けテぶれ、ペップトーク、eスポーツ 未来の教育を語り合う

けテぶれ、ペップトーク、eスポーツ 未来の教育を語り合う
それぞれの実践について講演した左から山本指導主事、乾教諭、葛原教諭
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大阪市内でこのほど開かれた第1回「未来の教育を考える会」(ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンター主催)で、兵庫県公立小学校の葛原祥太教諭、香里ヌヴェール学院小学校の乾倫子教諭、大阪市教育センターの山本昌平指導主事がそれぞれの実践について講演した。教員や教育関係者、保護者など全国から150人以上が参加した同イベントでは、参加者同士で未来の教育について対話する時間も設けられ、「0から1をつくる教育をしていくために、教員自身が創造力を高めるようなチャレンジをし続けたい」「先の読めない時代だが、怖さではなく、ワクワクしかない」「教員も子どもも幸せになれる教室をつくっていきたい」など、熱い思いが語られていた。

 葛原教諭は「子どもたちが自ら学び出すけテぶれ」をテーマに講演。「けテぶれ」とは、葛原教諭が提唱している「計画→テスト→分析→練習」というサイクルを回す学習法だ。

 「今は変化の激しい時代で、多くのキーワードがどんどん変換されている。例えば、画一から個別へ、分けるからつなげる、教えるから任せるなどだ」と葛原教諭。その上で「では、画一的な学びは果たして不要なのか? とにかく子どもたちに任せればいいのか? 教えるということは無価値なのか?」と参加者に問い掛けた。

 葛原教諭はこうしたキーワードの変換期はバランス感覚が重要になると考えを示し、「どちらかが正解なのではなく、両輪の感覚を持って教育活動に生かしていく必要がある。それを教員一人一人が考えていくことが、未来の教育を考える上で大切なのではないか」と話した。

 また、「子どもたちに『自分で考えてやってみよう』と言っても、子どもたちはどうやればいいのかが分からない」と指摘。「小学校のうちに『自分で考えてやってみる』とはどうやればいいのかを教えてあげて、それを練習させると、自分でサイクルが回せるようになるのではないか」と話し、そのために「けテぶれ」を全ての授業において実践しているという。

 「自分は自分であるときに最も輝くという安心感があることで、子どもたちは『自分で考えてやってみる』サイクルを回すことができる。こうした安心できる土壌を育てることで、初めて主体的で対話的で深い学びというものが生まれてくる」と締めくくった。

 続いて、乾教諭は「ペップトークを教育に」をテーマに講演。乾教諭は、米国のスポーツ界で選手を励ます言葉掛けとして始まったペップトークを、子ども向けの「ペップ授業」として開発し、これまで3000人以上の子どもたちに授業を届けてきた。

 自身とペップトークとの出合いについて、「子どもたちに良かれと思って怒ったり、褒めたりしても、その思いが届くのはその時だけだった。もっと心の底から染みわたっていかないものかと考えていた時に出合ったのがペップトークだった。そうか、怒るのでもなく、褒めるのでもなく、励ませばいいのかと思った」と語る。

 また、ある小学1年生でのペップ授業の冒頭、「自分のことが好きか?」と問い掛けたところ、10点満点のうち、0点と答える子が複数人いたという。「たった6歳なのに、0点という子がいる。この国はどうなるんだろう」とその時の衝撃を打ち明けた。ペップ授業は、子どもたち同士がペップトークを使い合い、励まし合える言葉掛けができるように構成されており、授業後の子どもたちからは、「言葉は怖いけれど、役に立つと思った」や「自分は何でもできるんだなと思った」などの声が上がっているという。

 乾教諭は「人にはいいところも悪いところも、できることもできないこともある。でもそれでいいし、そのままでいい。ありのままの自分を大好きでいることが大事だと思っている。ペップトークに即効性はないかもしれないけれども、毎日『あなたならできると思う』と言われ続けた子が、いつか『あの言葉のおかげだったな』と思ってくれたらいいなと思って、私は言葉を掛け続ける」と力を込めた。

 山本指導主事は「企業と地域を巻き込む eスポーツで非認知能力育成」をテーマに講演。山本指導主事は昨年度まで大阪市立新巽中学校に勤務し、教育活動にeスポーツを取り入れてきた。

 コロナ禍に突入した2020年度、同市生野区が子どもたちを対象にしたeスポーツ大会を開催し、同校もそれに参加。ゲームを通じた学びの可能性に着目していた山本指導主事は、「学校教育はなかなか変わらない。だからこそ、ICTが学校に入ってきた時に、グレードの違うことをやれば、何か変わるのではないか」と取り組んだきっかけについて話した。

 昨年度は、泉佐野市がりんくうタウン駅構内に開設した「eスタジアム泉佐野」で、同校1年生の生徒らが考案したeスポーツ大会を開催。山本指導主事は「eスポーツを通して、どんなことを生徒たちに育みたかったかというと、非認知能力だ。ゲームは学校の学びとして成立するということを立証するために、子どもたちと教員で半年間、探究し続けてきた」と説明した。

 未来の教育について山本指導主事は、「先の見えない時代と言われているが、少子高齢化ということだけはほぼ確定している。子どもの数が減る中で、AIやテクノロジーでうまく解決できることは解決する力を育てていくことは、とても大事なことだ。また、日本の中だけで解決できる問題も少なくなり、国外の人と共に何かを成し遂げていくことも増えていくだろう。言葉や距離の壁が出てきたときには、ICTがうまく使えるかもしれない。さまざまな人や物とインクルージョンな社会を実現していく力が、これからの子どもたちには必要になってくる」と展望を述べた。

 それぞれの実践を中心とした講演に、参加者は大いに刺激を受けた様子だった。乾教諭は参加者に向けて、「私たち3人はそれぞれ違うことをやっているけれども、最上位目標は同じだ。『けテぶれ』や『ペップトーク』や『eスポーツ』でなくても、皆さんがそれぞれすてきだと思うことを、自信を持って進めていってほしい」と笑顔で呼び掛けた。

自分が考える未来の教育について発表する参加者たち
自分が考える未来の教育について発表する参加者たち

 同イベントの最後30分ほどは、参加者がそれぞれ紙に自分が考える「未来の教育」を書き出し、会場内を回りながら交流する時間が設けられ、「はじめまして」の参加者同士も積極的に対話の時間を楽しんでいた。

 広島県の高校教諭は、自身の考える未来の教育を「0から1をつくる教育」と表現。「今年度、自分でゼミを持つことになった。しかし、いざ20時間の授業を自由に考え、使っていいとなると、すごく困ってしまった。生徒に対して創造力を育めと言うけれど、私たち教員自身も創造力を高めたり、何かをつくったりすることに常にチャレンジしていかなければいけない」と力を込めた。

 また、愛知県の小学校教諭は「私たちはものごとの一部しか見えていなくて、それが答えなのかどうかも分からない。未来は予測できないのであれば、なんでもありなのではないか。そう思った時に、『怖い』ではなく『ワクワク』しかないのではないかと感じている」と述べた。

 福岡市の小学校教諭は「長時間労働などで苦しんでいる教員が子どもたちの目の前に立っているとしたら、子どもたちは幸せになれるだろうか。教員たちは、子どもたちを応援する気持ちを、ぜひ自分にも向けてほしいと思う。自分が幸せになっているその気持ちを子どもたちの前で一生懸命に表現して伝えていき、みんなで幸せになれるような教室をつくっていきたい」と決意表明していた。

 「未来の教育を考える会」の次回は、6月18日に東京都多摩市での開催が予定されている。

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