こどもの自殺対策の強化について検討している政府の「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」は5月19日、第2回会合をこども家庭庁で開き、こどもや若者の自殺対策に取り組む有識者からのヒアリングを行った。有識者からは、GIGAスクール構想で導入された1人1台端末を活用した心の健康診断の導入や、スクールカウンセラー(SC)の教職員定数化などが提案された。
こども・若者の自殺やメンタルヘルスの対策に取り組んでいる有識者からヒアリングを実施した関係省庁連絡会議
昨年に小、中、高校生の自殺が514人と過去最多となったことを受けて設置された関係省庁連絡会議では、6月に政府が示す「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)への反映を視野に、こどもの自殺対策の強化の取りまとめに向けて、議論を急いでいる。この日の会合では、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクの清水康之代表、九州産業大学学術研究推進機構の窪田由紀特任研究員、NPO法人あなたのいばしょの大空幸星理事長、公益社団法人子どもの発達科学研究所の和久田学所長・主席研究員らが、こどもの自殺対策やメンタルヘルスの課題について報告を行った。
清水代表は、国の自殺総合対策大綱に基づき、大人の自殺は減少させることができている一方、こどもの自殺対策は実態解明すらも行われておらず、国としての対策や専任組織、予算の確保が不十分だった結果、増加していると批判。「自殺対策に長年関わってきた者としてじくじたる思いだが、言ってみれば、こどもまんなか社会の真ん中に、落ちると自殺に追い込まれてしまう大きな穴が空いていて、それが放置される中、毎年大勢のこどもたちがそこに落ちて、または落とされて、自殺で亡くなっている」と、大人の自殺対策と同様に、こどもについても実態把握に基づく総合戦略と国の専任組織、十分な予算の確保が必要だと訴えた。
窪田研究員は、これまでの文科省の取り組みを振り返り、「これまでさまざまなところで心の健康教育の必要性・重要性は言い尽くされているが、効果的な実践につながらない。それを広げるためには、条件整備が不可欠だ」と指摘。次の学習指導要領で心の健康教育を体系的に学べるように位置付けることや、学校や地域間格差が大きいSCの配置について、教職員定数化することを検討するよう求めた。
これに対し大空理事長は「単純に、信頼できる大人が必要だという概念で、受け皿を増やすだけではだめだということだ。『SCに相談できない』『相談するのは恥ずかしい』『友達に見られる』『負けだ』といったスティグマがある。相談できる大人を増やす、受け皿を増やす一辺倒の施策ではなく、なぜこれまでSCを増やしてきたのにこどもの自殺は増えているのか。もしくは、新たにこれから予算を付けていく段階において、果たしてその施策によってどういった効果を得られるかといった政策の効果検証をできるように政策をつくり上げるのは必須ではないか」と強調。その上で、こども・若者の相談窓口はチャットやSNSを中心に置き換えること、教育機関での1人1台環境を生かした日常的なストレスチェックの義務化などを提言した。
和久田所長は、自殺リスクが表面化する前には、必ずメンタルヘルスの悪化があるが、教師や保護者は気が付いておらず、本人に聞いてみると深刻な抑うつ状態になっていることが多いとして、メンタルヘルスの悪化を捉えるために開発した心の健康観察システム「NiCoLi」を紹介。「ICTでスクリーニングをするのは大事だが、それだけでは十分ではない。その後にどうすればいいのかだったり、その前にどう予防すればいいのかだったりを考えなければいけない。こういうサービスは今いろいろ出てきているが、やはりエビデンスベースでやっていかなければいけない。そこに何の根拠もないまま、何となく形だけ作っていくようでは責任を果たせない」と強調した。
議論を踏まえ、議長の小倉将信こども政策担当相は「今日いただいた意見を踏まえながら、しっかりしたものが6月に向けて出せるように、よりスピード感を持って検討を深めていかなければいけない」と、取りまとめに向けて省庁間の協議を急ぐ考えを示した。