教員の人材確保、「各国の共通課題」と確認 G7教育相会合

教員の人材確保、「各国の共通課題」と確認 G7教育相会合
最終となった第4セッションで冒頭発言を行う永岡文科相=5月13日、金沢市(代表撮影)
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 成果文書「富山・金沢宣言」を採択して5月15日に閉幕した先進7カ国(G7)教育相会合で、コロナ禍の試練を経た各国の教育担当大臣の共通認識として示されたのは、対面教育とICT活用がともに重要であり、この両面を支えるために教員が担う役割が極めて大きいということだった。そこから見えてきたのは、ICTスキルを含めた教員の指導力向上の必要性であり、優秀で専門性の高い教員の確保に腐心する各国の姿だった。共同記者会見では、各国の代表者から「教育予算を大幅に増やしている。より良い給与も含め、教員の採用は各国共通の問題だ」(フランス)、「教員の働き方を劇的に変えなければならない。教員が専門性を高めるとともに、若い人が教職に魅力を感じるための施策が大切と考えている」(ドイツ)といった取り組みが紹介された。今回の教育相会合からは、教員の指導力向上と人材確保、それを裏付ける処遇改善や職場の環境整備への取り組みは世界共通の潮流になっていることが浮かび上がってきた。

 会合2日目の13日、午後からの実質討議のスタートを控えた昼食会の席上、議長を務める永岡桂子文科相は「実は、日本では教員不足で大変だ」と切り出した。教員志望者の減少や臨時的任用教員と非常勤講師の確保が追い付かず、教員不足が学校現場の大きな課題になっている現状を伝えた。

 「私が教員不足の話をしたら、各国の代表者から『うちでも』『うちでも』と、次々に声が上がり、その議題が大変話題になった。その後の議論では、新しいICTスキルを習得した教員が、これから一生懸命子供たちを導いていかなければいけない、という話になった。日本と同じような教員不足を各国が抱えていることを初めて知り、大変勉強になった」

 永岡文科相は14日の共同記者会見で、教員の人材確保というテーマが13日の昼食会からその後の実質討議に続いていった様子をこう説明した。

 文科省の出席者によると、13日の実質討議では、教員が担う役割の重要性がいくつかの文脈で登場している。第1セッションの「コロナ禍を経た学校の在り方」では、コロナ禍の影響でオンライン教育が進んだ一方で、対面教育の重要性は変わらないのではないか、という議論の流れで、教師の存在の重要性が指摘された。教員との対面で学ぶ中で、子供たちは社会性や人間関係を学ぶことができるといった議論だった。

 もうひとつ、強く指摘されたのが、教員のICTスキルの向上に取り組む必要性だった。デジタル化の進展によって当然、教員の指導法も変わってくる。それに対応するための教員の能力開発、特にデジタルに対応した能力の育成が非常に大事になってくる、という指摘が相次いだという。

 こうした議論は、成果文書となった宣言の中で、「学校は、対面での教育や協働的な学びの機会を提供するとともに、子供が安心できて、受け入れられていると感じることのできる居場所・セーフティーネットとしての役割を果たしている。これによって、学校は子供の心と身体の健康を支えることを含めて、ウェルビーイングを高める役割を担っている」と、対面教育が子供たちの心身の健康を支え、ウェルビーイングの向上にもつながる、とまとめあげている。また、ICT環境整備の重要性について「コロナ禍を契機として進展したリアルとデジタルを効果的に融合した教育の促進に向けて、私たちはICT環境の整備を継続していく」と指摘した上で、「教師のICTスキルの向上に取り組む」と強調した。

 第2セッションでも、教員が担う役割の重要性が繰り返し登場した。文科省の出席者によると、このセッションのテーマに設定された「全ての子供たちの可能性を引き出す教育の実現」について、各国の代表者による現状と課題の説明が一巡し、自由討議に入ったとき、昼食会での議論を引き継ぐように、ある国の代表者から教員のなり手不足について議論を切り出し、各国の代表者が次々と自国の状況や抱えている課題を説明した。

