来年度の教員採用選考に向けて、モチベーションは確実に上がった━━。教員採用倍率の低下や教員不足を背景に、東京都や千葉県・千葉市などでは、今年度実施の教員採用試験において、1次の筆記試験の一部を大学3年生から前倒しで受けられる取り組みが始まった。東京都では2858人、千葉県・千葉市では739人の大学3年生が志願。7月9日に第1次選考が行われ、実際に受験した大学3年生からは「試験の傾向がつかめた」「来年度の負担が軽減される」と好意的な意見が聞かれた。一方で、「もともと教員になると決めている3年生しか受けない」と、採用倍率の増加にはつながらないとの指摘も上がっている。
東京都では、今年度の教員採用試験から第1次選考の「教職教養」「専門教養」「論文」のうち、「教職教養」「専門教養」を大学3年次に前倒しで受験できる。千葉県・千葉市の教員採用試験(合同実施)でも、大学3年生向けに「ちば夢チャレンジ特別選考」が新設され、第1次選考の「教職教養」「専門教科」「集団面接」のうち、「教職教養」「専門教科」を大学3年次に前倒しで受験できる。いずれも、一定の合格基準に達した場合は、来年度の教員採用選考でこれらが免除となる。
東京都では、大学3年生前倒し選考に2858人が応募。受験者数は8月7日に予定している第1次選考の合否発表と同時期に公表するとしているが、都教委の担当者は「一般選考の全応募者数は9465人で、そのうち新卒は4210人だった。大学3年生の応募者数は新卒応募者の約7割にあたることを考えると、ある程度、周知浸透できたのではないか」と手応えを話す。また、千葉県・千葉市の大学3年生向け「ちば夢チャレンジ特別選考」には全国4会場(千葉県、岩手県、愛知県、兵庫県)で739人が志願、686人が受験した。
東京学芸大学3年生で小学校の教員免許を取得予定のAさんは、東京都の選考試験を受験。「大学3年生で受験できると知ったのは5月」と、かなり準備期間は短かったものの、「試験慣れできるし、受かったら4年次の負担が減るなど、メリットが多い。逆にデメリットは何もない」と受験を決めた。周囲でも「5~6割の3年生が受験していたのではないか」という。
「とにかく時間がなかったので、過去問を中心に勉強した」というAさん。実際に受験した感想を「過去問と比較すると簡単な印象を受けた。周りの受験した3年生も『簡単になったね』という話をしていた」と話した。
同じく東京都の選考試験を受けた千葉大学教育学部で中学校の教員免許を取得予定のBさんは、今年1月に東京都が大学3年生前倒し選考を行うことを知った。「準備期間が短いので、最初は受験するか迷った。周りの子たちも同じように悩んでいて、みんなで話すうちに、受験のチャンスが増えるし、雰囲気を知ることができると思ったから、受けることを決めた」と話す。
2月には参考書などを買い始めたものの、春休み中はなかなかモチベーションが上がらず、勉強し始めたのは4月に入ってからと明かす。「3年生は授業も多いし、ゼミもスタートする。部活動やサークルでも中心的な存在となる学年なので、正直、忙しくてなかなか採用試験の準備にしっかり時間を取ることは難しかった」と振り返る。
準備不足を感じながら臨んだ試験当日は「意外とできたと感じるものもあったし、都独自に取り組んでいることなど、知らないこともあった。ただ、こういうことを勉強しておくべきだと見通しもついたし、今年駄目だったとしても、来年はちゃんと勉強して挑みたいと思った。来年度に向けてのモチベーションは確実に上がった」と強調する。
Bさんの周りでは「3割程度が受験したのでは」と言うが、「受けたくても、自分が目指す自治体は3年生受験をやっていないから受けられない人もいた」と話す。「地方出身で地元の自治体での教員を志望している人たちは、もし3年生で受験できるとしても交通費などの関係もあり、迷う人もいると思う。帰省しやすいタイミングの大型連休などに試験があると、受けようか迷っている学生も受験しやすくなるのではないか」と指摘した。
千葉県・千葉市の選考試験を受験した千葉大学教育学部で中学校の教員免許を取得予定のCさん。「4年生になって一発勝負で受けるよりも、チャンスがあるならば早めに受けたかった。どのぐらいのレベルなのかを体感しておけば、もし駄目だったとしても、1年かけて準備ができる」と話す。「ちば夢チャレンジ特別選考」新設が公表されてすぐに勉強を始めたが、千葉大学では3年次の前期から教育実習も始まるため、「まとまって勉強する時間はなかなか取れなかった」と明かす。
過去問で傾向を掴んで挑んだ本番では、ある程度の感触は得られたと言い、「勉強の仕方もなんとなく分かった。結果がどうであれ、来年度の試験は勉強のやり方が分かった上でスタートできるので、そこは大きな強みになる」と強調する。
今回話を聞いた3人は、全員が「教員になりたい」という強い希望を持っていた。そのため、大学3年生での前倒し受験については「メリットしか感じなかった」という意見で一致していた。ただ、この取り組みによって教員採用倍率が増えるかを問うと、3人ともが「それはないと思う」と答えた。
Cさんは教員養成課程で学ぶ大学生の状況について「就職するか、教員採用試験を受けるか迷っている3年生は多い」と打ち明ける。Bさんは「本当に教員になるという気持ちがないと、大学3年生では受けない。千葉県を受けた友人は出願で志望理由を書かなければならず、その対応も大変そうだった。気持ちがついてこないと難しいのではないか」と話す。また、Aさんは「採用試験うんぬんよりも、教員の働く環境を良くしてくれる方が、教員志望者は増える。岐阜県などが始めた奨学金返済の補助なども、魅力に感じる学生は多いと思う」と指摘した。