教員採用試験の早期化・複数回実施に向けて検討してきた文科省は5月31日、来年度の公立学校の教員採用試験について、1次試験をこれまでより約1カ月早い6月16日に前倒しで実施するよう呼び掛け、その場合は文科省が教員資格認定試験(小学校)の問題を参考提供する方針を、教員の任命権者である全国の教育委員会に示した。また複数回実施の支援として、今年度冬期に実施するための、大学3・4年生向けの試験問題を作成し、希望する教委に提供するとした。文科省は今後、第1次選考の全国共同実施の実現可能性を検討する意向で、同省の担当者は「1次試験の負担を減らし、2次試験での人物重視の選考や、学校現場へのサポートに力を向けられるようにしたい」と説明した。
近年の教員採用倍率の低下や教員不足を背景に、文科省は早ければ来年度から、教員採用選考試験を早期化・複数回実施する方針を示してきた。文科省と都道府県・政令市教委などでつくる「教員採用選考試験の在り方に関する関係協議会」は昨年10月に初会合を開き、その席上では、公務員試験のスケジュールを目安として教員採用試験を1~2カ月、または3カ月前倒しする案が提示された。
協議会での議論を踏まえ今回、文科省は来年度の教員採用試験を約1カ月前倒しし、6月16日を基準日として実施する方針を提示。それに伴い、教委側が問題作成を前倒しする負担を考慮し、試験問題は文科省が実施している「教員資格認定試験」の小学校の問題(教養試験部分)を参考提供するとした。教委側で改題して利用することや、配点・利用問題数などを自由に決めることも可能。同日に実施しない場合は、問題の提供は行わない。文科省は「6月16日を一つの目安として、できるだけ前倒しを積極的に検討いただきたい」と要請した。
6月は教育実習の実施時期と重なるケースも多いが、これについて文科省は「大学4年生の前半に3~4週間のまとまった期間で一度に行うのではなく、例えば通年で決まった曜日などに実施する教育実習や、1~2年生の早い段階から学校現場の活動を体験させるなど、学生が教職課程の中で柔軟に教育実習を履修できる方法を検討するべき」と指摘。
文科省の担当者は「教育実習の履修方法の柔軟化は、中教審でも検討されてきた事項で、大学関係者の多くはすでに認知している論点だと考えられる」としつつ、「教委だけでなく大学の教職課程の見直しにも関わる問題なので、『来年には間に合わない』という教委が出てくることは想定している」と説明した。
合わせて、複数回実施に向けた支援として、今年度冬期に実施するための教養試験問題を作成し、希望する教委に提供する方針を示した。この問題について文科省は「大学3年生も受験可能な、より一般的な内容の問題とする予定。専門科目などにかかわる試験は4年生の時に受験することを想定。同問題を活用した追加的に行う試験について、大学4年生なども受験可能とすることもあり得る」と説明している。
今後の取り組みとして文科省は「各教委がそれぞれ試験問題を作成・実施している1次試験での負担を軽減し、2次試験でのより丁寧で人物重視の選考作業や、学校現場の教育課題へのよりきめ細かな支援に注力できるようにする観点から、1次試験の全国共同実施の実現可能性について調査・検討を進める」とした。
さらに教員志望者の増加に向けては、早期化や複数回実施だけでなく、「文科省が整備した教育人材の募集情報をまとめたポータルサイトや、各教委での教師の仕事に対する関心を高めるイベントなどの取り組みを通じて、高校生段階へのアプローチも含め、教師の仕事の価値ややりがいを実直に発信していくことも重要」として、各教委のこうした取り組みを支援するとした。
また「受験者数の増加につなげるためには、学校における働き方改革の一層の推進や教員の処遇改善が求められる」と指摘。「学校の働き方改革は何か一つやれば解決するといったものではなく、国・学校・教育委員会が連携し、それぞれの立場において、教師が教師でなければならないことに全力投球できる環境を整備することが重要」と取り組みを促した。
「教員採用選考試験の在り方に関する関係協議会」では、「教師を目指していても、先に民間企業に就職先を決めてしまう」といった問題意識から、これまで8回の会合で早期化・複数回実施に向けた議論を重ねてきた。文科省の担当者によれば、これまで教委、大学関係者、小中高校・特別支援学校の校長会、民間企業にヒアリングを行ったといい、同省の担当者は「学生の声を直接聞く機会はなかったが、大学関係者から学生にアンケートした結果の報告を受けた」と語った。
教育新聞が今年3月、教員志望学生61人に対して行ったアンケートでは、教員採用試験を1~2カ月早める案に対して、「よいと思う(とてもよいと思う+どちらかと言えばよいと思う)」は37.7%、「よくないと思う(どちらかと言えばよくないと思う+とてもよくないと思う)」は42.6%と拮抗。早めに進路が決まることへの安心感を挙げる学生がいる一方、負担の増加を懸念する声もあった。ただ、教員の人材確保に必要な施策を尋ねたところ、教員採用試験の早期化や複数回実施よりもむしろ、初任者の負担軽減や支援の充実を求める声が上がっていた(参照記事:「採用試験の早期化・複線化 教員志望学生の意識とニーズ」)。