「答えは現場にある」を理念とする「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」の総会が6月24日、都内の会場で開催され、全国の教育長や校長をはじめとする教育関係者ら約130人が参加した。グループディスカッションでは肩書にとらわれず、未来の教育について熱く語り合う姿が、「不登校支援」や「学習者中心の学び」をテーマとした分科会では、先進的な実践に対して参加者が熱心に質問し、自らの自治体や学校に取り入れようとする姿が見られた。
文科省若手有志職員が事務局の中心となり2018年に設立された「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」。コロナ禍はオンラインで開催しており、今回の総会は4年ぶりのリアル開催となった。北は北海道、南は鹿児島県まで全国から参加があり、14人の教育長、23人の校長をはじめ、約130人の教育関係者が参加した。
冒頭、未来の社会では子どもたちや学校はどう変わるのか、教員の働き方や、教育施策にはどのような変化が求められているのかを、6~7人のグループでディスカッションした。
「子どもたちの学び」の視点で話し合ったグループからは、「教員の役割の意識改革が必要」といった意見が出された。「教職員の働き方改革」の視点で話し合ったグループでは、ある教育委員会関係者から「教育委員会が『校長先生、好きにやってください』ということが一番ではないか」との声も上がった。「学校を支える体制・連携」の視点で話し合ったグループからは、「教員の仕事を整理する」といった意見が出ており、「お金や外部人材で解決できることは、どんどんやっていくべきだ」との声に、参加者もうなずいていた。
後半の分科会では、「『学校への行きづらさ』への答えを増やしていくために」をテーマに、認定NPO法人カタリバの今村久美代表理事がモデレーターを務め、大阪府大東市の水野達朗教育長と、東京都国立市立国立第二中学校の黒田宏一校長がそれぞれの不登校対策の実践について紹介した。
水野教育長は同市が取り組む「学びへのアクセス100%大東不登校支援モデル」について、「時代とともに不登校は多様化している。本市の不登校支援教育が目指すのは、学校へ行く・行かないに関わらず、誰一人取り残さない教育の実現だ」と説明。魅力的な学校づくりや、ICTなどを活用した学習支援、家庭教育支援チームによる支援、教育支援センター、民間フリースクールとの連携強化など、多層的に学べる不登校支援を掲げている。水野教育長は「先生たちには、学校に来た子に対して100%の力を発揮してください、それ以外は行政に任せてくださいと伝えている」と説明。「不登校の支援は、これをやれば解決するというものではない。支援にはグラデーションの階層が必要だ」と訴え掛けた。
黒田校長は、同校の不登校生徒出現率が増加したため、「学校風土尺度調査」を実施。すると、友達関係などよりも、学習や学びについて苦しい思いをしている生徒が多いことが分かった。こうした結果から黒田校長は「授業の環境を整えることによって、生徒が授業を楽しいと感じ、学習意欲が向上して、自己肯定感が高まっていくのではないか」という仮説を立てて授業改善に取り組んでいるといい、「不登校の予防的なアプローチは学校でもできる」と述べた。
さまざまな自治体とも協働し、不登校支援に取り組んでいる今村氏は「不登校支援の『設置主義』『配置主義』から、『インパクト志向』にアップデートさせていくことが重要ではないか。何か支援の施設などをつくることよりも、取りこぼされている子とつながることの方が大事。どこともつながっていない子に対してアウトリーチ対応していくべきだ」と話した。
「学習者中心の学びを“組織”として実装するために」をテーマに、前任校の広島県廿日市市立宮園小学校で単元内自由進度学習を実践してきた同市立廿日市小学校の中谷一志校長と、広島県教育委員会の村田耕一主任指導主事が、それぞれの立場から実践について紹介した。宮園小学校では、全体の1割ほどの授業を単元内自由進度学習にして取り組んでおり、子どもたちの主体的な学びを目指し、同県教委も伴走し続けている。
参加者からは多くの質問が上がった。「県内の他の学校への横展開を加速するために、どうしているか」との質問に、村田主任指導主事は「ハウツーを伝えることは簡単だが、一番のネックは教員のマインドを変えることだ。そのための教員研修をやっている」と話した。加えて、「県教委としては、全ての学校で自由進度学習を進めているわけではない。別の方法で主体的な学びができている学校はそのまま取り組んでもらっている。自由進度学習に取り組みたいという学校には、県教委も伴走していく」と説明し、「学校に伴走していける指導主事を育成することも、今後重要になってくる」と強調した。
自由進度学習を取り入れることで学力は上がるのかという質問に対し、中谷校長は「そもそも学力が上がるかどうかは気にしていなかったが、全国学力・学習状況調査でも県平均よりも上がってきていた。ただ、それが目的ではない。子どもたちが主体的に学ぶということが重要だ」と話した。
さらに、「小学校ではできても、中学校では高校入試などの関係から導入が難しい。どのようにつなげていくか」との質問に、村田主任指導主事は「本県は公立校入試改革を行い、内申を簡素化し、代わりに全ての受験生に自己表現を課す形に変えている。学びの変革へのメッセージを打ち出している」と説明。ただ、それでも中学校での導入には難しさを感じていると言い、「向いている教科とそうでない教科がある。やりやすい教科からスタートさせるなど、工夫している」と話した。
「1割の自由進度学習の時間が、残り9割の授業や学びにどう影響を与えたのか」という質問に対して、村田主任指導主事は「9割の授業でも、自然と子どもに任せる場面が増えていく。子どもたちも、自分で学びの計画が立てられるようになっている」と説明。中谷校長は「教員らは本当に変わった。自由進度学習をするためには、学習指導要領をしっかり読み込まなければいけないし、各社の教科書も全て研究している。そういう教材研究が身に付いてきている。子どもたちも、自分で考えて学ぶという意欲が高まった」と実感を伝えた。