【いじめ防止法10年】先生を孤立させてはいけない 山田太郎議員

【いじめ防止法10年】先生を孤立させてはいけない 山田太郎議員
「いじめ問題こそ、こども家庭庁の性格を機能させなければならない」と訴える
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 いじめ防止対策推進法の成立・施行から今年で10年を迎える。いじめを定義し、学校や教育委員会の組織的な対応を求めた同法の下で、いじめの認知件数は大幅に増えた。一方で、重大事態への不適切な対応や、学校現場の負担など課題も指摘されてきた。今年度からはこども家庭庁が設置され、学校外を含めたいじめ防止を担う、重大事態の情報を文科省と共有する、必要に応じて文科省に勧告を行うといった役割を担うことになった。北海道旭川市での中学生のいじめ・凍死事件などに関心を持ち、こども家庭庁が設置される過程で、いじめ防止対策を同庁の所管に加えるべきだと訴えてきた自民党の山田太郎参院議員に、これまでのいじめ防止対策の評価と課題、これからの在り方を聞いた。

こども家庭庁の役割は「横割り」の打破

――今年度から文科省だけでなく、こども家庭庁も連携して、いじめ防止対策に取り組むことになりました。

 昨年末まで、こども家庭庁がいじめ問題に対して責務を負う規定はありませんでした。文科省は学校現場に他省庁が踏み込むことに対して慎重でしたし、政府としてもこども家庭庁がそこまで手を突っ込むことを躊躇(ちゅうちょ)していました。しかし、私はいじめ問題こそ、こども家庭庁の性格をきちんと機能させなければならない分野だと考えていました。

 そもそもこども家庭庁を作る意義は、省庁の「縦割り」以上に、「横割り」の問題を何とかすることにありました。文科省、都道府県・市区町村教委、そして各学校という構造がある中で、あるこどもに重大な問題が起こっていたとしても、文科省は地方自治の尊重などを理由に、個別の事案には立ち入らない姿勢を取ってきたからです。

 今年度からは教育委員会に対し、いじめの重大事態について、文科省に報告・相談するよう協力を要請しており、文科省はその情報をこども家庭庁と共有することとしています。文科省・教育委員会・学校のラインとは別に、こども家庭庁が個別の事案について把握し、文科省などの対応が不十分であれば勧告権を行使することができるようになったことは、いじめ防止対策において、非常に大きいことだと思います。

――いじめ防止対策推進法の成立・施行から10年。どう評価しますか。

 認知件数が増え、いじめがあるのだということをしっかり把握するようになったのはよいことです。いじめにきちんと対処し、再発防止にもつなげていく仕組みが一定程度、機能するようになっているということだと思います。

 ただ最大の問題は、いじめの対応を学校任せ、さらに言えば、担任の先生任せにしてしまっていることです。先生自身は何とかしたいと思っていても、経験が浅い場合などはどうしたらよいか分からないし、管理職や先輩に相談しても「それも経験だ」「あなたに任せる」なんて言われることもある。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーも、常に学校にいるわけではありません。「いじめは学級の中で解決するべきだ」という考え方は、改めなければいけないと思います。

 いじめ防止対策推進法第28条では、重大事態調査は学校設置者や学校が行うことになっていますが、それ以外の主体、例えば自治体の首長部局や、こどもたちの訴えをきっかけとして、予備調査のようなことができるようにするなどのプロセスもあってよいでしょう。合わせて、学校外でもSNSや電話で相談できる仕組みをより充実させ、情報を入りやすくするとともに、すぐに対処できるような体制を作ることも重要です。学校現場の先生を孤立させないよう、支援していく必要があります。

専門家の少ない地域でも、調査の「第三者性」を確保する

――いじめ重大事態についての課題は。

 2021年度のいじめの認知件数は61万5351件、それに比べて重大事態は705件と少ないです。本当は重大事態として対処しなければならないケースがもっとあるのかもしれませんが、現実には難しい。重大事態に認定すると、報告や調査など対応しなければならないことが出てきて、大事(おおごと)になってしまうので、できれば認定したくないという学校や教育委員会もありますし、第三者委員会を設置するための専門家やノウハウが不足している地域もたくさんあります。

 小さな自治体では、調査委員会に弁護士などの専門家を呼ぶための予算を確保することも難しく、委員会のメンバーが地元の学校関係者など知り合いばかりになってしまうことがありますが、それでは、調査の「第三者性」が失われてしまいます。

 そこで、重大事態調査を立ち上げる自治体に対し、国が専門家を派遣する仕組みを作る必要があると考えました。それが「いじめ調査アドバイザー」で、こども家庭庁の今年度予算で任命・活用を進めることになっています。これは調査の第三者性の確保という点で、非常に大きな一歩になります。

――重大事態に発展する前の予防や早期対応も大切ですが、学校は多忙です。

 学校が多忙化していて、「こどもに寄り添う時間の余裕がない」という声も聞きます。PTAや地域の協力を求めなければならない時代になってきたのかもしれません。ただ、余裕があればいじめの問題を解決できるのかといえば、必ずしもそうではない。解決策を知っていて、実際にその対応をとることができる、相談する相手がいるといった手段がなければならないのです。

「いじめが起こった時の対応策の選択肢が少ない」と指摘する
「いじめが起こった時の対応策の選択肢が少ない」と指摘する

 日本では、いじめが起こった時の対応策の選択肢が少ないと感じます。「握手をして終わり」では何の解決にもなりません。こどもは同じ場所にずっと固定されていて、先生や学校の経験値に委ねられている状態ですから、人間関係も行き詰まってしまいます。一時的に別のクラスや別の学校に移るなど、環境を変える手段もあってよいのではないでしょうか。そのくらい、ダイナミックに考えていく必要があると思います。

安易な加害者の出席停止は、教育ではなく排除だ

――加害者を出席停止にする措置を、より積極的に使うべきだという意見もあります。

 出席停止の問題は難しいです。こどもの間では、加害者・被害者と単純に分けられないこともあるでしょうし、仮に加害者を出席停止にしたら、反省して突然良い子になるとかといえば、そんなことは考えにくい。加害者のレッテルを貼られたことで、逆にいじめの対象になることもありますし、家庭環境など複雑な背景が潜んでいることもありますから、出席停止の措置については、慎重に考えた方がよいと思います。

 それよりは、環境を変えることを先に考えるべきです。環境を変えても、再発してしまって手の打ちようがないということなら、出席停止もやむを得ないのかもしれませんが、それは学校教育から切り離すという意味ではなく、いったん分離した上で徹底的に面倒を見て、もう一度、社会統合させるという形でなければなりません。

 「加害者を出席停止にしろ」と言うのは簡単ですが、「それは本当に教育なのか」ということになる。排除の発想になってはいけないのです。一部で加害者の出席停止を求める声が強くあるのは、先に話したように、いじめの選択肢が少ないためなのかもしれません。

――これからのいじめ防止対策の在り方は。

 成立から10年がたったいじめ防止対策推進法については、重大事態への対応がよりスムーズに機能するよう、自民党でも一度、関連する部分の見直しについて議論する必要はあると思っています。ただ、こども家庭庁ができ、文科省などとの連携が図られるなど、現在のいじめ防止対策は、この法律だけの問題ではなくなっていることも事実です。

 現在、政府はこどもに関する政策を総合的に議論していますが、その中でもいじめ防止対策は重要なメニューの一つですし、これから策定される「こども大綱」との整合性も必要です。そうしたこども政策のグランドデザインの中で、いじめ防止対策推進法の役割についても、見直すべきものは見直していく。冷静に議論していきたいと思います。

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