中教審の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に設置された「義務教育の在り方ワーキンググループ」は7月18日、第7回会合を開き、有識者のヒアリングを行った。その中で信州大学の伏木久始教授が、「日本型学校教育」の特色を国際的視野から捉え直すため、フィンランドの学校教育の実情を紹介。教室の環境や子供たちの学び方に関して、教員に大きな裁量が与えられていることが教員の意欲を高めている一方、責任が大きく、学習指導要領の深い理解が求められる側面もあると語った。その上で、日本でも「教員の個性的な実践を許容した上で、必要に応じて教員が協働的に取り組めるチームを作ること」などを提言した。
伏木教授は冒頭、他国の事例は「地理的・歴史的背景や社会制度・教育理念などとの因果関係を踏まえて議論すべき」だと注意を促した上で、フィンランドでは「地下資源も農産物の生育条件にも恵まれないエリアなので、人が資源だという考え方が古くからあり、特に社会福祉国家型の政策が進められるようになってからは、『一人も取り残さない』という社会保障理念が浸透している」といった背景を説明した。
その上で、同国の学校制度では、国、地方自治体、学校長、教員の間で信頼に基づくマネジメントがなされており、教員の裁量に委ねる実践が強みとなっていると紹介。教員は教室のレイアウトや学習材を自由に配置したり、学び方をアレンジしたりできるといい、伏木教授は「教員に与えられている自由裁量が、新たな実践への挑戦意欲や、学び続けるモチベーションを高めている」と語った。
また「教員は個人の裁量が認められているので、自分なりにカリキュラム・マネジメントをする。日本の『総合的な学習の時間』に当たる時間や、プログラミング学習は必修だが、独立した授業時数の配当がないため、例えば国語と社会と音楽の時間を使うといった形で、年間で必要な時数をおおむね担保している」と紹介した。
さらに「国の学習指導要領は日本の数十分の一の厚みのものだが、各自治体がそれに合わせてもう少し細かいものを作っていて、教員はそれがほぼ完璧に頭に入っている。検定教科書はなく、教科書をなぞって授業をする教員は見たことがない。教員は日本でいう『単元』のスパンで、何を身に付けさせたいか、徹底的に教材研究をしている」とも説明した。
その上で、伏木教授は日本の教育が目指すべき方向性として「教員の高い労働生産性を発揮していくために、年齢や性別、上下関係を超え、職場の心理的安全性を高め、教員一人一人に裁量を与えていくこと」「教科書解説型の一斉授業や標準テストによる評価、学年でそろえようとする横並び教育を見直し、教員の個性的な実践を許容した上で、必要に応じて教員が協働的に取り組めるチームを作ること」――といった方向性を提言した。