地域の子どもたちなどを対象にした、自治体による学習支援の場である「公営塾」が、全国で少なくとも170の自治体に広がっていることがこのほど、信州大学などの研究チームの実態調査で分かった。1割ほどの自治体で、すでに「公営塾」が設置されていることになる。研究チームの代表である林寛平信州大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)准教授・ウプサラ大学教育学部客員研究員は「170の自治体でやるくらい、公営塾が一般的になっている。自治体の担当者が他の自治体の事例を見てみたいと思ってもらえたら」と話す。
日本では過疎化が進んだ地域などで、子どもの学習支援や受験対策などとして、2012年以降、自治体が「公営塾」を設置するケースがみられているが、全国にどれくらいの「公営塾」があるかを、これまでデータとして捉えたものはなかった。そこで、林准教授らの研究チームは、「公営塾」を「自治体の施策として設置している学習支援のための塾」と定義し、22年1月から3月にかけて、都道府県と市区町村の全1778自治体の問い合わせ窓口などに、こうした「公営塾」を設置しているかを尋ね、653件の有効回答を得た。
有効回答のうち、170の自治体が「『公営塾』を設置している」と回答。さらに「『公営塾』を設置していない」と回答した自治体には、追加で「自治体として、校外学習に対する公的支援を行っているか」と聞いたところ、83の自治体で、こうした公的支援を行っていることが分かった。また、自治体が行っている取り組みが「公営塾」に当たるか「分からない」と回答した自治体にも、自治体が実施している取り組み内容を尋ねたところ、何らかの学習支援や複数の施策を実施しているケースもみられた。
それらを基に公的な学習支援施策を分類すると、名称に「公営塾」「町営塾」などが含まれていたり、事前調査で「公営塾」であることが分かっていたりしたケースが53件、国の施策である「地域未来塾」や「放課後子供教室」が36件あったほか、それらに明確に分類できないが、何らかの公的学習支援が177件あるなど、多様な実態が浮かび上がってきた。
研究チームのメンバーの中田麗子信州大学大学院教育学研究科研究員・ウプサラ大学教育学部客員研究員・オスロメトロポリタン大学教職・国際学部客員研究員は「自治体の中でも、どの部局がこの公営塾を担っているかが多様だ。まずは全自治体に、問い合わせ窓口から『公営塾』をやっているかどうかだけを今回聞いたが、その割にはいろいろな自治体から『こういう取り組みをしている』という回答があり、それを助けにして分類できるものは分類した」と説明。今後、これらの活動内容や運営方法などについては、さらに調査していく必要性があると指摘する。
「公営塾」の動きについて林准教授は「過疎化が進行している地域に『公営塾』ができているのが日本の特徴だ。少子化で日本の塾は生き残りを懸けて新しいビジネスを探さないといけない中で、予備校や塾がない自治体では、塾の先生を連れてきて『公営塾』を開いている。こうした動きは、公教育が拡張しているという側面もあるし、放課後の時間も自治体が面倒を見ているといえる。その一方で、塾は公教育の中に入ろうとしている。境界線が揺らいでいるというのが面白い事象だ」とみる。その上で、今回の調査結果について「170の自治体でやるくらい、公営塾が一般的になっている。自治体の担当者が他の自治体の事例を見てみたいと思ってもらえたら」と話す。
今回の調査は第1弾という位置付けで、研究チームでは今後、事例調査などを通じて日本の「公営塾」の実態をさらに詳しく分析し、将来的には他国の動きとも比較していくことを視野に入れているという。