学校のマンパワー拡充「義務教育のコストが変わる」 萩生田氏

学校のマンパワー拡充「義務教育のコストが変わる」 萩生田氏
インタビューに応じる萩生田政調会長(河嶋一郎撮影)
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 自民党の政策提言「令和の教育人材確保実現プラン」を取りまとめた萩生田光一政調会長は5月11日、教育新聞のインタビューに応じ、教員の長時間勤務の解消に向けて「学校現場のマンパワーの抜本的な拡充を一体的に進める。中学校の35人学級、小学校高学年の教科担任制の強化、通級による指導体制の充実など教職員定数の改善、教員業務支援員の全小中学校への配置など支援スタッフの拡充を同時に、全部やっていく」と意気込みを語った。このために必要な予算措置について「秋の臨時国会でできるものがあれば、前倒ししていきたい。現状よりも大きな金額が必要になるが、義務教育のコストが変わることを社会全体で認めていかなければならない。この改革は財源があってもなくてもやらなくてはならないのだから、当面、臨時国債を発行してでも前に進むべきだ」と踏み込み、児童生徒の減少に伴って生じる財源をにらみながら、国債を当面の財源として改革に取り組むことも選択肢になるとの考えを明らかにした。

 萩生田氏は、自民党「令和の教育人材確保に関する特命委員会」が5月10日に取りまとめた提言が目指すゴールについて、「学校における働き方改革は、何か一つやれば解決するものではない。教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境を整備するのがわれわれの最大の目標。持ち帰りで苦労している教員がいる実態もわれわれは十分承知している。(文科省の教員勤務実態調査による)数字だけでは出てこない、隙間で苦労している教員がいることを前提の上で、改革をしようと思っている」と説明。「改革を実現するためには、提言にあるように、取り組み状況の見える化をはじめとした学校における働き方改革のさらなる加速化、教師やさまざまな支援スタッフなどマンパワーの抜本的拡充を、一体的に進めることが必要だ」と強調した。また、給特法の教職調整額を現行の4%から「少なくとも10%以上に増額」するなどの処遇改善だけではなく、「提言が描いている改革のパッケージ全体に注目してほしい」と述べた。

 学校現場にとって最大の関心事となっている教員の長時間勤務の解消については、学校のマンパワーの充実を大きく掲げた。例えば、「私が文科大臣のときに学校の支援スタッフ(教員業務支援員)を導入したけれど、これはもはや学校にとって必要不可欠になっている。児童生徒の規模に応じて、全国全ての小中学校に1人ないし2人、大規模校だったら3人もあるかもしれない。学習支援のためのスタッフがいてくれて、今まで教員が自分でやっていた印刷業務だとか、授業準備の段階で外注できるのは大切だ」とした。

 さらに、「中学校の35人学級、小学校高学年の教科担任制の強化、通級による指導体制の充実など教職員定数の改善をしっかりやっていく。教員業務支援員の全ての小中学校への配置、スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)、部活動指導員など支援スタッフの抜本的配置拡充もやっていく。意気込みを言うと、それらは同時に、全部やっていこうと思っている」と説明した。

 こうした改革を通じて、教員の業務量はどのように変わっていくのか。提言では、「小学校高学年の学級担任の持ちコマ数が5コマ程度減少するとともに、中学校35人学級などきめ細かい指導と教師が教師でなければできない仕事に全力投球できる環境が実現する」と高らかにうたっている。

 これについて萩生田氏は「小学校高学年の担任を受け持つ教員は、現状では、午前8時半から午後5時までの勤務時間にほとんど隙間がない。小学校高学年の教科担任制の強化によって持ちコマ数が5コマ程度減少すれば、イメージとしては、小学校低学年の担任と同じくらいの持ちコマ数になる。そうすると、少なくとも1日のうちに、1時間か2時間くらいの隙間ができて、それが調整タイムになる。いま放課後に残ってやっている仕事を、その空いた時間でやれる仕事に変えていく」と説明した。

 提言が月20時間程度の時間外勤務時間を想定して給特法の教職調整額を現行の4%から「少なくとも10%以上に増額」すると打ち出したことについて、萩生田氏は「月20時間の残業を必ずしてほしい、というつもりは全くない。学校の先生の仕事は、非常に多岐にわたっているし、なかなか時間で切り分けがしづらいという問題があったので、われわれは月20時間程度の時間外勤務時間があることを想定し、給特法の教職調整額を残す選択をした。でも、月20時間の残業をしないで帰る人もいるでしょう。それでいい。そういう学校現場に変えていかなければいけないと思っている」と述べた。
 
 また、保護者からの過剰な苦情や不当な要求に対して、提言は「行政が対応を引き受ける仕組みを検討するべきである」と明記した。萩生田氏は「これが教員が辞める一番の理由ではないか。この対応は教育委員会がやればいい。教育委員会が手に負えなかったら法律の専門家などに任せればいい。教員は責任感が強いから、これまで社会課題を自分たちで背負い込んできてくれたけれども、今回、この改革で全ていったんリセットするべきだと思う。それは社会も認識してくれなければいけない」と話した。

 こうした学校のマンパワーの充実には、当然ながら、予算措置が必要となる。萩生田氏は5月10日、特命委の会合後、「毎年度の国費投入額について約5000億円規模の拡充が必要になる」と説明した。

 この国費5000億円の内訳について、萩生田氏は11日のインタビューで、▽教職調整額の10%への引き上げで700億円かかり、これを含めた教員の処遇改善に計1000億円▽中学校の35人学級など教職員の定数改善で2000億円▽支援スタッフの抜本的拡充と教師の育成支援で2000億--と積算していることを明らかにした。さらに「地方自治体の財源も増やさなければならない。地方交付税交付金も含めると(5000億円の)3倍くらいみておかなければならなくなる」と明かした。

 こうした予算措置に対する財源について、提言では「児童生徒の減少に伴い生じる財源の活用も含め、恒久財源の確保による予算の裏付け」を政府に強く求めた。これについて、萩生田氏は「公教育の費用なのだから、堂々と予算で措置して、国民の代表である国会が認めていけばいい。現状よりも大きな金額が必要になってくるので、義務教育のコストが変わることを社会全体で認めていかなければならない」とした上で、「お金がないからやらない、という選択はあってはならないと考えている。今やろうとしている改革は、財源があってもなくてもやらなければいけないのだから、少子化による児童生徒の減少によって生じる財源が安定的に落ち着くまでの間は、例えば臨時国債を発行してでも、前に進むべきだ。(提言が改革期間と位置付けた)この3カ年は、そういう手法も一つの選択肢にはあってもいい」と述べ、国債発行を財源とする教育投資の増大に踏み込んだ。

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