全国の公立・私立高校の校長らで構成される全国高等学校長協会(全高長)は5月17日、さいたま市の大宮ソニックシティホールで第75回総会・研究協議会を開いた。同協会会長の石崎規生東京都立桜修館中等教育学校校長は総会のあいさつで教員不足の問題に触れ、「私たちが今、何より先に始めなければならないのは、教育を最も大切にするという、教育へのリスペクトを取り戻すことではないか」と呼び掛けた。研究協議会では、探究活動に力を入れながら地域の中で存在感を高めている専門高校や、公設民営型の中高一貫教育の事例が報告された。
コロナ禍の影響もあり、同協会の総会が対面で開催されたのは4年ぶり。総会の開催にあたりあいさつした石崎会長は、教員不足や給特法の改正に向けた議論などに言及し、「もちろん、労働時間の短縮や賃金の上昇が喫緊の課題であることに異論はない。教職調整額を4%から10%以上にという議論も行われている。しかし、果たしてそうしたことだけで教員不足の解決につながるのだろうか」と疑問を投げ掛けた。
その上で「私たちの世代は子どもの頃から『日本には資源がないから、人材こそが資源。だから教育が最も大切なのだ』と言われ、育ってきた。大学を出て就職する頃の日本はバブル期で、民間企業の給与は教員の2倍、3倍という時代に、教職を選択した方が多いのではないかと思う。また、そうした中で人を育てることで得られる喜びに共感し、教育に関する使命感を持って教員になった方が多いのではないか。だからこそ、教員にとってお金は必ずしもインセンティブにならないということを、多くの先生方が感じているのではないだろうか」と指摘。「私たちが今、何より先に始めなければならないのは、教育を最も大切にするという、教育へのリスペクトを取り戻すことではないか」と強調した。
午後に行われた研究協議会では、各種コンテストに生徒が挑戦するなど、農業を軸にした課題研究に力を入れている青森県立名久井農業高校と、全国初の公設民営型中高一貫教育を展開している大阪府立水都国際中学・高校が、それぞれの特色ある取り組みを発表した。
名久井農業高校では、農業の専門科目である「課題研究」を2年生と3年生で4単位ずつ、計8単位に増やし、生徒の探究活動を教育活動の前面に押し出した。研究機関への見学や研究発表コンテストへの出場も積極的に行うだけでなく、同高自らが小中学生向けに農業に関する研究コンテストを開くなどしている。
発表した小泉朋雄校長は「最初は研究リポートの作成を煩わしいと思ったり、発表で人の前に立つことを嫌がったりする生徒も多く、これらの指導だけでも大変だった。しかし、コンテストでの入賞を報道してもらったり、地域のイベントで積極的に研究発表したりするなど、熱心に研究活動に取り組む生徒の姿を情報発信することで、生徒や保護者、地域に本校の研究活動が定着していった。地域の中学生は熱心に研究活動に取り組むことを理解した上で入学しており、現在は生徒自らが研究活動に積極的に取り組み、人前での発表に抵抗感を示す生徒もいなくなった」と長年の取り組みの成果を強調。地域の少子化によって生徒数の減少が課題となる中、同高がある南部町の支援を得て、昨年度から生徒の全国募集にも乗り出したという。
国家戦略特区制度を活用して全国初の公設民営による中高一貫教育を行う水都国際中学・高校では、英語教育や青少年の育成に取り組む大阪YMCAが運営を担っている。外国人の教員には特別免許状を発行し、教員の約3割が英語のネーティブであるという。
生徒の自主性や探究学習を重視し、留学や国際バカロレア(IB)などのグローバル教育を展開する同校の特色を説明した井上省三校長は最後に、同校の教員の働き方についても紹介。「先生方の働き方は他校と随分違う。ネーティブの先生は授業が終わると帰ってしまう。他の先生が授業以外のさまざまな仕事を引き受けているが、その先生方もほとんど定時で帰っている。これは、事務が教員の仕事をどの程度引き取れるかにある。事務作業の多くを事務が行うようにしていることで、教員が生徒や授業に向き合う時間を確保し、定時で帰ってもらうようにしている。先進的な教育をしているので先生方もしっかり勉強しないといけないので、さまざまな研究や研修の経費も学校が持つようにしている」と、公設民営によって教員が授業に集中できるようになるメリットを挙げた。