【教員採用を問う④】合格後の支援拡充が急務 山崎教諭

【教員採用を問う④】合格後の支援拡充が急務 山崎教諭
初任者への採用前のサポートの重要性を語る山崎教諭(本人提供)
【協賛企画】
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 大学も自治体も、合格させるためのアプローチばかりで、合格してからのアフターフォローが足りていない━━。教育新聞が教員志望の学生、教員採用を行う自治体(教育委員会)の双方に行ったアンケートと取材(「採用試験の早期化・複線化 教員志望学生の意識とニーズ」本紙電子版4月10日)、(「大学3年生受験、教員免許不要… 人材確保に奔走する教育委員会」本紙電子版5月1日)、(「『あなたの地域で教員になる魅力は何ですか?』全教委に聞く」本紙電子版5月2日)の結果からは、学生のニーズと自治体の施策には、ずれがあることが浮かび上がった。4月からの初任者を対象としたオンライン講座を企画・運営してきた神奈川県小田原市立小学校の山崎克洋教諭は試験合格後から採用前までのサポートの重要性を強調し、「実際に教員志望の学生が求めていることで施策をデザインしていかなければ、彼らの不安は解消されないし、教員になりたい学生も増えていかない」と強い危機感を語った。初任者を支援する中で感じた、教員の人材確保に向けて必要な4つの策を示してもらった。

採用試験の複線化・早期化「誰を主語にしているのか」

 今年の1月から3月まで、4月からの初任者や初めて学級担任をする予定の教員を対象とした「初任者のためのスタートアッププロジェクト(以下「スタプロ」)」を企画・運営してきた。全国から約100人が参加し、期間中は週に2回、全21回のオンライン講座(講師は現役教員)を行い、4月から現場で使える教育技術や、教員としての在り方などを伝えてきた。

 今回の教育新聞のアンケート結果から感じたことは、学生たちはすごくリアルに、シビアに今の教育現場を捉えているということだ。スタプロの参加者も、同様の考えや不安を感じていた。そもそも、大学3年生での受験など教員採用試験の複線化・早期化といった施策は、誰を主語にしているのだろうか。「とにかくやれることは全部やる」という気概を感じるものの、学生が求めていることとはずれている。学生が主語になっていない改革では、大きな効果は期待できないだろう。

 また、大学3年生で採用試験を受けたとして、果たして学生は教育現場のことをどれだけ語れるだろうか。「教育実習を経て、教員になろうと決められました」という学生は非常に多い。教育実習で、自分は教員に向いているかどうかを確かめたり、子どもたちと過ごすことの豊かさを実感したりするからこそ、その後の教員採用試験を頑張ろうと思える。そこが逆転してしまうと、結局のところ辞退者が増えるだけではないか。

 私は、このままでは5年後、小学校の教員採用倍率が1倍を切る自治体が続出すると予想している。今回の学生へのアンケートでも山形県の新採教員は単独で担任を持たせないという支援が支持を得ていたが、そうした先手を打った自治体だけが勝ち組になり、それ以外の自治体は本当に厳しい状況に陥っていくだろう。教員の人材確保のために、私は打つべき手が4つあると考えている。

初任者が緩やかに現場に溶け込んでいく枠組みが必要

 まず1つ目は、「緩やかな現場でのスタートを用意する」ことだ。先述の山形県が始めた支援のように、副担任や教科担任からスタートするなど、初任者が緩やかに現場に溶け込んでいく枠組みを早急につくる必要がある。

 2つ目は、「採用前に適切な初任者研修期間を設けること」だ。すでに採用前研修を行っている自治体もあるが、スタプロの参加者にアンケートで聞いたところ、7割ぐらいの参加者は「採用前研修はない」と答えていた。しかも、実施しているとしても1~2回のみだったり、オンデマンド型だったりというところもある。果たしてその程度の採用前研修で、学生は学級経営のことが分かるようになるだろうか。教員がそんな簡単な仕事でないことは、誰もが分かっているはずだ。大学も自治体も、合格させるためのアプローチは一生懸命だが、合格してからのアフターフォローが足りていない。

 採用前研修は、初任者の理想と現実のギャップを少なくするためにも重要だ。例えば、配属1日目に何をして、2日目にはこんなことが起きて、子どもたちと出会う時にはこんなことをやる━━。こうした小さな、しかし実はとても大事なことは、大学の教員養成課程では教えてくれない。教育委員会は、学校がやることだと思っている。しかし、学校現場にはそんな余裕はなく、誰も何も教えてくれないまま、教員生活がスタートしてしまう。

 私は採用前研修には最低でも1カ月、理想としては2~3カ月の期間を設ける必要があると思っている。そもそも民間企業は初任者研修にこれぐらいの期間を設けている。最低限の土台まで初任者を押し上げてから学校現場に出られた方が、初任者にとっても、子どもたちにとっても幸せなはずだ。

 また、採用前から同期の横のつながりができることも、採用前研修の大きなメリットだ。こうした同期とのつながりが、現場に出てからの大変な時期を乗り越える力にもなる。

 そして3つ目は「学校現場の働き方改革」だ。本当にごく一部、働き方改革が進んでいる自治体や学校はあるが、それ以外のほとんどの学校現場は、まったく余裕がない状態で初任者を受け入れているため、支援しきれていない。

 教員を目指す学生の大多数は、「あの時の○○先生に憧れて」という思いを持っている。つまり、教員になりたい人を増やすには、今、学校現場にいる教員が重要な鍵を握っている。今の学校現場の教員が元気じゃなければいけないからこそ、働き方改革は待ったなしだ。

 最後の4つ目は、言わずもがな「教員の処遇改善」だ。残業手当など給与面の改善や、副業の解禁などができれば、状況は大きく変わっていくはずだ。

 もちろん、今回示した4つの策で、全てが解決されるわけではないだろう。しかし、実際に教員志望の学生が求めていることで施策をデザインしていかなければ、彼らの不安は解消されないし、教員になりたい学生も増えていかない。(談)

=おわり

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