「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)」の策定に向けた議論をしているこども家庭審議会の「幼児期までのこどもの育ち部会」は6月14日、第2回会合を開き、指針策定に生かすため、当事者であるこどもの意見を聴取する方法について検討を行った。こども家庭庁が示した方策案に対し、委員からは目的が不明確であるなどの懸念の声が上がった。
指針の策定に向けて同部会では9月をめどに中間取りまとめを出す予定で、それまでに団体などへのヒアリングやウェブアンケート、当事者であるこどもや保護者、保育者に意見を直接聞く場を設けることにしている。このうち、0~6歳のこどもの声は、各地の子育て広場や保育所などをこども家庭庁の職員が訪問し、数日間こどもの育つ様子を見たり、こどもと直接接したりした上で、保護者や養育者、保育者などと対話をする形でこどもの声や思いをくみ取ることを試みる。
こうしたこどもの声を聞く方法について、この日の会合では複数の委員から課題が上がった。
古賀松香委員(京都教育大学教授)は「目的のところには、何を聞くかが書かれていない。とにかく声を聞くと読めるところが気になる。何を明らかにするかが明確になっていない。目的のないフィールド調査は、調査を受ける側にも負担がかかる。こどもを権利主体としてみる調査ならば、こどもが発達に応じて調査の内容を理解し、主体的にその調査に関与するということを選び、関わっていくことを大事にすべきだ。乳幼児期は保護者に対して、児童期以降はこども本人にも、この聞き取りが今後の指針やこども大綱につながる重要なものであることを説明し、そのために必要な何を明らかにするために行うのかという目的を明示すべきではないか」と指摘。
その上で「研究者として大いに違和感があるのは、問題設定がないということだ。問題設定のないところから調査を行うことは困難を極める。保育の現場ではフィールドにぼうぜんとなるほどの情報量の多さと文脈の多さがあり、これまで保育学の研究者がどれだけ苦い思いをしてきたか分からないほど手ごわいものだ。そこに問題設定もなく日常の保育の文脈も知らない第三者が、その日見て、感じ取れることを探る。それは今新たに国の予算を投じてやるべきことなのか」と疑問を投げ掛けた。
現場からの意見として、柿沼平太郎委員(柿沼学園理事長)も「乳幼児のこどもの思いを聞いていくのはかなり繊細なことで、大人や保育者側の思いがバイアスとしてかかるものも多い。こどもの意見なのか、保護者の意見なのか、保育者側が望ましいと思う家庭やこどもの姿なのかということが考えられるので、ここは専門的にこどもの心理や発達を理解している人の知見を合わせた上で課題設定をしていかないと、本当のこどもの声なき声は拾っていけないのではないか」と助言した。
また、後半の委員からの発表の中でも、「周縁化と子育てのライフサイクルから」というテーマで、マイノリティーのこどもや家庭のニーズを拾う重要性を説明した有村大士委員(日本社会事業大学社会福祉学部教授)が、こどもの意見聴取の方法について言及。「声を聞く対象に配慮が必要だと思うが、周縁化されがちなこどもや家庭を入れるべきだと思う。育ちの中心を規定してしまうと、そこから外れたら脇に追いやられてしまう現象が意図せず起きてしまう。そういうことがたくさんある。脇に追いやる周縁化の圧力を社会的につくってしまう。LGBTもそうだし、障害のある子も、ひとり親も、家庭環境の厳しい子もそうだ。そういう人たちから学ぶことが重要だと思う。その人たちと一緒に考えることで、ニーズがよく見える」と強調した。