LGBT理解増進法と学校現場 教育の実践の継続・発展が重要

LGBT理解増進法と学校現場 教育の実践の継続・発展が重要
LGBT理解増進法の学校教育に関する条文(抜粋)
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 衆議院・参議院の内閣委員会で、それぞれわずか1日だけで審議から採決までが行われるなど、異例の展開で今国会で成立したLGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が、6月23日から施行される。これまでLGBTへの差別を禁止する法律の制定に向けて活動してきた「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」(LGBT法連合会)の神谷悠一事務局長は、同法を契機に、これまでの学校での実践を継続・発展していくことが重要だと強調する。

 自民・公明・日本維新の会・国民民主党が修正に合意し、6月16日の参院本会議で可決・成立したLGBT理解増進法は「性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」とし、国や自治体が性的マイノリティーに関する国民の理解増進につながる施策を策定・実施するように努めることなどを定めている。特に、学校が行う教育・啓発については第六条第二項で規定され、当初の自民・公明案に「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言が修正によって加えられた。

 この条文について小倉将信こども政策担当相は6月20日の閣議後会見で、「国会において修正案の提案者から、教育基本法の文言と同様、学校、家庭、地域社会が相互に緊密に連携して取り組むことが重要との趣旨で用いることとしたものであり、保護者の協力を得なければ取り組みを進められないという意味ではない旨、答弁されていると承知している。いずれにしても今後、この法律の趣旨や国会の議論を十分に踏まえるとともに、多様性が尊重され、性的マイノリティーの方も、マジョリティーの方も含めた全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向けて、引き続きさまざまな国民の声を受け止めて、関係府省と連携してしっかりと取り組んでいきたい」と答えている。

 一方で神谷事務局長は「これまでの答弁でも、基本的に学校の取り組みに家庭や地域などがブレーキをかけるといった解釈は今のところ出ていないが、勝手な解釈をしてブレーキをかけようとする人が出てくる可能性はある」と指摘。「しかし、この法律の基本理念に立ち返って考えれば、他の条文や留意事項も、一人一人の人権が尊重され、不当な差別を受けることなく、人格と個性を尊重し合える共生社会をつくることに資するものでなければならないはずだ」とくぎを刺す。

 「文科省が2015年に性同一性障害の児童生徒に対するきめ細かな対応の実施について通知を出して以降、学校現場での実践は定着してきており、そこで学んだ子どもたちが社会に出ようとしている。その流れに逆行するようなことをすれば、それこそ混乱する。これまでの方針に沿って実践を重ねていけばいいし、新しいことをするのであれば、継続性を踏まえてやってほしい」と、神谷事務局長はこれまでの実践を継続していく考え方が基本になるとみる。

 LGBT理解増進法の成立を受けて、政府は6月23日に同法を公布・施行することを閣議決定。内閣府に担当部署を設け、関係省庁の既存の施策を整理しつつ、今後の取り組みについて検討していく方針で、国民の理解増進に向けた基本計画の策定にも着手することになる。

学校現場の実践の広がりに期待を寄せる神谷事務局長
学校現場の実践の広がりに期待を寄せる神谷事務局長

 基本計画の内容について神谷事務局長は、策定プロセスの中でレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)をはじめとする、それぞれの性的マイノリティーの当事者の声を反映させる必要性を強調。学校での教育・啓発について、「これまで、学校現場で行う取り組みは、相談されたらどうするかという個別対応の視点が強かった。これからは、環境を変えたらどうなるかや、何を教えるかを考えてほしい。性的指向や性自認に関して、学校の環境の中でみんなが生き生きと生活できているか、教育を受けられているかという視点を持たないと」と、学校全体が変化していくことに期待を寄せる。

 学校現場に向けて神谷事務局長は「外見からでは一見して分からなくても、目の前の子どもたちの中にも当事者がいる。そのことを考えて実践を続けて、発展させてほしいと思う。校長先生は子どもたちの実態を捉えて、積極的に理解増進のための教育を推進してほしい。いろいろな議論はあるが、法律が通ったのを契機に関心をより高めて、取り組みを進めてほしい」と呼び掛ける。

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