赤ちゃんの虐待死を防ぎたいと、認定NPO法人のフローレンスはこのほど、厚労省で記者会見を開き、経済的な困窮状態にある妊婦を対象に、妊婦健診や出産費用をフローレンスが負担する「無料産院」の事業に取り組むと発表した。京都市にある第二足立病院と提携して、6月1日から支援をスタート。今後、他の医療機関にも働き掛けを行い、全国に広げたいとしている。
日本では、子どもの虐待死の中でも0歳児が半数以上を占めており、その背景には、予期せぬ妊娠などにより、経済的に困窮して病院で受診できなかったり、自分からSOSを出せなかったりして、妊婦健診を受診できないまま、公的な支援にもつながれずに出産を迎えてしまったということも多い。
フローレンスでは昨年10月から、予期せぬ妊娠をしてしまった妊婦を対象にした相談窓口を開設し、初回受診料をフローレンスが代わりに支払う取り組みを行ってきた。しかし、前年度に収入があると助産制度などの公的支援を受けられなかったり、公的支援の適用までの審査に時間がかかり、その間に出産を迎えてしまったりするなど、制度のはざまに陥るケースがあったことから、新たに無料産院事業に乗り出すことにした。
今後、提携医療機関を募り、今年度中には、全国10カ所で無料産院を受けられるようにすることを目指す。最初の提携先となった第二足立病院を運営する医療法人財団足立病院の畑山博理事長は「フローレンスから話が来たとき、私たちとしては受けない理由がなく、みんなでやろうとなった。できれば同じような志を持った病院、クリニックに話をして、少しでも早く日本中に広げていきたい」と、他の医療機関の協力を呼び掛けた。
未受診妊婦の相談事業を担当するフローレンス赤ちゃん縁組事業部の石原綾乃さんは「赤ちゃんの遺棄のニュースを見るたびに、どうしたら相談に来てもらえたのだろうと思う。たまたま何らかの相談につながった人は、自分自身も赤ちゃんも大切にする道を見つけることができ、残念ながらそういった機会がなかったがために追い込まれて、まったく別の人生を歩むことになる人もいる。そこには相談できたか、できなかったかの違いしかない」と、相談から医療機関や公的支援につながることができると強調する。
フローレンスの駒崎弘樹会長は「フローレンスはかねてから政府に対して妊婦の受診・出産費用の無償化を訴えてきた。政府は異次元の少子化対策の一環として出産一時金の引き上げを実施したが、妊娠・出産に関わる初診料、健診費用、分娩(ぶんべん)費用は、それだけでは賄えない場合も多く、自己負担を余儀なくされている妊婦さんが多く存在している。経済的なハードルに加えて、予期せぬ妊娠を相談したり、助けてくれる人がいない孤立した未受診妊婦を社会的に支援したりしないと、赤ちゃんの遺棄に追い込まれる事例はなくならない」と指摘し、改めて政府に対して、生まれたばかりの子どもの命を救う観点からも、受診・出産費用の無償化が必要だと提言した。