新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた教育の在り方について討議する先進7カ国(G7)教育相会合が5月12日、富山市で開幕した。初日の12日は、会合の参加者が富山市内の小学校と中学校を訪問し、地元の食材を生かした日本の給食や郷土芸能の「おわら踊り」を児童生徒と共に体験するエクスカーションが行われた。13、14の両日に行われる会合では、コロナ禍の経験から明らかになった教育の本質的な価値、これからの未来を支える人材に必要な資質・能力などについて各国の教育相が基調発表を行う。永岡桂子文科相は12日の閣議後会見で、会合の席上、「調和と協調に基づく日本型ウェルビーイング」という考え方を説明する考えを示した。関係筋によると、会合では、「ChatGPT」など対話型の生成AIが教育に与える影響についても議論する。
今回のG7教育相会合は富山市と金沢市で開かれ、13日までは富山市、14~15日は金沢市がそれぞれ会場となる。日本でG7教育相会合が開催されるのは、2016年に岡山県倉敷市で開かれたG7倉敷教育相会合以来となる。
12日のエクスカーションでは、各国の参加者がまず富山市の芝園小学校(國香真紀子校長、児童592人)を訪問。ランチルームで2年生の児童96人と地元の食材を使った日本の給食を体験した。この日の献立には、富山県特産の食材であるシロエビと新タマネギのかきあげ、富山県砺波市で作られる大門そうめんが入った汁物、富山県産のブランド米「富富富(ふふふ)」を使った五目ご飯といった、富山の食材がふんだんに盛り込まれていた。給食の途中には、6年生の児童が、G7教育相会合の参加国にちなんだクイズを行い、児童たちは各国への理解を深めた。
給食を終えた各国の参加者は、1人1台の端末を使った5年生の国語と算数の授業を視察した。國香校長は「児童が自ら考えて学ぶことを重視しており、教員はおおざっぱな方向性だけを説明して、どのように学びを進めていくかはそれぞれの児童が自分で考えていくようにしている。そのときにICT端末は重要な役割を果たす」などと、個別最適な学びの取り組みを説明した。
続いて、各国の参加者は昨年4月に2つの中学校が統合して開校した、富山市の八尾中学校(横野誉子校長、生徒433人)を訪れた。同校の郷土芸能部員31人が、「おわら風の盆」で知られる地元のおわら踊りを紹介。体験型のエクスカーションらしく、各国の参加者に一人ずつ生徒が寄り添い、1対1で踊り方を伝えた。最後は会場となった体育館全体を使って全ての生徒と各国の参加者が輪になって踊り、和やかな雰囲気に包まれた。
13、14の両日に行われる会合では、コロナの影響を踏まえた今後の教育の在り方が主要なテーマとなる。13日はオープニングセッションとして各国の教育相が基調発表を行う。これに続いて、初等中等教育を中心に、「コロナ禍を経た学校の在り方」と「全ての子供たちの可能性を引き出す教育の実現」が議題に設定されている。14日には高等教育に焦点をあて、「社会課題の解決とイノベーションを結び付けて成長を生み出す人材の育成」と「コロナ禍の変化を受けた今後の教育の国際化とその役割」が議題となる。14日には議論の成果として「富山金沢宣言」を採択する。
永岡文科相は12日の閣議後会見で、「共通の価値観を有し、世界をリードするG7各国などと共に、教育の重要性を改めて協議し、有意義な成果を世界に発信できるよう、議長として尽力したい」と抱負を述べた。また、第4期教育振興基本計画(2023~27年度)に対する中教審答申に盛り込まれた「日本型ウェルビーイング」について、「中教審答申では、日本社会に根差したウェルビーイングの向上がコンセプトの一つになっており、調和と協調に基づくウェルビーイングという考え方が示されている。日本においては、個人の達成に関わる自己実現であるとか、自己肯定感というものに加え、人と人とのつながりに基づく協調的な要素が幸福感にとって重要だと考えている。G7教育相会合では、各国にこうした考え方を紹介したい」と説明した。
関係筋によると、これまでの事前折衝では、「ChatGPT」など対話型の生成AIが教育に与える影響について関心を持つ参加者が多く、設定されている議題の随所で生成AIの影響について議論が行われる見通し。