世界の幸福度ランキングで2018年から5年連続で1位を獲得するなど、教育界からも注目の高いフィンランド。現地の公立小学校で教員のサポートをしている宮下彩夏さんと、現地の高校に留学中の佐藤世壱さんが、それぞれの立場から見たフィンランドの教育について語り合うオンラインイベントがこのほど開催された。海外インターンシップなどを提供するタイガーモブが主催。佐藤さんは「フィンランドでは、体験から学ぶことを大切にしている。そして、『何のための教育か?』をいつも議論している」と話し、現地に行ったからこそ感じた日本の教育の良さなどについても紹介した。
横浜市の公立小学校で教員をしたのち、現在はフィンランドの公立小学校でアシスタントをしている宮下さんは、教員の目線からみたフィンランド教育について講演。冒頭、「現地の大手新聞社が100人近い教育関係者にインタビューした内容について、スマートフォンの依存性による集中力の低下や、学校と家庭の関係、特別支援教育やインクルーシブ教育、フィンランド語を母語としない生徒への支援など、多岐にわたる課題が挙げられていた」と紹介した。
アシスタントを務めている現地の公立小について、「特に印象的なのは、教員が話をする時間が短いこと。例えば算数だと、全体を把握するための説明を少ししたら、あとはそれぞれが課題に取り組む時間になっている」と説明。他にも教科書を使わずに、縫い物や編み物などのハンドクラフトや、椅子づくりなどを行うウッドワーク、ロボティックなど、子どもたちが手を動かすことを中心とした授業も多いそうだ。
「現地の教員に学校や教員の役割について話を聞くと、ある教員は『教師は全てを教える人、答えを与える人ではありません』と言っていた。また、ある教員は『子どもたちはやりたいと思ったことから選び、そこに責任を持つ。それを見守るのが教員の役目だ』と。そしてある校長は『世界の変化・発展にいかに追いついていくかが大事だ』と言っていたのが印象的だった」と話した。
続いて、昨年8月からフィンランドの現地校「ヘルシンキメディアスクール」に留学している佐藤さんが、生徒から見たフィンランド教育について講演。大分県出身の佐藤さんは「フィンランドは世界一幸せな国だと言われているけれども、その価値観や学校、教育を実体験してみたかった」と留学の経緯を語った。
同校は普通科だが、メディア関連の学びを取り入れていることが特徴で、単位制で大学のように好きな授業が選べるという。「各授業は学年が混合していて、とても面白い。授業中は飲み物やお菓子、スマホもOK。さまざまな国からの留学生がいて、国際色も豊か」と学校の様子を紹介した。
学校は5学期制で、例えば佐藤さんは4学期に「政治」「セキュリティー」「生物」「歴史」などの授業を選択したという。「政治の授業では、学校に政治家が来て、パネルディスカッションを行った。こちらでは政治家と一般人との距離が非常に近い」と話し、学力の低下、若者の精神障害、移民の受け入れ、NATO加盟についてなど、ダイレクトに質問したという。
また、生物の授業では森でキャンプをしたり、歴史の授業では週に1回はプレゼンをしたりするなどユニークな授業が多い。佐藤さんが最も面白かった授業として挙げた安全保障の授業では、小さい国が国際社会で生き残る秘訣(ひけつ)などについて学び、テストではフィンランドの徴兵制の意味や、諜報(ちょうほう)とスパイの違い、情報社会における情報の自由についてなどが出題されたという。
佐藤さんは「フィンランドでは、体験から学ぶことを大切にしている。そして、『何のための教育か?』をいつも議論している」と述べ、「現地の人に話を聞くと、フィンランドは日本の寺子屋教育など、日本の昔の文化から学び、今の社会があると言っている。私はフィンランドに来て、日本も幸福な国になれると何度も感じた」と強調した。
参加者からの「フィンランドに行ったからこそ気付いた、日本の教育のすごいところは?」との質問に、佐藤さんは「集団行動ができるところ。フィンランドは自由や個人主義を重んじ過ぎたところがあり、規律を持って行動することはできない」と答えた。宮下さんは「フィンランドでは今、基礎学力の低下が問題となっていて、確かに日本の子どものほうが算数はできると感じる。日本の授業は指導が丁寧で、また宿題でも計算問題が出される。しかし、フィンランドは一通り説明したら『やってごらん』なので、分かる子はいいが、分からない子は手が動かない。子どもに任せているという言い方もできるが、日本の教育を知っている私から見ると放置と感じることもある」と話した。
さらに「フィンランドの教育は子どもたちが主体的に取り組んでいると見えがちだが、実情はどうなのか?」との質問に、佐藤さんは「例えば、授業中もスマホOKなので、授業中にスマホでゲームしている子もいる」とリアルな現状を明かした。また、宮下さんも「自分の『好き』を見つけられている子ばかりではない。○○の授業は好きだけど、△△の授業はつまらない、という子も多い」と説明した。
佐藤さんは「周りの友達は、特別授業で自分のやりたいことがあれば選択して学んでいる。そして、自分の好きなことや強みを感じていることについては、学校の外で学んでいる子が多い。日本より満遍なく学ぶという感覚が低く、好きや強みの部分が飛び出しているイメージ」と、フィンランドの教育について話した。