務の負荷に応じたメリハリある給与体系を構築」するとして、①教職調整額の増額(少なくとも10%以上に増額)②新たな級の創設(メリハリある給与体系の構築)③管理職手当の改善(管理職に優れた人材を確保)④学級担任手当の創設(学級担任の職務の重要性)⑤諸手当の改善(主任手当の改善・拡充等)--を挙げている。

 教職調整額の増額について「10%以上」と算定した理由について、萩生田政調会長は会合後、給特法制定時に当時の時間外勤務時間だった8時間に対して4%と算定したことを踏まえ、「そこに倣って(月20時間程度の時間外勤務時間ならば)10%という数字を逆算した」と説明した。

 時間外勤務時間について、教職調整額として一定額を支給するのではなく、時間外勤務の時間数に応じた時間外手当を支給する考え方については「取るべき選択肢とは言えない」と退けている。その理由について、提言では「教師は高度な専門性と裁量性を有する専門職であることを踏まえ、教師の職務の特殊性等に基づいた処遇とする必要」があると説明した。

 また、教師の長時間勤務を改善するため、学校のマンパワーを拡充する施策として「多様な専門性を有する人材を教育界の内外から確保し、きめ細かい指導体制の構築と外部専門機関と協働可能な『令和型チーム学校』 を構築」する考えを強く打ち出した。そのために、①中学校35人学級の実現②小学校高学年教科担任制の強化③通級による指導体制等の充実④主幹教諭、指導教諭、養護教諭、栄養教諭、事務職員等の充実--を列挙。支援スタッフの抜本的配置拡充として、「教員業務支援員と副校長・教頭マネジメント支援員 (仮称) の全小・中学校への配置」「スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)、部活動指導員等の抜本的配置拡充」を盛り込んでいる。

 教員志望者を増やすためには「教師の養成段階からの改革として、教職の魅力を高め、 志ある優れた人材が教師を目指すための支援が重要」と指摘。①大学と教育委員会が連携・協働した教師の養成・採用・研修の一体的充実(教職課程の見直しを含む養成改革、 教員養成大学等に地域枠を設定、奨学金の返還を免除・軽減)②心理・福祉等の特定分野に強みや専門性を有する教師の育成・配置③高度専門職としての学びやキャリア形成の保証・充実--を挙げた。

 こうした改革の実現に向け、提言では、政府に対し、これらの内容を今年6月に閣議決定する「骨太の方針」に反映させ、24年度から3年間を「予算・制度両面を抜本的に改革する期間」として、「スピード感をもって改革を計画的かつ段階的に進めるべき」だと促した。また、必要な予算を確保するため「毎年度の国費投入額について既成の概念にとらわれない大胆な拡充が必要」と指摘。「児童生徒の減少に伴い生じる財源の活用も含め、恒久財源の確保による予算の裏付けにより本プランの内容を確実に実現することを政府に強く求める」と結んだ。

 会合後、記者団の取材に応じた萩生田政調会長は、提言内容を実現するために必要な予算について、「どの程度の規模で充実させるかにもよるが、しっかりとした改革を行うには、私としては毎年度の国費投入額について約5000億円規模の拡充が必要になるのではないかと考えている」と説明した。

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