不登校問題への先端的な取り組みを視察するため、永岡桂子文科相は7月3日、埼玉県戸田市の市立笹目東小学校(片岡昭博校長、児童624人)を訪れ、学校生活に不安や困難を感じている児童を支援する校内のサポートルームや、認定NPO法人カタリバと提携した「メタバース登校」の取り組みを視察した。続いて、不登校対策を担当する教員や専門スタッフ、支援するカタリバ関係者らと約1時間15分にわたって車座で意見を交換。出席者から不登校気味の児童がしばらくサポートルームで登校した後に通常の学級に戻っていた事例などがいくつも紹介され、参加者からは「子供たちが安心できる環境を校内に作ることが大切だ」といった指摘が出た。永岡文科相は「オンラインを含め、一人一人の子供に合った支援が(不登校対策に)効果を上げていることがよく分かった。こうした試みを全国に広げていきたいという気持ちは文科省全体が持っている」と、議論を引き取った。
戸田市では、学校生活に不安や困難を感じている児童や不登校傾向のある児童を対象とする校内のサポートルームとして空き教室を活用した「ぱれっとルーム」を2022年度に市内の小学校3校でスタート。効果が確認できたことから、23年度から市内の全ての小学校12校に事業を拡大した。ぱれっとルームには、学校職員のスクールサポーター1人が専属で配置され、何らかの理由で教室に行きづらい児童の居場所となっている。また、同市では昨年7月にカタリバが展開する「シェア型」オンライン教育支援センター「room-K」と提携し、学びの選択肢として自宅などからオンラインで参加する「メタバース登校」をスタートさせた。カタリバによると、同市では現在、13人が利用している。また、片岡校長によると、これらの取り組みへの参加は、指導要録上で出席扱いとなり、進級や進学にも問題はない、という。
永岡文科相は、こうした不登校対策の取り組みを視察した後、戸ヶ崎勤・同市教育長と片岡校長から全体的な説明を受け、車座の意見交換に臨んだ。
意見交換では、不登校への対応を中心的に担っている笠井一希教諭は、ぱれっとルームの設置によって児童に起きた変化について、「児童にとっては、ぱれっとルームには勉強が目的で来るわけではないので、勉強が原因で学校に来にくい児童にとって学校に来るハードルが下がる。何をやるかは児童が自分で考えてやる。課題を自分のペースで解決していくことで、だんだん教室に戻れるようになる」と説明した。
スクールサポーターの宮崎仁美さんは「ぱれっとルームは、子供たちの心が弱ったときに利用できるので『心の保健室』と呼んでいる。人前で給食が食べられなかった子供が、ぱれっとルームで食べられるようになり、『給食、おいしい』と言って、だんだん教室に戻れるようになった例もあった」と報告した。
こうした取り組みについて、戸ヶ崎教育長は「子供たちにとって、心理的安全性を確保できる場所が学校の中にあることが、とても重要だと分かった。ぱれっとルームは、子供が安心できる場所になっている」とまとめた。
「メタバース登校」による支援を提供しているカタリバで不登校支援事業推進リーダーを務める瀬川知孝さんは「オンラインにはオンラインの良さがある。自宅から出られなくて、自室で毎日ゲームをやっている子供にとっては、物理的にアクセスしやすく、メタバースならではの安心感がある」と、メリットを説明した。
カタリバの今村久美代表理事は「なにか一つの方法が全てではない。一人一人を大切に考えることが不登校対策ではとても重要になってくる」と指摘した。
片岡校長は「不登校の子供に対しても、対面には対面の良さがあるし、オンラインにはオンラインの良さがある。ぱれっとルームは『心の保健室』として、学校生活の中で何かの理由でパニック状態になった子供がクールダウンできる場所だと思う。保護者から『子供が、先生はどうして自分のためにこんなに一生懸命やってくれるんだろう、と言っている』との感想がきたことがあった。学校が一人一人の子供を大切にしているという気持ちは、ちゃんと子供に伝わるのだと思う」と、不登校対策の効果を説明した。
永岡文科相は「すごく参考になる取り組み」と評価した上で、「不登校になった理由をどのように分析しているのか」「家庭に対しては、どうサポートしているのか」と2点を質問した。
これに対して、笠井教諭は「学校に不安を感じている子供に対しては、その子の『苦手』がどこにあるのか、それを理解することを大切にしている。不登校の原因はそういう『苦手』にあることが多い。例えば、算数が苦手なら、その苦手なところを把握し、同時にできるところもいっぱいあることを把握する。それを理解して子供に接していく。家庭に対しては、その子の『苦手』を伝えると同時に、できることも伝える。そうやって、その子の『苦手』ではなく、できることをみることで家庭と連携し、サポートしていくことが多い」と、現場の実感を込めて答えた。
戸ヶ崎教育長は「そうした情報を共有していくために、ケース会議が重要になっている。一人の子供を学校の全ての教師で見つめ抜いていくことを心掛けている。ケース会議では教育データや福祉関連のデータも踏まえ、以前にその子の担任だった教員の意見や、家庭の状況などを考えながら、全ての教員がその子のことを知っていく。これによって、不登校の原因も分析できていくし、家庭にどのようにサポートしていくべきかもみえてくる」と説明した。
最後に、永岡文科相は「room-Kに参加している子供たちはゲーム感覚があるようで、とても楽しそうだった。オンラインを含め、一人一人の子供に合った支援が(不登校対策に)効果を上げていることがよく分かった。こうした試みを全国に広げていきたいという気持ちは文科省全体が持っている」と議論をまとめた。