高校生を対象に次世代のリーダーに求められる力を育成する「イノベーションプログラム」に取り組むさいたま市教育委員会は5月26日、教員や市教委の職員にも、同プログラムのコアであるデザイン思考を身に付け、実践してもらおうと、異業種の社会人を交えてのワークショップ型の研修会を開いた。参加者はチームに分かれ、教員志望者を増やすための解決策を練り上げ、細田眞由美教育長に提案した。
問題解決やイノベーションを促す手法として注目されているデザイン思考は、人の「ありたい姿」を実現するため、潜在的なニーズを掘り下げ、試行錯誤を繰り返しながら本当の課題とその解決策を導き出すことに主眼を置く。
この日の研修会では、デザイン思考を実際のビジネス場面で活用しているストライプジャパン社の長阪数馬エンタープライズ営業本部長らが講師となり、市立高校の教員や市教委の職員、さまざまな業種の社会人ら約20人が、▽探索する▽共感する▽リフレーミングする▽創造する▽プロトタイプを作る▽テストする――というデザイン思考のプロセスに沿って、「常になりたい職業ランキング上位の教員だが、本当の志願者を増やすにはどうすれば良い?」というテーマに挑んだ。
4つのチームに分かれた参加者は、最初の「探索する」で、さまざまなデータを基に教員が置かれている現状を民間などと比較したり、実際に民間から転職した教員が、教員採用試験のときに抱いた違和感を報告したりした。次の「共感する」では、グループごとにペルソナと呼ばれる具体的なターゲット像を設定。その人が教員になるまでの行動を時系列で整理し、意思決定においてポイントとなる場面やそのときの感情を洗い出した。
続いて「リフレーミング」では、そのペルソナを軸にして、ワークシートを使って課題を改めて文章にまとめた。例えば、子育て中の30代女性をペルソナにしたチームでは「私たちはどうすれば子育てで忙しいが教育に関わりたいとワクワクしている埼玉子さんが、子育てと両立しながら情熱を持ち続け、教員になるのを助けることができるだろうか?」と課題を再定義して取り組んだ。
後半では、その課題に基づいて解決策を思い付く限り自由に出し、その中から良さそうなアイデアを選んで検討。最後のプレゼンテーションを見据えて、ペルソナが、チームで考えた解決策を使って、どう教師になるかを4コマ漫画で表現した。
他のチームのメンバーによるフィードバックを受けて改善を加えた後は、ゴールとなる細田教育長へのプレゼンテーション。
民間からの転職を考えている人に対して、実際に学校での教員の仕事を体験してもらったり、その姿を家族にも見てもらったりして、教職への理解を深めてもらうことや、フレックスで民間の仕事を続けながら、授業や部活動に関われるようにすること、勤務する学校の空き教室を活用して託児施設を置くなどのアイデアを披露。大学の教職課程を取るよりも前の段階からアプローチする必要があると考えたチームでは、高校生をターゲットに小学校などでアルバイトができる制度を提案した。
各チームの発表に熱心に耳を傾けていた細田教育長は、いくつかのアイデアについては、実現に向けて検討する考えを示した。
半日にわたるプログラムを終えた参加者は「親として、子どもを通じて教育現場と関わってきたが、そうではない貢献の仕方もあるのではないかと気付けた。ぜひ何かしらの形で力になれたら」(社会人)、「勤務校でワーキンググループを立ち上げ、どうやったら教員たちが動いてくれるかを試行錯誤している中で、このワークショップに参加した。最初からうまくできるかは分からないが、学校でもデザイン思考をやってみて、教員たちがどうやったら動いてくれるかを考えてみたい」(教員)、「仕事をするときに、ついできない理由を考えてしまう自分がいる。参加させていただいて、常識にとらわれない発想が全てだと思った」(市教委の職員)などと振り返っていた。
講師の長阪さんは「さいたま市が目指す教育とデザイン思考の親和性は高いと感じる。激しい変化への対応力が問われる時代に教育や文化を変えていくには、これまで教育と距離のあった民間で活躍し、教育への情熱を持っている人の層を掘り起こす必要がある」と話す。
今回のワークショップはさいたま市教委としても初めての試み。細田教育長は「この取り組みをどうやってさいたま市全体に落とし込むか。ぜひ『やっていこうよ』というムーブメントにしていきたい。日本中に広げていけたら」と意欲を見せた。