こども家庭審議会の児童虐待防止対策部会は5月12日に初会合を開き、昨年改正された児童福祉法の、来年4月からの施行に向けた検討を行った。委員からは、こども家庭庁が積極的に市町村と都道府県の壁を取り払っていくことや、施行に向けた十分な来年度予算の確保を求める意見などが出た。
児童虐待の相談対応件数の増加などを受けて昨年に改正された児童福祉法では、子育て世帯に対する包括的な支援に向けた体制強化として、市区町村にこども家庭センターを設置することや、一時保護所の設備・運営基準の策定、児童福祉施設などに入所していた人への自立支援の強化、児童相談所などにおけるこどもの意見聴取の仕組みの整備、一時保護を開始する判断に対する司法審査の導入、認定資格としての「こども家庭ソーシャルワーカー」の創設などを盛り込んでおり、このうち司法審査の導入などを除き、多くの新制度が来年4月1日からの施行となっている。この日の会合では、施行に向けた調査研究の状況が報告され、夏ごろにまとめる来年度予算案の概算要求も視野に、委員から意見を聴取した。
議論の中では、法改正で打ち出された新たな事業の実効性を高める視点から、増沢高委員(子どもの虹情報研修センター副センター長)が「市町村の職員で児童養護施設や乳児院を知らない、見学したことのない人がたくさんいる。施設の方も児童相談所との連携は密にしていても市町村との連携が弱い。施設が多機能化し、市町村支援にも貢献しようとなっても手が届かない状況を改善しないといけない。つまり、市町村と都道府県の縦割りの壁が厚い」と述べるなど、複数の委員から市町村と都道府県の連携の問題を指摘する声が上がった。
また、家庭で過ごすことが困難とされた場合に、一時的に支援対象のこどもが保護される「一時保護所」について、藥師寺順子委員(大阪府中央子ども家庭センター所長)は、大阪府では夜間や休日の受け入れが増加し、その対応が課題になっていると報告。
「一時保護所に入所してくるこどものほとんどが虐待通告を受けて一時保護となっており、虐待の影響から精神的に不安定な状態になっていて、自傷や暴力など、行動上の課題があるこどもが増えている。そういったこどもたちが安心・安全な環境で生活するためには、職員の支援の専門性の確保はもちろん、職員配置の充実が切実な問題になっている。国の基準を示すにあたっては、全国の一時保護所の状況や児童相談所の意見を十分に聞いていただき、人員や予算要求を来年度に間に合うような時期までに示してほしい」と要望した。
加えて、大久保法彦委員(滋賀県中央子ども家庭相談センター所長)からは「一時保護所にいる期間が長期化することは本来よくないが、やはり長期化してしまうと学習保障のことが非常に悩ましくなる。これに関しては、教育サイドと、ICTを活用するなどして、保護されたこどものプライバシーを守りながら学習の機会を提供する方法が考えられないか」と、教育分野と連携した学習機会の保障に取り組む必要性が提案された。
児童虐待の対策を巡っては、これまで厚労省の社会保障審議会児童部会で主に議論してきたが、こども家庭庁の発足に伴い、こども家庭審議会に児童虐待防止対策部会を設け、児童虐待の調査・審議を引き継ぐこととなった。また、児童虐待防止法に基づき、社会保障審議会に設けられていた「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」も、児童虐待防止対策部会の下に改めて設置する。部会長には山縣文治委員(関西大学人間健康学部人間健康学科教授)が選出された。