働き方改革「直ちに取り組む施策」緊急提言へ 中教審特別部会

働き方改革「直ちに取り組む施策」緊急提言へ 中教審特別部会
ハイブリッド型で審議された中教審「質の高い教師の確保」特別部会(オンラインで取材)
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 中教審は6月26日、教員の働き方改革や処遇改善を集中的に審議する「質の高い教師の確保」特別部会の第1回会合を開き、政府が定めた2024年度から3年間の集中改革期間を見据え、給特法の見直しを含めた具体的な制度設計の議論に着手した。審議では「勤務実態調査では、いまだに厳しい環境に身を置く教員の存在が確認されている。着手できることは直ちに行う姿勢が極めて重要」「教員は魅力的な仕事であると同時に、いまその仕事が大変な危機に見舞われている。日本の将来のために、本気で総合的に取り組むことが必要」と、教育の質確保と教員の負担軽減に向け、社会全体に対して危機意識の共有を求める発言が相次いだ。貞廣斎子部会長(千葉大教育学部教授)は「さらなる働き方改革の取り組みなどを中心として、直ちに取り組むべき施策に関し、他の検討事項に先立って整理を行うことにしたい」と議論を引き取り、7月下旬に予定される次回会合で、教員の働き方改革に向けて緊急提言の策定に取り組む考えを表明した。

 会合は対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型で行われ、冒頭、貞廣氏が特別部会の部会長に選任された。貞廣氏は「これまで日本の質の高い教育は、現場の教員の献身的な努力によって支えられてきた。これからも子供たちの成長の保障には教員の力が欠かせない。ただし、それには教員が働きやすい環境下で、専門家としての働き方ができることが必要になる、教員の魅力を高め、質の高い教員を確保していくためには、全ての要素について包括的総合的に目配りをし、改善充実させていくことが重要であると強く感じている。一方、教員の長時間勤務の実態は、教師不足が指摘される中、一刻の猶予もないという認識もしている。長期的な視野を持って慎重に検討を進めていくべき課題もあるが、早急に対応しなければならない課題もある」とあいさつした。

 文科省の藤原章夫初等中等教育局長は、政府は6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)で、24年度から3年間を「集中改革期間」と位置付けたことを踏まえ、「骨太の方針では、24年度からの3年間を集中改革期間としてスピード感をもって進めていくことが明記された。その中身を示していくのが、この部会ということになる。大きな注目を受けている部会だと考えている」と述べ、24年度予算案の概算要求が8月末に迫っていることを視野に、審議内容の重要性を強調した。5月に行われた諮問内容を説明した村尾崇・同局財務課長は「施策を迅速かつ着実に実施をしていくことが今、求められている。働き方改革を中心として、直ちに取り組むべき事項については、早めに整理をしていただけるとありがたい」と説明し、働き方改革を進める施策について先行して意見を取りまとめることを求めた。

 初回となった会合では、出席した委員が教員の働き方改革や処遇改善について、順次、意見を述べるかたちで進んだ。戸ヶ崎勤埼玉県戸田市教育長は4月に文科省が公表した教員勤務実態調査の速報値に触れ、「調査結果からは、働き方改革の取り組みが着実に成果につながっている一方、いまだに厳しい環境に身を置く教師の存在が確認された。本部会の議論には丁寧に時間をかけて行うべきものがある一方で、緊急性がある課題も多い。着手できることは、もう直ちに行うという姿勢も極めて重要だ」と、緊急提言の必要性を指摘。「国、都道府県、市町村、それぞれが当事者意識を持って役割を果たす」「教員の業務の『見える化』を進め、標準を上回っている教育課程の実施状況などを改める必要を示す」「保護者による過剰な苦情や不当な要求に苦慮している学校現場の状況に対応する」の3点を検討項目に挙げた。

 秋田喜代美・学習院大学文学部教授は「教員の働き方改革では、一体的総合的な取り組みが極めて重要になる。教員がいかに専門の業務に集中できるか、それを支援する体制はどうなのか。これを整備することが、教育の質の向上につながり、子供の教育の質向上にもつながる。一方で、予算は限られているので、それらのバランスや優先順位を考えていかざるを得ない」と指摘した。

