働き方改革・処遇改善を諮問 喫緊の施策は逐次取りまとめ

働き方改革・処遇改善を諮問 喫緊の施策は逐次取りまとめ
諮問を手交する永岡文科相(右)と、受け取る荒瀬克己会長
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 永岡桂子文科相は5月22日、中教審の第136回総会で、教員の働き方改革や処遇改善、学校の指導・運営体制の充実など「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策」について諮問した。文科省の調査研究会が4月に取りまとめた論点整理や、同月に公表された教員勤務実態調査の結果(速報値)を基に、「更なる学校における働き方改革」「教師の処遇改善」「学校の指導・運営体制の充実」の3点を中心に議論するよう求めた。最終的な答申は来年春ごろを予定しているが、施策を迅速に進めるため、逐次、必要な部分について取りまとめを行うことも検討するとしている。

「3分類」の推進や教職調整額、学級編制などが検討事項に

 諮問にあたって永岡文科相は「文科省ではこれまで、学校における働き方改革を最重要施策の一つとして取り組んできた。その結果、先月に公表した2022年度実施の勤務実態調査の速報値においては、教師の時間外在校等時間の状況が一定程度、改善したことが明らかになった一方で、依然として長時間勤務の教師が多い実態がある。全国的に教師不足が指摘されていることも憂慮すべき状況だ」と述べた。

 諮問では①更なる学校における働き方改革の在り方について②教師の処遇改善の在り方について③学校の指導・運営体制の充実の在り方について――の3点を、具体的な検討事項として挙げた。

 まず「①更なる学校における働き方改革の在り方」としては▽「学校・教師が担う業務に係る3分類」について、更なる役割分担・適正化を推進する観点からの学校・教師が担う業務の在り方▽「上限指針」の実効性を高めることができる仕組みの在り方▽各教育委員会における学校の働き方改革の取り組み状況などを「見える化」するための枠組みの在り方▽健康および福祉の確保の観点からの長時間の時間外勤務を抑制するための仕組みの在り方――などを挙げた。

 次いで「②教師の処遇改善の在り方」としては▽教師の職務と勤務態様の特殊性を踏まえて、勤務時間の内外を問わず教師の職務を包括的に評価し、一律給料月額の4%を支給することとしている教職調整額および超勤4項目の在り方▽教育が教師の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいなど職務の特殊性に対する考え方▽現在の学校現場の状況や県費負担教職員制度などを踏まえた時間外勤務手当の支給に対する考え方▽教師の意欲や能力の向上に資する給与制度や教師の職務等に応じた給与のメリハリの在り方――などを盛り込んだ。

 最後に「③学校の指導・運営体制の充実の在り方」としては▽義務教育9年間を見通すことにも留意した、より柔軟な学級編制や教職員配置の在り方▽子供や学校、地域の実態に応じた柔軟な教育活動の実施の在り方▽35人学級などについての小学校における多面的な効果検証などを踏まえた、中学校を含めた、学校の望ましい教育環境や指導体制の構築の在り方▽教育の質の向上と教師の負担軽減のための小学校高学年における教科担任制の在り方▽教員業務支援員などの支援スタッフの配置の在り方――などを議論することとした。

 永岡文科相は「これらの課題は広範多岐にわたることから、審議の状況に応じて、施策を迅速かつ着実に実施していただくために、逐次、取りまとめていただくことも検討いただくようお願いしたいと考えている」と述べた。

「現場の実態を詳細に見て議論してほしい」

 会合では教員勤務実態調査の結果なども報告され、委員からさまざまな意見が寄せられた。渡辺弘司委員(日本学校保健会副会長、日本医師会常任理事)は「時間外勤務の時間だけが議論されがちだが、合わせて業務の内容や負担感の改善について協議する必要があるのではないか。必ずしも時間外勤務を減らすことが最終目的ではなくて、教員の負担をどのように軽減するか、結果として休職率や精神疾患の罹患(りかん)率をどうやって改善させるかというところが、最終的な目標であるべきだろう」と指摘した。

 また堀田龍也委員(東北大学大学院情報科学研究科教授、東京学芸大学大学院教育学研究科教授)は「国からみたらすでに『これは義務ではない』と伝えていることが、学校現場ではいつまでも義務的に捉えられていることもある。国や設置者が義務としていること、あるいは管理職などの判断で事務的に行っていることなどいろいろあるが、教員目線から整理して、どこに課題があるか、誰が改善可能なプレーヤーなのかを明確にすることが重要。また校務のDXを検討していると、新しい技術でとっくに解決しているべきことが取り入れられておらず、過剰な警戒で先生たちを縛っているところもある」と警鐘を鳴らした。

 学校現場からは、平井邦明委員(全日本中学校長会会長)が「質の高い教師を確保するという考え方もちろん大切だが、今の学校現場の現状はかなり厳しく、とにかく人数をそろえることを優先しているのが実情だ。学校にさまざまな人材を投入して、チーム学校という形で学校の機能を総合的に働かせようとすればするほど、いろいろな打ち合わせも必要になる。処遇改善だけでなく、本来の業務に傾注できる時間を教員は求めている」と訴えた。

 石崎規生委員(東京都立桜修館中等教育学校統括校長、全国高等学校長協会会長)もまた「現場の実態をより詳細に見て議論してほしい。勤務実態調査の結果は平均値であり、実際に生徒指導などに何十時間と対応して困っている教員がいることは数字上、見えにくくなっている」と指摘。

 大字弘一郎委員(東京都世田谷区立下北沢小学校統括校長、全国連合小学校長会会長)も「小学校だと、1週間という中で何かをしようと思って使える時間があまりにも少ない。年間の総授業時数なども含めた削減をして、週に3時間でも4時間でも、そういう(新しいことに取り組める)時間が当たり前のようにある環境を望みたい」と強調した。

6月の「骨太の方針」を踏まえ議論

 永岡文科相は今月19日の衆院文部科学委員会で「審議の状況に応じ、場合によっては逐次取りまとめていただくことも含めて、来年の春ごろに方向性を示すことを一つのめどとして、検討を進めたい」と、議論の取りまとめの時期を示した。

 一方、岸田文雄首相は、今年6月ごろに閣議決定する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2024)で、働き方改革の推進や処遇の改善について方向性を示す考えを表明しているほか、自民党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」も、教職調整額を4%から10%以上に引き上げるなどの処遇改善策を盛り込んだ提言を、6月の「骨太の方針」に反映することを政府に求めるとしており、中教審では同方針に示される方向性を踏まえた上で、議論を進める見通し。

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