今後5年程度のこども・若者施策の基本方針となるこども大綱の策定に向けて議論を進めている、こども家庭審議会の基本政策部会は7月13日、第4回会合を開いた。こども大綱に盛り込まれるライフステージごとの基本的な施策の検討に着手し、「幼児期まで」と「学童期」「思春期」について委員間で意見交換を行った。特に学校教育について触れられている学童期では、複数の委員から学校の役割の見直しを問う声も上がった。
こども大綱の基本的な施策に関しては、こども家庭庁の設置前から政府内で立ち上がっていた「こども政策の推進に係る有識者会議」の報告書を踏まえ、①幼児期まで②学童期③思春期④青年期⑤各ライフステージに共通する事項等――と、原則としてこども・若者のライフステージに沿って、各種施策を整理する方針が示されている。この日の会合では、前半の①~③を中心に各委員が意見を述べた。
「幼児期まで」では、太田聰一委員(慶應義塾大学経済学部教授)が「大きな問題として、こどもが命を永らえるのが難しいという状況は虐待で生じている。これはどのライフステージでも共通だが、特に0歳時の死亡が多いことを考慮すると、こちらにより明確に書いておく必要がある。そういう悲劇から幼児の命を守るということを前面に出してはどうか」と、虐待防止の観点を強調すべきだと提案。
秋田喜代美座長(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)は、別の部会での「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)」の議論を踏まえ、「保育の質について、例えば園庭のない保育所や施設など、必ずしも十分に保障されていないところもある。また、人口減少地域によっては、保育所の廃園・閉園の問題や、産婦人科や小児科の医者がいないこともある。こどもの健やかな育ちを保障するさまざまな場所の質の確保や、医療体制の確保ということが重要ではないか」と強調した。
「学童期」では、学校教育の在り方について、さまざまな委員が言及。貞廣斎子委員(千葉大学教育学部教授)は「学校教育制度はこどもたちの格差を拡大するためにつくりあげたものではないのだが、実際には学校教育が格差を固定化してしまっている側面がある。ぜひ格差を縮小し、社会的包摂を実現するものに転換していく、そういう学校の在り様、教育のありようをつくるということを入れていただきたい」と、学校の社会的機能の側面をより明確に打ち出すことを提案した。
大学生として週に1日程度、小学校に関わっているという谷口和花菜委員(あしなが育英会奨学生)は「(保護者がこどもと十分に関わることのできない家庭もある中で)今の学校はそういったこどもたちに気付ける余裕がないと感じている。配慮や支援をしたいと思っている先生はたくさんいるが、業務量が膨大なあまり、見落としがちになっている」と、教員の業務負担軽減の必要性を指摘した。
また、矢島洋子委員(三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員・主席研究員)は「学校の先生方に今の在り方を前提に、さらに何かを求めるのは無理な状況に来ている。公教育の在り方を再生という視点で見直すことが大事だと思う。こどもがストレスなく学校に通えて、前向きな気持ちで学ぶことができるという、最低限の条件を満たせていない。それを満たすことに先生が注力できるように、公教育の再生という視点を入れてほしい」と、学校が抱えている業務の根本的な見直しを求めた。
いじめ・不登校対策や自殺対策、心身の健康に関するケアの充実、ヤングケアラー支援などが盛り込まれる予定の「思春期」では、施策全般を通して、土肥潤也委員(わかもののまち代表理事)が「今出ている思春期の施策が支援施策にとどまっているのが全体的な印象だ。もちろん支援をしていくことは必要ではあるが、結局それでは傷口を塞いでいるだけで根本的な解決にならないのではないか。社会を共につくっていくパートナーや主体として捉えていくという意味では、全てのフェーズにおいて社会に参画していく考え方が盛り込まれるべきだと感じている」と、思春期のこどもが社会参画する視点を入れる必要があると指摘。
松本伊智朗委員(北海道大学大学院教育学研究院特任教授)は「『思春期』のところに書くかどうかだが、経済的理由や家族環境の理由で進路選択が制約されない。これが施策の基本だ。それらによって進路選択が制約されることが、諦めの感覚、自尊心の感覚を損ねるという問題にも強く連動していると思う。公正の観点からも、自尊心の観点からも、経済的あるいは家庭的な環境で進路選択が左右されないということを、まず大きな方向として出すべきだ」と述べた。