 妹尾昌俊・ライフ&ワーク代表理事は「なるべく前例や慣習にとらわれずに議論すべきだ。学習指導要領を議論する部会ではないことは分かっているが、現在の授業時数は本当に必要かという視点も重要になる」と、教員の負担軽減を考える上で、授業時数の削減に注目する必要を訴えた。また、「優先度の低いものは、やらない。例えば、教員の採用試験を1カ月前倒ししても効果は疑問。労力を割くべきところはどこかを考えなければならない」「教員に求められる職務は非常に幅広い。一方で全てに詳しい教員はいるわけがない。教員にスーパーマンになるよう求め過ぎてきたのではないか。普通の人が教員になって、伸び伸びと子供たちを教えられる環境が大切だと思う」などと指摘した。

 部会長代理となった荒瀬克己・中教審会長(教職員支援機構理事長)は「教員は魅力のある仕事だという具体のメッセージが社会全体になかなか広がらない。緊急提言には、教員がいかに魅力的な仕事であるかということと同時に、いまその仕事が大変な危機に見舞われている。このままでは日本の将来に大きな影響が出てくる。いまこそ、社会全体で本気で総合的に取り組むことが必要だと発信しなければならないのではないか」などと述べた。

 こうした議論を受け、貞廣部会長は「緊急提言という提案が複数の委員から出てきた。保護者による過剰な苦情に教員が苦しまないよう『学校現場の正常化』を図るべきだという指摘や、教員の働き方の危機的な状況を国民と共有し、みんなで何とかしていくという雰囲気を醸成していく必要性などにも言及があった。(時間外勤務の)上限指針になぜ実効性が担保されていないのかという原因究明、学校における業務の見える化など、特に働き方改革の取り組みについて多くの意見があった」と総括。「これらを踏まえ、本部会として、さらなる働き方改革の取り組みなどを中心として、直ちに取り組むべき政策に関し、その他の検討事項に先立って整理を行うことにしたい」と述べ、緊急提言の策定を進める考えを表明。事務局である文科省に7月下旬の次回会合までに、働き方改革の取り組み状況や上限指針が実現しない理由など課題の整理を行うよう求めた。

 教員の働き方改革や処遇改善を巡っては、政府は「骨太の方針」で、24年度から3年間を「集中改革期間」に設定。具体的なアプローチとして、24年度から小学校教員の授業持ちコマ数の削減につながる「小学校高学年の教科担任制の強化」や教員の負担を軽減させる「教員業務支援員の小・中学校への配置拡大」を進めるとともに、時間外勤務手当の代わりに月給の4%を教職調整額として支給することを定めた給特法についても「24年度中の改正案の国会提出を検討する」と、来年度中に見直し案をまとめることを明記した。こうした政府方針を踏まえ、永岡桂子文科相は6月20日の閣議後会見で「教員の働き方改革、処遇の改善、そして学校の指導・運営体制の充実を一体的に進めていくことが重要だ」と指摘。中教審で「具体的な制度設計の検討を速やかに進めていく」とした上で、来年春ごろに中教審の答申がまとまるとの見通しを示している。

 中教審「質の高い教師の確保」特別部会の委員は次の通り。

 部会長=貞廣斎子・千葉大学教育学部教授▽部会長代理=荒瀬克己・教職員支援機構理事長▽青木栄一・東北大学大学院教育学研究科教授▽秋田喜代美・学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授▽植村洋司・東京都中央区立久松小学校長、全国連合小学校長会会長▽鍵本芳明・岡山県教育委員会教育長▽金子晃浩・日本労働組合総連合会副会長、全日本自動車産業労働組合総連合会会長▽金田淳・日本PTA全国協議会会長▽川田琢之・筑波大学ビジネスサイエンス系教授▽熊平美香・クマヒラセキュリティ財団代表理事▽齊藤正富・東京都文京区立音羽中学校長、全日本中学校長会会長▽澤田真由美・先生の幸せ研究所代表取締役▽妹尾昌俊・教育研究家、ライフ&ワーク代表理事、学校業務改善アドバイザー▽露口健司・愛媛大学大学院教育学研究科教授▽戸ヶ﨑勤・埼玉県戸田市教育委員会教育長▽西村美香・成蹊大学法学部教授▽橋本雅博・住友生命保険相互会社取締役会長代表執行役、日本経済団体連合会教育・大学改革推進委員長▽藤原文雄・国立教育政策研究所初等中等教育研究部長・教育政策・評価研究部長▽吉田信解・埼玉県本庄市長、全国市長会社会文教委員長▽善積康子・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員

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