 教員の給与は重要な問題だとして、いくつかの国から「教員の給与をなるべく引き上げるように努力している」「もうすでにある程度終わった」といった発言があった。同時に、「これからの学校教育自体が、将来、教員になる人々を引きつけるような形で変わっていくべきではないか」との議論も交わされた。文科省の出席者は「どうやって優秀で専門性の高い教員を確保していくのか、という問題が各国共通の課題として認識され、かなりいろいろな議論が行われた」と説明している。

 取りまとめられた宣言では、テーマとなった「全ての子供たちの可能性を引き出す教育の実現」のため、一人一人の子供への個別最適な学びと互いに学び合う機会を確保するとした上で、「今後の教育においても、教師と生徒の対面によるやりとりが引き続き最も重要である」と明記。「対面による教育を置き換えるものとしてではなく、補完するものとして年齢や発達段階に応じたデジタルの活用を奨励する」として、生成AIを含めたデジタル活用は、教員による対面指導の補完と位置付ける考えを明確にした。

 さらに、教員に対する支援の重要性を取り上げ、「能力のある、十分な支援を受けた教職の価値を認識」するとともに、「教師の指導力向上に向けて、世界水準の養成や専門的な研修の機会に教師がアクセスできるよう取り組む」と説明。教員の職場環境の整備についても「教師のウェルビーイングを支える文化の構築に向けて学校と取り組むとともに、教師が本来の業務に専念できる環境づくりを図る」と書き込んだ。

第3セッションの開始前に準備をするG7各国の代表者ら=5月13日、金沢市(代表撮影)
第3セッションの開始前に準備をするG7各国の代表者ら=5月13日、金沢市(代表撮影)

 各国の代表者は14日の共同記者会見で、教員の人材確保の重要性について、さまざまな表現で語った。

 イタリアのジュゼッペ・ヴァルディターラ教育・功績相は「教員はこれまでよりも教育のプロとして専門家になっていくだろう。そのための人材確保は厳しい局面にあるが、われわれはきちんと支援していくことが重要だ。その中でも、教員にきちんとした給与体系を用意することが必要になると考えている」と述べ、教員の待遇改善を含めた取り組みを進める姿勢をみせた。

 フランスのパップ・エンディアイ国民教育・青少年相は「今回の会合では、教員が教育システムのど真ん中にいることを確認し、教員たちがどのような価値を発揮していくべきかを議論した。社会が子供と向き合うためには、優秀な人材を教員に引きつけるための努力をしなければならない。今回の議論で、教員により良い給与を提供することを含め、教員採用は各国の共有課題だと分かったので、フランスも協調して取り組みたい。フランスではここ数年、教育予算を大幅に増やしてきたことをお知らせしたい」と、教職の魅力を高めることが必要との認識を示した。

 ドイツのクリスティーナ・クリボー・ザールラント州教育文化相は「教員の人材確保は明らかにG7共通の課題の一つであることが、今回の会合で分かった。ドイツでは、教員という職業の価値を考え、教員の働き方を劇的に変えなければならないと考え、取り組みを進めている。教員がより一層、教育のプロフェッショナルになることが必要になっており、教員が専門性を高めるための支援を行っている。同時に、若い人が教職に魅力を感じるようになるための施策も大切だ。また、事務作業に追われ、本来の業務が十分にできない教員がいる。そうした教員の働く環境を改善しようとしている」などと、自国の取り組みを説明した。

オープニングセッションの開始を前に笑顔をみせる永岡文科相=5月12日、富山市
オープニングセッションの開始を前に笑顔をみせる永岡文科相=5月12日、富山市

 「ICTが学校に持ち込まれる中で、各国が教員の指導力向上や処遇改善に取り組もうとしている。各国それぞれ教育のシステムが違うのに、日本と同じように教員不足を抱え、同じ課題に向き合っていることを初めて知り、率直に驚いた。議論の中で各国それぞれの取り組みを聞きながら、私も頑張らなければいけないな、という気持ちを改めて強くした。いろいろな刺激を得ることができ、今回のG7教育相会合をやって、本当によかったと思っている」

 永岡文科相は共同記者会見終了後、教育新聞記者に対してこう述べ、学校の働き方改革や教員の処遇改善に取り組む考えを改めて強調した。

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