山形県「新採教員は副担任」は有効? 支える側の現場の本音

山形県「新採教員は副担任」は有効? 支える側の現場の本音
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 山形県は今年度から、小学校の大卒新採教員を教科担任兼学級副担任として配置するか、担任を持つ場合は支援員を配置し、単独で担任を持たせないという取り組みを始めた。新採教員の心身の負担の軽減を目指すもので、採用後の働き方に不安を感じている教員志望学生からは歓迎する声が上がっている。それでは、実際に学校現場で新採教員を支えている教員や管理職は、この制度をどう受け止めているのだろうか。県内の小学校に勤務する教員・管理職が、匿名を条件に教育新聞の取材に答えた。教員らは「確実に負担の軽減にはなっている」と評価した一方で、2年目以降のキャリア形成や、全国的な教員不足の中での教員や支援員の確保、中堅教員の負担増など、いくつかの課題も指摘した。

「あと2年はたたないと、この取り組みの評価はできない」

 「メリットもあれば、デメリットもある。手放しで歓迎できるような、単純な話ではない」――。県内の小学校で新採教員の支援にあたっている、あるベテラン教員は、慎重な口調で話す。この教員が勤務している地区の学校では、新採教員は副担任として、中堅教員が担任を務める学級に配置されたという。週17コマを目安に、学級や学年でいくつかの教科を担当しながら、初任者研修で指導を受けている。

 「負担が少ないのは間違いない。これなら、1~2カ月で心理的に追い込まれ、休職してしまう新採教員は激減するのではないか」と、このベテラン教員は評価する。ただ「2年目になれば一人で担任を持つこともある。これまで1年目に苦労していたことが、2年目に先送りされただけかもしれないし、1年かけて学校に慣れることによって、2年目は気持ちを強く持てるのかもしれない。あと2年はたたないと、この取り組みの評価はできない」とも話す。

 新採教員の指導力の育成の面では、不安も感じている。「教科の指導では単元を組む力が極めて重要だが、副担任は限られた教科しか担当しない。担当以外の教科の授業をすることがあっても数時間だ。2年目に担任として全ての教科を担う可能性も考えると、そこからどのようにステップアップさせていくか、しっかり考えないといけない。単元や授業を組み立てる力をつけられるよう、今後の手だてを検討する必要がある」と語る。

 新採で副担任という立場上、担任との関係性も重要になる。「例えば子供たちに『静かにしてね』と言うにしても、『担任は何かの意図があって、こうさせているのではないか』などと、担任に気兼ねしてしまうこともある。力のある新採教員にとって、この状況は歯がゆい。一方の担任にとっても、毎日、教育実習生が来るようなものだから、常に気を配らなければならない状況がある」。

 さらに、このベテラン教員は「新採教員だけでなく、負担が大きくなりがちな主任層の教員をどうサポートするかも考えてほしい」と訴える。「学校の柱になっていくべき人材が、長時間労働で体調を崩したり、退職したりしてしまうのは、教育現場にとって非常に痛い。こうした教員にこそ、支援にあたる人材を配置すべきではないか」。

新採教員についた支援員は、小学校免許も学校経験もない

 今回、新採教員が教科担任兼学級副担任として配置されるのは、公立小学校のうち、5年生または6年生が3学級以上ある規模の小学校だ。それ以外の学校では新採教員であっても担任を持ち、支援員を配置することとなっている。ただ、5年生または6年生が3学級以上あっても、臨時的任用教員が多いなど、学校運営上のやむを得ない事情がある場合は、「例外的に担任を持ち、支援員が配置されることがある」と県教委は説明している。

 前出の小学校とは別の、県内のある小学校では、大卒の新採教員が初年度から学級担任になり、支援員として非常勤講師が配置された。ただ、支援員は学校での勤務経験がなく、また小学校の教員免許も持っていないため、授業や子供たちへの指導ではなく、主に採点や事務などの支援を担っている。加えて、校内外の教員が新採教員の指導にあたっているという。

 この小学校の管理職は「支援員や指導教員が来てくれることは、非常にありがたい」としながらも、配置された支援員に学校現場の経験がないこともあり、「同学年の教員が、新採教員と支援員の2人をフォローしている状況もある」と明かす。また「複数の指導教員が(新採教員に)関わるため、指導の一貫性を大事にしようとすると、学年を引っ張っていく立場の学年主任にはやりづらさもあるだろう。学年主任本人は口に出さないが、管理職として気に掛けている」と語る。

 前出のベテラン教員と同様、この管理職も、副担任として配置される新採教員の「2年目以降」を懸念する。「学級担任として全ての授業をこなし、子供の全てを預かることは、副担任の仕事とはだいぶ違う。いずれ学級担任を持つことになるのなら、問題解決の先延ばしになっているように感じる。例えば、うちの新採教員はものすごく真面目で丁寧、芯が強い。今年度から一人で担任もやり切れたはず」と話す。

 「新採教員にとっては、どの学校でも一律に『学級担任を持たない』とした方が公平だろうが、現実には全ての小学校でできるわけではない。ただでさえ教員不足が深刻化している中で、現状の基準でも、人員の配置に苦労する学校もあると聞く。制度を整えたことは重要だが、そればかりが先行して学校現場の負担が増したり、子供たちの学びに影響が及んだりしないかが気掛かりだ」と、この管理職は懸念する。

 その上で「新採教員は、学校の中のいろいろな仕事を通して力を付けていく面もある。そのことをもう少し、信じて任せる場面があってもよいかもしれない」と、制度の改善を期待する。同時に「新採教員には学習指導より、保護者対応が負担になることもある。市町村教委がバックアップする必要があるのでは」と、別の支援の必要性も指摘する。

山形県教委「各学校の校長などが工夫して運用してくれている」

 同県教委によれば、これまで県内の小学校では、大学を卒業したばかりの新採教員が初年度から担任を持つことが多く、心身の負担が大きいとして、支援体制の充実が求められていた。今回の制度で、新採教員が副担任として配置されるクラスは、臨時的任用教員などではなく、「一定の教職経験がある教諭が担任になること」を想定しているという。

 また新採教員が担任を持つ場合、支援員として配置される人材は、小学校の免許を持つ人(再任用短時間職員など)と、持たない人の両方のケースがあり、免許を持つ人の場合は授業も含めた支援、そうでない場合は事務やT・T指導、休み時間の見回りなどで、担任をサポートすることになっている。

 県教委の担当者は「始まったばかりの制度だが、各学校の校長などが工夫して運用してくれている。副担任にも少しずつ担任の業務を担わせるなど、来年度以降に向けた育成を進めている学校もある。この制度をきっかけに、早期離職してしまう教員を減らしたい」と語る。

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