【教員採用を問う③】ここで働きたいと思える環境を 美濃教育長

【教員採用を問う③】ここで働きたいと思える環境を 美濃教育長
独自のインターンなど、ユニークな取り組みで自治体の魅力を発信している松原市の美濃教育長(2022年9月「AIM」について取材時の写真)
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 今年度実施の教員採用試験では、多くの自治体で早期化や複線化をはじめとする改革が進む。教育新聞では、教員志望の学生と教員採用を行う自治体(教育委員会)にアンケートと取材を行った(「採用試験の早期化・複線化 教員志望学生の意識とニーズ」、本紙電子版4月10日)、「大学3年生受験、教員免許不要… 人材確保に奔走する教育委員会」、本紙電子版5月1日)、「あなたの地域で教員になる魅力は何ですか?」全教委に聞く、本紙電子版5月2日)。その中で浮かび上がってきたのは、「その自治体で教員になる魅力」について、多くの自治体は言語化できていないことだった。こうした結果を受け、昨年度より独自のインターン制度を設けるなど、ユニークな取り組みを進める大阪府松原市の美濃亮教育長は、これ以上、採用後に辞める人が増えないためにも「ここで教員になりたいと思えるような環境づくりが必要だ」と訴える。教員採用試験を巡る考えや、学生側の思いをどのように受け止めているのかについて見解を聞いた。

コロナ禍で変化した学校現場に、教員養成課程の中身は追い付けているのか

 4年前、本市の教育長に着任して以来、さまざまな大学で出前講義を行っている。その中で感じるのは、同じ教育学部の学生でも、個人個人でかなりの温度差があるということだ。卒業後の自分のキャリアについて、迷いのある学生も多い。逆に、大学1年生の段階から「絶対に教員になる」と強い思いを持っている学生もいる。今回、関東の自治体を中心に広がっている「大学3年生受験」は、こうした学生の意識の差によっても賛否が分かれているのではないだろうか。

 また、この3年間で世の中は大きく変化した。それは学校現場でも同じだ。学校現場を視察していると、GIGAスクール構想の推進により、1人1台端末が導入されたことで、教室の風景が大きく変わったことを強く感じている。

 しかし、果たして大学の教員養成課程の体制は、こうした学校現場の変化に追い付けているだろうか。教員養成学部の教員は、最新の学校現場の状況にアジャストできているだろうか。文科省も、教員養成学部・学科の基幹教員のうち、2割を学校現場での実務経験を有する実務家教員とするよう示しているが、早急に教員養成課程の中身も変わっていく必要があると感じている。

 私は大学での出前講義で教員志望の学生たちに向き合う時に、「今まであなたたちが過ごしてきた小学校、中学校、高校とは、今はこんなふうに変わってきている」「今、現場の教員たちが抱えている悩みや困りごとはこんなことだ」と、できる限り具体的に、現場の今を伝えるよう工夫してきた。

 少しでも教員になりたいと考えている学生には、大学生のうちにさまざまな経験や知識を得てほしいし、本当に教職が自分のやりたいことなのかどうかを見極めてほしい。そのためにも、自治体側は「現場ではこんな課題を抱えている」「こんな教員が欲しい」と、しっかりと伝えていくべきだ。

「ここで教員になりたい」と思えるような環境をつくる

 教員志望の学生たちの一番の関心事は、ブラックだと言われる教員の働き方や職場環境だ。学生と接する中で、そこに強い不安を抱いていることをひしひしと感じている。アンケートで初任者への負担軽減や支援を求める結果が出ているのも当然の結果だろう。

 今の不寛容な社会において、学級経営や保護者対応はますます難しくなってきている。そんな中、大卒の初任者がいきなり学級担任というのは非常に厳しい。しかし、子どもの数が減少することで、1学年1クラスという学校も増えてきている。そうした学校では初任者でも学級担任をせざるを得ない状況で、自治体だけでなく国の支援も必要だ。

 本市では学期に一度、指導主事が初任者の授業を見に行き、アドバイスをしている。毎学期、同じ指導主事が行くようにしており、「前の学期よりこういうところが良くなっている」と、その都度、初任者の成長を感じ取りながらサポートすることを心掛けている。こうしたことは市町村の規模によっては難しい自治体もあるだろうが、初任者への支援を各学校に任せるだけでなく、教育委員会がしっかりと気を配る必要があると考えている。

 私自身も、昨年度から市内の各学校を回って、若手教員と意見交換する機会を持っている。学校側の都合と合わせながら、今夏までには市内の小学校15校、中学校7校を回る予定だ。

 意見交換の場では、興味深い話も聞けている。例えば、「働き方改革が叫ばれる中、退勤時間への意識は高まった。確かに身体的には楽になったように感じるが、『働き方改革=時短』のように短絡的に理解されることによって、教職としての仕事の密度や充実度が下がってしまったようにも感じる」という声もあった。また、「コロナ禍において教員同士のミーティングの時間が削られることで、困った時に相談しにくくなり、しんどくなってしまった」という初任者の声も聞いた。
 
 逆に、働き方改革の良い例として、市内のある学校では週に1回「マイノー残業デー」を設けているところもある。同じ曜日に全員がノー残業デーを設けるよりも、各自の都合に合わせて早く帰る日を決められ、より満足感も高まっているという。

 今後、さまざまな施策によって教員採用試験を受ける人数が増えたとしても、実際に教員になって学校現場に入った時の環境が良くなっていないと、辞めていく人が増えるだけだろう。そうならないためには、各学校や教育委員会が「ここで働いてみたい」と思えるような環境をつくることが重要だ。本教育委員会で2022年度から、近隣の大学に通う学生が一定期間、教育委員会で市の教育施策の課題解決に挑むインターン「松原市アドバンスト・インターンシップ(AIM)」を始めたのも、「松原市で働きたい」「この自治体で教員になりたい」と思ってもらえることを目指したからだ。今後も学生や教員の声に耳を傾け、必要な施策を打っていきたい。(談)

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